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散文詩

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#愛

水と風の音 《詩》

水と風の音 《詩》

「水と風の音」

遠い昔 

僕等は静かな森の中で

ひっそりと約束を交わした

非現実的な永遠のお伽話

僕は水の音を聴き 

君は風の音を聴く

水面に波紋が広がる 
でも其処に水は無い

木の枝が擦れた様な音がした
でも風は吹いていない

僕等は文化的スラムな街に生まれ

幻想の中の森で出逢った

僕が瞳を閉じ 君が眠る時

水と風の音を聴く 続いている

何もかもが続いている

到着点を示

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2024 第8病棟 《詩》

2024 第8病棟 《詩》

「2024 第8病棟」

2024度目の世界に立ち尽くす僕は

瓦礫に巣を喰う黒鼠の夢を見る

神様どうか御加護を下さい 
救いを下さいと囁きながら

其処に神が居るのなら祈るさ

迷える子羊を助けて下さいと

大地を引き裂いた断末魔 

欲に駆られた灰色の背徳

燻んだ瞳で何を見る

誰一人として聞こうとはしない

隣の人の泣き叫ぶ声

知らぬが仏 
馬鹿が原色を着飾り尻を振る

国際的な都市に

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夏霞 《詩》

夏霞 《詩》

「夏霞」

大義名分とか 不変の真理とか

価値観の錯乱とか

閉塞した状況にある抜け道だとか

浮浪者の様に貪り酒を煽り

深夜に台所のテーブルで
詩を書き続ける事だとか

赤子を抱いて
子守唄を歌う反社の女だとか

永遠に失い続ける宿命だとか

人生における
正常な軌道から ずれ始めた事だとか

確かあれは三日前 

空から綺麗な星が落ちて来た

その時 始めて知ったんだ

幻想に似た夏霞

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有り余る余白 《詩》

有り余る余白 《詩》

「有り余る余白」

不自然な程の有り余る余白

形容詞の選び方や句読点の打ち方が

何処か微妙に
ずれた文体の中に僕は居る

世間とは外れた場所で

僕の中の何かが進行している

少数者の為にある様な文章を好んだ

其れを読む人間なんて
ほとんど居ない

誰かが僕に占いを信じますか 

そう聞いて来た

僕は即座に興味は無いとそう答えた

其処に並べられた 

とりあえずの道具に

特別な価値と力

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悪魔と青く深い海のあいだで 《詩》

悪魔と青く深い海のあいだで 《詩》

「悪魔と青く深い海のあいだで」

その水は何処までも
透明で純粋だったんだ

それを知る者は誰も居ない

灯りすらない夜の闇 

誰かの足音

くだらない
辻褄合わせに僕等は泣いている

銃声の音が聴こえますか

また大切な何かが失われて行く

知らぬ間に

目隠しをしていた愛の調べ

不釣り合いな恋に

傷付くのが怖かった

水平線の向こうには
花は咲いていますか

僕等の話を聞いてください

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Good Luck 《詩》

Good Luck 《詩》

「Good Luck」

ソファーで猫が眠っている

アメリカンショートヘア

バルコニーから夜の海 

その上に琥珀色の月が輝いて

僕はワインの瓶を静かに開ける 

そんな風景を信号待ちの
サイドミラーの中に描いて

素敵な夜を想像していた

信号は青に変わり

僕はアクセルを踏み込む

時事的で複雑な
定義に溢れた街を走り抜ける

思想性は何処にあるの 

助手席の彼女はそう僕に聞く

多分

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ハイボール 《詩》

ハイボール 《詩》

「ハイボール」

小さいけれど確かな幸せって

人は見逃してしまう

夏の夕暮れの風が心地良かったり

あの娘が笑いかけてくれたり

確か前に 

私は不適切な人間だと 
あの娘は話してた

其れは社会に対してであり 

また自分自身の心に対して

上手くコントロール出来無いんだ 

そう言って俯いた

居場所がわからないと

だったら此処に居れば良い

此処が君の居場所であり
僕の居場所だよ

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ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

