マガジンのカバー画像

エッセイ:大ちゃんは○○である

74
大学時代~役者を経て介護業界に飛び込み、現在までを綴るエッセイ。
運営しているクリエイター

#オーディション

エッセイ:大ちゃんは○○である59

エッセイ:大ちゃんは○○である59

所属していた事務所まで赴き、マネージャーに退所の意思を伝えると、
「飲みに行くぞ。」と言われ居酒屋で数時間二人っきりで話をした。
一人で十数人を管理してくれていた年配のマネージャーで、
顔を突き合わせてゆっくり飲みながら話すなんて機会はほとんどなかったので、
ある意味新鮮な時間だった。
思えばこのマネージャーには本当に色々なことを教えてもらった。
役者としての心構えから、私生活においての意識の在り

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である57

エッセイ:大ちゃんは○○である57

例えば、映画の仕事が決まって
「1週間スケジュールを空けておいてくれ。」と言われ撮影に臨んでも、
貰えるギャラは数千円だったりする。
急に入ったりするオーディションやビデオドラマの撮影等でバイトに行けない日も多くなってきて、
収入面ではかなり厳しくなっていった。
こうなると食費を切り詰めるしかなくなってくる。
食事は水で溶いた小麦粉を焼いたものか、
もやし炒めだけの日々が多くなっていった。
意識せ

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である51

エッセイ:大ちゃんは○○である51

受けたオーディションの数は数えきれない。
本当にたくさんのオーディションを受けたし、
数えきれないくらい落とされた。
オリジナルビデオ・映画・時代劇・ドラマetc 。
行く前はいつだって自信満々で、
『落ちるわけない』と思って臨むのに
なかなか結果に結びつかない日々。
オーディションの受かり方なんて分からないから
とにかく監督の印象に残ることだけを考えて、試行錯誤の繰り返し。
何十人、何百人と役者

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である50

エッセイ:大ちゃんは○○である50

半年間のレッスンが終わり、最終日の審査の結果、
僕は事務所に残ることができた。
所属という形になったのだ。
当初、事務所に所属になると決まった時、僕は完全に浮かれきっていた。
『これでようやく芸能人の仲間入りだ』と。
所属タレントとなったからには、専属のマネージャーさんがつき
僕のことをガンガンガンガン売り込んでくれて、
バンバンバンバン仕事をとってきてくれるものだと思い込んでいたのだ。
『端役で

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である38

エッセイ:大ちゃんは○○である38

全員の視線が一斉にその講師の男に向かったかと思うと
まるで息を合わせたかのように一人一人がすっくと席を立ち
「おはようございますっ!」
と大きな声で挨拶をした。
自分も含めてではあるが、見事なもんだなと思った。
全員が同じ気持ちで同じ行動をとったことに対してだ。
どの世界にも共通していることではあるが挨拶は本当に大事だと思う。
気持ちのよい挨拶に不快感なんてあろうはずがないし、
礼に始まり、礼に終

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である37

エッセイ:大ちゃんは○○である37

プロダクションのレッスンは半年間のスケジュールになっており、
メニューとしては、演技レッスンとボイストレーニングがメインだった。
オーディションに合格したといっても、この半年間のレッスンの中でさらに脱落者が出るという。
半年後、事務所サイドに難しいと判断された者は
所属には至らず、去らなければならない。
合格者として集められたのは、僕を含め12人だったと思うが
あくまでこの12人はレッスンスタート

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である34

エッセイ:大ちゃんは○○である34

実家から京都の下宿先に戻ると、郵送物が届いていた。
それはオーディションを受けたプロダクションからだったもんだから
「えっ。まじで!?」と
封を切る前なのにガッツポーズが出た。
部屋に入る前だったのに、周りに人がいるかどうかも確かめず
興奮して、鼻水が左右にこんにちはしながら大きな声を出してしまった。
「やっっったっ!!」
担当者は合格した方のみに連絡をすると言っていたので、
この封筒が届いたとい

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である30

エッセイ:大ちゃんは○○である30

声が震えていたかどうかは定かではないが
精一杯の自分をアピールし、持てる自分を出し切った。
詩の朗読でも、台本の読み合わせでも手応えを感じたし
『合格したな』とこれまた根拠のない確信を勝手に持っていた記憶がある。
退室し、ビルの外に出た時には夕方になっており
西陽を全身で浴びながら、東京の空気を身体いっぱいに吸い込んだ。
立ち並ぶビル群に目をやりながら、間違いなく夢の一歩を踏み出したんだという実感

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である29

エッセイ:大ちゃんは○○である29

オーディションは順調に進んでいった。
「誰よりも大きな声が出せます。」と言って
いきなり大声を出す者。
自作の歌をアカペラで歌い出す者。
「特技は重いものを持ち上げることです。」と言って
「今僕はとても眠たいので重たい瞼を持ち上げます。」
と目をパッチリ開けて審査員を笑わせる者。
出てくるなりバク宙を披露しようとして失敗する者。
本当に様々な個性が暴れ回っていた。
詩の朗読や台本の読み合わせについ

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である28

エッセイ:大ちゃんは○○である28

高橋一也は「はいっ!」と大きな声で返事をして前へ出た。
黒の皮ジャケットを羽織り、黒の皮パンツ。
全身が黒一色に包まれ、シルバーのアクセサリーをじゃらじゃらと身につけた小柄な男だった。
「では、自己紹介、自己PRからお願いします。」
「高橋一也、24歳です。自衛隊に所属していたこともあり、体力・気力だけは誰にも負けません。
反骨精神を持って、ロックに生き抜いてやろうと思ってます。
好きな映画はバッ

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である27

エッセイ:大ちゃんは○○である27

「おはようございます。本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
開始時間になり、扉が閉められ、スタッフの方の挨拶が始まった。
最終的に書類選考通過者50名程はいただろうか?
先にも書いたように根拠のない自信はみなぎっているのに、なぜだか周りにいる人間が皆すごい人達なんじゃないかと思えてくる。
何を見たわけでも、何を聞いたわけでもないのにだ。
僕は緊張の糸を切

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である26

エッセイ:大ちゃんは○○である26

事務所オーディションは浅草にあるビルの一室で行われた。
会場の入り口に近づくと、付近は熱気に包まれており、元々纏っていた緊張感がさらにグッと増していく。
受付には事務所スタッフと思われるスーツ姿の男性1名、女性1名がおり、来場者に1人づつ案内をしていた。
僕が行くと先に到着していた4人のライバルが並んでおり、スタッフの方から順に説明を受けていたので、僕もその4人の後ろに並び、受付の順番が来るのを待

もっとみる