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ジャンプ+編集部が海外向けに自ら漫画アプリを展開する理由

こんにちは。ジャンプ+編集部のモミーです。

日本からは見られないのでご存知ない人もいると思いますが、集英社は3年前から「MANGA Plus by SHUEISHA」(以下、MANGA Plus)という海外向けの漫画配信サービスを始めました。

プレゼンテーション1
ジャンプ各誌の最新話を、日本と同時に全世界・多言語で読めるようになりました。

その「MANGA Plus」は実はジャンプ+編集部が直接運営しています

ほとんどの出版社では、漫画の海外展開は、編集部ではない部署(海外出版ライセンスの部署)が中心に担当しています。

編集部はまず人気漫画を生み出すのが担当。そして海外出版ライセンスの部署が、いろんな国の会社から各漫画を出したいとオファーを受け、許諾をして、現地で海外翻訳版が出版・配信される。それが一般的な仕組みだからです。
(そして、その仕組みで多くの作品が世界各国で出版・配信され 読者に購入してもらい、売上をあげてきました)

なので、「MANGA Plus」を始めてから、多くの人に「何で編集部が海外展開を直接やっているんですか?」と聞かれてきました。

しかし僕は、むしろ“編集部だからこそ「MANGA Plus」は運営すべきサービスだ“と考えています。

漫画家さんや日本を含む世界中の読者にとって、大きな役割を果たせる可能性を感じています。

今回のnoteでは、その理由や狙いを紹介していきます。
少しわかりにくいかもしれないので、長文になりますが順を追って書いていきたいと思います。

■まず、漫画の海外市場は今後みんなの想像以上に大きくなる。

はじめに、そもそも海外市場は今後いま以上に大きくなる、という話から始めます。
漫画の海外展開は可能性ありそうだよね、と「何となく」思っている人は多いと思います。
業界内の人でもそれくらいな認識の人は少なくないと思います。

しかし僕は、漫画事業にとって海外展開は、遠くない将来「決定的に重要になる」と考えています。

まず現状、日本の市場に比べて、海外で漫画はどれくらい売れているのでしょうか。

海外の漫画市場規模を測るのはなかなか難しいのですが、2年前の講談社さんの記事を参考にさせていただくと…

日本は約4,400億円、海外は合算して約1,000億円弱

https://news.kodansha.co.jp/8076


つまり、全体の2割弱くらいが海外市場ということになります。

「ONE PIECE」の累計発行部数で言うと、昨年の段階で国内が4億部以上、海外が9000万部突破 (凄い)。
こちらでも2割弱が海外ということになります。

すでに、結構シェアとしては大きいですよね。

そしてここ数年、更にものすごい勢いで売上が伸びています。(国内も伸びてますが)。
集英社の漫画の2021年の海外売上は、前年に比べて2倍近くに成長しそう と風の噂で 聞いています。
ジャンプ+の人気作品「怪獣8号」第1巻はフランスだけで何と初版25万部を発行しました(フランスでは1冊6.99ユーロ 、つまり約900円です。それなのに1巻目でいきなり初版25万部は驚異的ですね)。
同じく人気作品の「ダンダダン」は、こちらもフランスですが、集英社史上、破格の条件で現地出版社にライセンスしたと聞いています。

それは漫画家さんにとっても、海外からの印税・収入の比率がとても大きくなりつつあることを示しています。
僕は約10年前から、ジャンプ×デジタルの仕事に携わっているのですが、10年前のデジャブのように感じます。
当時の「何となく電子書籍が大事になってくるよね」という雰囲気。
その後、電子書籍は、ご存知の通り10年で「何となく」ではなく「決定的に」重要になりました。

きっと10年後、国内と海外の売上の比率は5:5くらいになるのではないかと、僕は予想しています。

■昨今、アニメ化を果たすには、海外人気が重要になってきた。

海外で漫画の売上が伸びている大きな理由として挙げられるのが、NetflixやCrunchyrollなど動画配信サービスの普及によるアニメ視聴の広がりです。

そして、アニメに関しては実は昨年すでに、海外市場が国内市場を上回っています。

これは、「アニメ化を果たしたりアニメ放送・配信を続けるためには、海外人気が重要」になっていることを示しています。
アニメを制作し続けるためには、当たり前ですが、お金が必要です。
そのビジネスの市場が海外の方が大きいのであれば、海外で売れそうな作品にアニメ化の声がかかるのは当然ですよね。

最近、アニメ事業を行なっている各社から、目星をつけてもらっている漫画について「MANGA Plus」での人気を聞かれる機会がとても増えました。
昔から、アンケートの調子や、コミックスの部数を聞かれることはよくありました。
今では、その漫画がアニメ化した時に海外で人気が出そうかを図ろうと、「MANGA Plus」にヒアリングされているのだと思います。
(「MANGA Plus」では、海外でまだライセンスしていない新しい作品も、日本と同時に複数言語で全世界で連載・公開しているため、データを取ることができます。)

国内で各漫画の人気を拡大するためには、アニメは大きな役割を果たします。
そのアニメ化を達成するために、すでに海外人気が重要になっているわけです。

■漫画雑誌の役割・価値は新しい漫画を世に届けること。

ここまでは、海外は大事と言うだけで、今回のnoteのお題である「編集部がなぜ直接運営するのか」の答えにはなっていません。
ここからようやく、なぜジャンプ+編集部が海外展開に直接携っているのか、その理由に近づいていきます。

