マガジンのカバー画像

ゆっくり読みたい創作大賞記事

98
時間のあるときに拝読させていただきます!
運営しているクリエイター

#小説

夢と鰻とオムライス 第1話

夢と鰻とオムライス 第1話



 飛んできたのは五百円玉だった。
 よりによって一番攻撃力の高そうな硬貨の側面が、俺の眉間に命中したのだ。
 鋭い痛みが目頭から眼球の裏へと伝わり、泣きたくもないのにじわりと涙が滲んだ。
「いってぇ……」
 俺は両手で目を覆い隠した。痛みのせいで勝手に湧いてきた涙をそれとなく拭って、顔を上げる。

「なにすんだよ!」
 渾身の力を込めて睨みつけると、ほんの一瞬だけ、兄はうろたえた表情を見せた

もっとみる
花畑お悩み相談所 プロローグ 

花畑お悩み相談所 プロローグ 

プロローグ

 寝る前にスマホを見ないのは、良い眠りのためのお約束だそうだ。
 そう言われましても。若い頃からずっと夜型で、寝室へ向かう前に最後のメールチェックをしてしまう。退職した今でも、その習慣は変わらない。富原律子は老眼鏡をかけると、スマホの画面をタップする。
 深夜のリビングに、かすかな金属音が届く。家の前の空き地に、マンション建設が始まっていて、今夜は突貫で電気工事をすると知らされていた

もっとみる
《創作大賞2024:恋愛小説部門》『友人フランチャイズ』第1話 白花色 0.5〜

《創作大賞2024:恋愛小説部門》『友人フランチャイズ』第1話 白花色 0.5〜

◇プロローグ

「次のニュースです。昨夜未明、市内のアパートから男女の遺体が発見されました。取材に対して警察は以前から親交があったとされる医療従事者の女性を第一発見者とし、死因について捜査を進めて参ります。との回答がありました……。では、ここからはスタジオに戻して、この事件で亡くなられた男性について、今日お越しになっております、デザイナーの秋山 海さんとお話をさせて頂ければと思います。秋山さん今日

もっとみる
白雪美香は彼氏ができない!_第1話

白雪美香は彼氏ができない!_第1話



プロローグ

「はぁ、はぁ、はぁっ」

白雪美香は、ぽっちゃりとした白く柔らかな肉体を揺らしながら、福岡市のセントラルパークと言われる大濠公園を走っている。

5月中旬の福岡は夏日になることもあり、今日の気温は25度を超えていた。気温が上がることは白雪美香もわかっていたが、ここまで暑くなるとは予想だにしていなかった。もう夏じゃないか、と白雪美香の荒い呼吸の中にため息が混じる。今更ながら厚手の服

もっとみる
小説「ドルチェ・ヴィータ」第1話(全11話)

小説「ドルチェ・ヴィータ」第1話(全11話)



あらすじ



第1話



「……さちほさん、起きてくださいな……起きてくださいな、朝ですよ」

 細くて甘い声が私の耳元で囁く。寝返りを打つ。あと五分、五分でいいから。

「駄目ですよ、今朝は定例会議があると言っていたじゃないですか、先週もそんなこと言ってて遅刻したじゃないですか、ほら早く起きましょうよ、祥穂さん」

 私の首筋を熱い舌が舐める。くすぐったくて、身悶えする。ざらざらとし

もっとみる
短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

 妹の頭が徐々に大きくなっていく。病気じゃない。
 わかっているんだ。家族の誰もが。だけど何も言えやしない。
 傷ついても、恥ずかしくても、怒っても、どうしたって、妹の頭は大きくなって、その成長を止めることは出来ない。

 (一)

 妹は僕の八つ下で、ぼくにとっては目に入れても痛くない存在だった。だけど、そんな例えですら口にするのも憚られるくらい、妹の頭は大きくなっていた。
その始まりはた

もっとみる
人魚屋敷の脳先生 (第1話/全26話)

人魚屋敷の脳先生 (第1話/全26話)

01

 文机に向かって終日原稿を書いていた。
 あの日から毎日書いている。書き続けている。
 しかし一向に書き上がる気配がしない。
 そろそろ休もうかと思った所に傍らの金魚鉢から彼女が話しかけて来た。
 手のひらに収まるほどの、小さな小さな彼女。
 上半身はひな人形のように整った面立ちの女人である。
 しかしながら、下半身は鮎のような虹色の鱗に包まれている。
 人魚である。
 彼女が揺れるといつ

