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エッセイ:大ちゃんは○○である50

半年間のレッスンが終わり、最終日の審査の結果、
僕は事務所に残ることができた。
所属という形になったのだ。
当初、事務所に所属になると決まった時、僕は完全に浮かれきっていた。
『これでようやく芸能人の仲間入りだ』と。
所属タレントとなったからには、専属のマネージャーさんがつき
僕のことをガンガンガンガン売り込んでくれて、
バンバンバンバン仕事をとってきてくれるものだと思い込んでいたのだ。
『端役ではあるけど、ちゃんとセリフもあって役名もあるぞ。ここで爪痕残していこう。』
『この前の監督さんがお前のこと気に入ってくれたみたいで、また使いたいって言ってきてるよ。』
『主役の親友の役で話がきた。これはチャンスだぞ。』
『大手食品メーカーのCMが決まったぞ。やったな。』
こんな感じでトントン拍子に売れる為の階段をかけ上がっていくもんだと
本気で思っていたもんだから、思い込みというか勘違いというのは怖い。
売れてから考えるのでは遅い。
街でサインをお願いされた時の為に、サインだってめちゃくちゃ真剣に考えていた。
今でも当時考えた3種類のサインは、「サインお願いできませんか?」
と言われれば、ノートの切れ端だろうが、本の栞にだろうが、割り箸の袋にだろうが、
スラスラーっと書ける。
「これでいいかな?」なんてドヤ顔で言えちゃうぐらいに、スラスラとね。誰にも言われないのにさ。
恥ずかしい恥ずかしい。
ただ、もちろん無名のド新人にマネージャーさんが仕事をとってきてくれるなんてことはない。
オーディションを受け、ライバル達を蹴落とし、一つ一つ役を勝ち取っていかなければならない。
所属となってからは、理想と現実のギャップにもがきながらも
走り続ける日々が始まった。

つづく

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