僕は、ジャンプ+編集部(週刊少年ジャンプ編集部)に所属していますが、漫画編集部、そして漫画編集者の最も大きな役目は、「新しい面白い漫画を世に届ける」ことです。

面白い人気漫画を生むためには、漫画家さんや編集者の個々の力はもちろんですが、「ジャンプ+」や「週刊少年ジャンプ」といった漫画雑誌の機能が大きな役割を果たします。(それについては以前noteで書きました。詳しくは、下記をご覧ください。)

一言でまとめると、漫画雑誌は「作品を生み、読者と共に育て、広げる」機能・役割を持っています。

8年前、僕たちはインターネットやスマートフォンの普及、技術革新により、「WEB上」でも漫画雑誌を運営することで、更に新しく面白い漫画を世に届けられるのではと考えました。
そして「ジャンプ+」を創刊しました。
結果、「ジャンプ+」から、読者と共に育ち広がった、多くの人気漫画が生まれました。

「MANGA Plus」も同様です。
インターネットやスマートフォンの普及、技術革新により、「海外」でも漫画雑誌を運営することができる時代になりました。

「紙からデジタル、そして海外」と、漫画雑誌の対象を拡大することで、更に新しく面白い漫画をジャンプは世に届けられるのではと考えています。
それが「MANGA Plus」の狙いです。

つまり、「ジャンプから生まれた人気漫画を、海外にも輸出」ではなく、「ジャンプという仕組み自体を全世界に対象を拡大し、更に新しい面白い漫画を世に届けたい」と考えました。
作品を生み読者と共に育てヒット作に育てる漫画雑誌の役割を、「MANGA Plus」によって、「ジャンプ+」は更に果たすことができるのではと、未来に可能性を感じています。

■編集部が自ら海外向けに漫画アプリを展開する理由とは?

日本国内では、漫画雑誌も単行本の出版・配信も、出版社が直接の事業として行なっています。
一方、これまで海外は、出版社が直接行うわけではなく、各国の会社にライセンスをして、そのライセンシーに出版や配信を行ってもらうケースがほとんどでした。

漫画を海外で売ることについて、このモデルは大きな成果を上げ続けています。

しかし、「漫画雑誌」の機能という意味では、どうでしょうか。
「作品を生み、読者と共に育て広げる」機能を持つ漫画雑誌のその実例を一部挙げてみます。

・読切掲載などの投資をして新しい作品や才能を試し育てる。
・漫画家と編集者とが打ち合わせを重ねて作品のクオリティアップに努める。
・アンケートなど読者から集まるデータを、新作や連載の制作に活かしていく。
・人気漫画を目当てで訪れた読者に新連載を読んでもらい新たな作品を発見してもらう。

これらは日頃、どの編集部でも漫画雑誌を基点に当たり前に行われていることであり、とても重要な役割を果たしてきました。

海外で漫画雑誌を運営するということ。
それは、これらを編集部が海外でも自ら行うということです。

それが編集部が直接漫画アプリを海外で展開する狙い、の答えです。

■「MANGA Plus」の現状と課題。

「MANGA Plus」の現状を最後に少し紹介していきます。

読者の数は、MAUでいうと500万人です。(アプリとWEBを足した数)。
(ちなみに、国内のジャンプ+は多い月は1000万人を超えます。)
いつか、国内と海外の読者を足して1億人を超えることを目指したいと思います。

現在対応している言語数は7言語。
英語、スペイン語、タイ語、インドネシア語、ポルトガル語、ロシア語、フランス語です。
ジャンプ+の日本語も加えると8言語になりますね。
人気漫画は多くの言語で全世界(一部国・地域は対象外)で日本と同時に最新話を読むことができます。

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ONE PIECEは日本語以外に6言語で更新しています。

海外からの出版や配信のオファーの昨今の活性化の理由の一つとして、「MANGA Plus」の存在があると海外ライセンスの担当者から言われたこともあり、少しずつ役割を果たし始めています。

また、海外からの実写映像化を、日本で単行本が出る前の作品についてヒアリングされたケースもありました。なぜその作品を知ったのか聞いたところ、それは「MANGA Plus」でした。
一般的に、アニメになると海外ではその作品の知名度が上がる傾向が顕著だと言われます。
しかし、「MANGA Plus」では新連載や連載初期から編集部の意思で全世界で外国語版を連載することができます。その結果、アニメがないのに海外で高い人気・知名度を誇る作品もたくさん生まれて来ています。

しかし、課題もいろいろと感じています。
全世界で「作品を生み、読者と共に育てる」役割を果たす挑戦は、まだ一歩足を踏み出しただけに留まっています。

まず集英社では、これまで海外を対象に直接事業を展開したりサービスを運営したことがほとんどありません。
デジタルの最新技術やノウハウ、そして海外で自ら事業を行う知見や経験。
それらが不足していると感じています。

そこで、僕たちジャンプ+編集部は「ジャンプ・デジタルラボ」という窓口で、漫画を創出するための各種デジタル展開に協力してしていただける方との出会いを求めています。

ジャンプ+の海外展開は、何十年以上も面白い漫画を輩出し続けてきたジャンプという漫画雑誌を、今後の時代でも、漫画家と読者のために、よりその役割や機能を大きく果たし続けるための挑戦の一つです。

海外展開も含めた様々な「ジャンプ+」の挑戦に協力してもらえる方、そして、技術や知見、アイデアを持つご興味のある方がいらっしゃったら、ぜひご応募をお待ちしています!