もっとみる
【あらすじ‐#1】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【あらすじ‐#1】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【創作大賞2024参加作品】#恋愛小説部門

Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民2部構成。全13章、全52話(1話2000文字前後)、12万文字。
連載期間 開始:5月23日  完結:7月13日を予定。
【本編連載】では
 ・web小説にあわせ、段落や改行を多くとっています
 ・ビジュアルあり
  ※【まとめ読み記事】は一般小説に合わせています。内容は一緒ですが  
    段落や改行は通常小説

もっとみる
[小説]テスト・フォー・エコー 第一話

[小説]テスト・フォー・エコー 第一話

あらすじ 映像配信サービスで映画を見ていた田神修一は、その映画に自分と瓜二つの俳優が出演しているのを発見する。茅ヶ崎時夫というこの俳優は芸能活動以外のプロフィールが田神修一とまったく同じであった。田神は同僚との語らいから、茅ヶ崎時夫は実写の人間と同じに見えるコンピュータグラフィックスで作られたデジタルヒューマンではないかと疑う。自分と同じ姿、声を持つ自分よりも有名なデジタルヒューマンの登場により、

もっとみる
小説:当店は9月17日(日)をもって閉店します 1

小説:当店は9月17日(日)をもって閉店します 1

あらすじ

青葉市の大型ショッピングモール『アオモ』南館一階にあるゲームセンター『アミューズパーク』はモール側との契約交渉が上手くいかず、突如として閉店することが決まった。
契約社員になろうとしていた主婦田原、閉店に伴って発生してしまう転校を小6の息子に嫌がられる店長大池、閉店に向かって張り切って仕事をする田原を冷めた目で見ている坪田、『アミューズパーク』へ残留するために店長昇格を断り続けていた友

もっとみる
《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

あらすじ

戊辰鳥 後を濁さず
―つちのえたつとり あとをにごさず―
第一部「釜場」

三月十五日(金)

 農家であり地主であるトキ家の跡取り娘として生まれた私は、二十歳の時、祖父の養子となり、祖父からボロアパートを一棟譲り受けた。
 表向きはトキ家の血を絶やさないためとなっているが、実際は広大な土地を持つ祖父から相続を受けるためである。

 医師が祖父に宣告したおおよそ三年後までに私は相続税と

もっとみる
「雨上がりのアルテミア・愚痴外来診療録」  第1話 VIPな客

「雨上がりのアルテミア・愚痴外来診療録」  第1話 VIPな客

あらすじ どこかの町外れに佇む寂れた診療所、通称「愚痴外来」。宣伝はおろか、看板すらぼろぼろなのに、口コミを頼ってなぜかVIPがやってくる。政治家、芸能人、スポーツ選手、社会に認められた強い存在のはずなのに、みなどこか人には言えない心の闇を抱えている。
 所長の「心山(むねやま)」は一見ぱっとせず、空気の読まない発言で依頼者を怒らせる社会不適合者だが、解析心理学という手法を用いて、本人ですら気づか

もっとみる
「LoOp」第一話

「LoOp」第一話

プロローグ 着信音が聴こえる。……おかしいな、音は消してあったはずなのに……。
 おぼろげな意識で手元を探ろうとすると、とつぜん頭がぐらりと揺れた。ドンとぶつかったような感覚で、次の瞬間、右首に突き刺さっている異物がさらに内側へ捻りこまれる。液体が溢れ出し首筋を濡らす。続いて身体が跳ね上がり意識が分散する。お尻が温かいものにじわりと浸されていき、おねしょをした記憶がよみがえる。
 何か大変なこと

もっとみる
針を置いたらあの海へ 第1話

針を置いたらあの海へ 第1話

しょうしつ‐てん〔セウシツ‐〕【消失点】
遠近法や透視図法における、平行な直線群が集まる点。バニシングポイント。

「たっちゃんさん」は、突如俺の前に現れた。それは、高校中退記念に美容室に行った日のことだった。
 高校サボり開幕記念に髪を伸ばし始めて半年、長めのショートヘアは肩を通り越し、ウルフヘアになっていた。
「長髪似合いますね、ロックバンドのボーカリスト、みたいな」
 美容師さんにそう話し掛

もっとみる