「ALL YOU NEED IS LOVE」

時の海の中にひっそりと漂う

今は無き物質と其の記憶が

長く白い砂浜を音も無く歩き続ける

彼女はまだ僕の中で歩き続けている

確か随分前にも君を見かけたよ

同じ時間に同じ場所で

そう 話しかけたかった

微かな波の音が聴こえた

太陽は動かず時間は止まる

時々僕は彼女に出逢う 

ふとした瞬間に

何処か遠い世界にある場所で僕等は
強く繋が

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二人称単数 《詩》

二人称単数 《詩》

「二人称単数」

過去の記憶と現在の感情が

時間軸を隔て まるで違う人物の
二人称の物語を描く様に流れて行く

其れは常に平行しており等価であり 

全てが僕個人に含まれている
欠片だと気が付かない

僕の意志とは無関係な所で

選ばれた事柄が進み

また 

僕の意志とは関係無く失われて行く

其処に居る僕は

揺るぎない確信を探し求めている

この場所に君が
一緒にいてくれたならと

僕は

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車窓 《詩》

車窓 《詩》

「車窓」

限られた目的が
人生を簡潔化して行く

其処には言語化される事の無い

自分自身のルールが存在している

平坦で無個性な街を

行き先表示の無い電車が走る

僕は座席に座り窓の外を見ていた

いったい何処へ行くんだろう

多様な選択肢が目に入り消え去る

時間の進みが早過ぎて 
僕は世界とのバランスを失った

上手く行かないのは

僕のせいじゃ無い

そう 誰にも聞こえない様に呟いた

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誰よりも 《詩》

誰よりも 《詩》

「誰よりも」

街路樹の並木が遊歩道の路面に

くっきりとした涼しい影を落とす

なんだか初夏に似た感じ

誰かがギターを弾いて
歌を歌っている

僕等は海を見ていた 

特に理由がある訳じゃ無い

もしもあるとすれば 

水と波音と其処に吹く風が

僕等にとっては
大切な意味を持っている 

海は太陽の光を受け色や波の形や

満ち引きの速さを変えて行く

鮮明であり曖昧であり  

その輪郭の色

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君を捨てる 《詩》

君を捨てる 《詩》

「君を捨てる」

君を捨てる 

其の傷跡は誰にも見えない

深さや形を変えてなおも
消える事無く記憶の中に生きている

僕は独り君との足跡を辿る

悲しみ 

動揺 

葛藤を含む象徴的な暗号

誰にもわからない様に詩的に変換し
吐露する事

それが唯一の
逃げ場である事を僕は知っていた

斬殺 斬首された風の無い深淵

其処に残された血を

跡形も無く流し去る激しい雨

僕は捨てられ 僕は君を

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破滅の淵 《詩》

破滅の淵 《詩》

「破滅の淵」

僕等は先を急いではいない 

時間がかかるなら 

それでも構わない

空をゆっくりと流れる雲は

広い空の中に
自分の居場所を定めている

何処か遠くで

誰かが誰かを呼んでいる

僕等は世界でただひとつの

完結した場所に辿り着く

何処までも孤立し誰も入れない空間

其処には差し出すものも
求めるものも無い

沈黙のうちに過ぎる時 

だけど孤独に染まる事は無い

彼女は僕の

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静脈 《詩》

静脈 《詩》

「静脈」

時間が不規則に揺らぐ

僕が心の中の牢獄に

閉じ込められている事を

誰も知らない 

其の牢獄を出る事は 簡単だ

自分自身の意志で出てゆけば良い

鍵をかけたのも
鍵を開けるのも全ては自分自身

周りの声達は

もう僕に話しかける事を辞めていた

僕は誰にも

見る事の出来ない風景を睨みつける

其処には枯渇した水脈がある

僕が解き明かすべき暗号を
君は持って居る

現実と仮説

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