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《創作大賞2024:恋愛小説部門》『友人フランチャイズ』第1話 白花色 0.5〜


◇あらすじ
何処か生きづらさを感じていた美大生、小絲 拓星こいとたくせいの前に現れた、波森 水穂なみもり みずほ

拓星の事を一方的に知っている彼女はある日「これからずっと1番の友達でいるから、その間、1日×30分の時間を私に貯金して」っと拓星に提案する。時間の返済は拓星が契約を解除をした時からのまとめ払い。

そして、拓星は水穂に「僕から契約を解除したら、その時間を使って君を描くよ」っと約束し、結ばれた友人フランチャイズ契約。

しかし、拓星は水穂と過ごしていく中で、彼女のある秘密を知ってしまう。

友人フランチャイズ契約を通した2人の甘くて切なくて苦しい物語が、今ここに始まる。

「おやすみなさい」

◇プロローグ

「次のニュースです。昨夜未明、市内のアパートから男女の遺体が発見されました。取材に対して警察は以前から親交があったとされる医療従事者の女性を第一発見者とし、死因について捜査を進めて参ります。との回答がありました……。では、ここからはスタジオに戻して、この事件で亡くなられた男性について、今日お越しになっております、デザイナーの秋山あきやま かいさんとお話をさせて頂ければと思います。秋山さん今日は宜しくお願いします」

「……。宜しくお願いします」

「……。さぁ、警察の発表によりますと、男性はメディアには一切素性を明かす事なく世界的に活躍されていた謎多き天才画家の小絲こいと 拓星たくせい氏との事で、彼が描く作品は印象派として国内とヨーロッパを中心に根強いファンがいるとの事なのですが、秋山さんは彼の作品をどういった風に捉えていましたか?」

「はい。まず、小絲氏のご冥福をお祈り致します……そして、私は小絲氏の作品にはいつも驚かせられていて、私自身デザイナーになれたのも彼のおかげだと、今でも思っております……。作風に関してですが、世界的には繊細な色彩テクニックとその色彩テクニックを生かした、時間的、空間的表現に対して特に評価が高いと言われています。しかし、私の個人的な感想として小絲さんは白と黒の使い分けが上手く、鉛筆デッサンをさせれば、右に出る人はいないと。……。」

「……。そうですね。私も絵画初心者ながら小絲氏の若い頃の作品で、後に評価された『白花色しらはないろ』や小絲氏が幼少期に描いた作品をインスピレーションとして後に描いたとされている『懇懇鯨こんこんくじら』など制作過程を踏まえて有名な作品で、特に色に特徴的だなっと言う印象を持っているのですが、一方で、去年フランスのオルセーで開催された小絲氏の個展にて発表された『友人フランチャイズ』は小絲氏の作品の中では珍しい鉛筆デッサンで、その場で1億円で落札される所までいったのですが、小絲氏本人が拒否した事により、その話は流れてしまい、それ以降、パリとニューヨークで開催された個展では『友人フランチャイズ』の展示が見送りされたっと現地にて報道され、市民へ衝撃が走った。との事なのですが……秋山さん。やはり自身が書いた作品へのこだわりは同じ画家として、分かるものはあるのでしょうか?」

「もちろん、こだわりはあります。ただ……彼の場合は特別でした……。うぐ……すみません。うぐ……。正直、この後、警察へこの件で協力させて頂きますので、私がここで……ひく……彼らについて話してしまうと、彼を愛してくれたファンへの誤解を招きかねないと、思いますので、詳しくは伏せさせて頂きますが……ぐっ……私が今日呼ばれて、ここに来た目的は、小絲くんは富も名声も興味がない、そして作品同様、人から恨まれる様な人間でもない……だから……皆さん彼の事を心の隅にでも良いので……置いて頂ければとお願いに来ました。……でも僕は悲しいよ。……小絲くん……君達は……もう少し……僕を頼ってくれよ。……僕は22年間も君と殴り合って1回も勝ててないんだよ。……まだまだ、これからなのに勝ち逃げなんて卑怯じゃないか。……今でも君達が羨ましいよ。……それをこんな形で知らせないでくれよ。ご冥福をお祈り致しますとか言わせないでくれよ。『眠り姫の夢きみたちのこと』……後は僕が引き受けるからな。……小絲くん。夢の中でやっと会えるんだな。……嬉しいよな……もう、君達は契約とかじゃないんだな。僕は本当に君達に出会えて良かったよ。……僕がそっちに行ったら仲間に混ぜてくれよ。……長い間お疲れ様。ありがとう。小絲くん。おやすみなさい」


『友人フランチャイズ』第1話 白花色 0.5〜


《第1章 第1節 白花色0.5~》

──あの日出会った君は、いつの間にか藍色に染まった僕の中に、一滴の真っ白を落とした。

 もっと詳しい色で言ったら、雪色せっしょくかな。でも、冷たくなくて、どちらかと言えば僕と同じくらいの体温だったと思う。そんな雪の様にふわふわした君は、藍色に染まった僕の中にスーッと入って来て、僕の心に自然と混ざって、白花色しらはないろにしてくれた。でも、その所為せいかな?君が何かを背負ってしまったのは。

***

 美大の夏休みは忙しかった。っと言っても僕が勝手に忙しくしてるだけ……だったかな?他の人よりパーソナルスペースが若干広い作りの僕は、大学のアトリエに集まって、沢山の人に囲まれながら制作するのが少し苦手だった。だからアトリエを占領して、作品に集中できるのも、他の人が休んでる時だけで……そこが僕の中の不都合な部分の一つ。

 あっ、でも、昔はこんなじゃなかったよな?小学3年生の時、図工の授業で隣の席の人の似顔絵を描きましょうって、向かい合って座った女の子……確か、花ちゃんだったか……の顔を「そんなに見られたら恥ずかしいじゃんか」って言われるくらい、食い入るように観察して、丁寧に画用紙に描いたんだ。そしたらそれが、なんと市内のコンクールで特別賞を取ってね。友達とかお母さんから、凄いね。上手だね。って褒められて、初めて貰った盾と記念品のトンボ鉛筆が勇者みたいだな。って嬉しくて、もっと、もっと描きたいな。って学校の休み時間でも、家でも、当時人気だった漫画のキャラクターを描いて友達にあげたり、気付いたら手に色んな絵の具が付いて、藍色になるまで風景の模写とかして、ちょっと大人の気分だな。って、公園のベンチから山を見てたりする……そんな子供だったっけ?

 あれ?今、何でこんな事考えているんだろう?……そっか。昨日、1日中忙しかったもんな。夏休み最後の日だったから、朝から夕方まで、大学のアトリエに篭って、キャンバスを前に時間も忘れて色で遊んで、夜の7時から朝の4時までバイトして、家に帰って、それで今、1限目……。

 暑いし、周りの声は五月蝿うるさいけれど、時々当たるクーラーが気持ちいい。それに……何だか頬の隅から目の奥にかけて優しい暗闇がやってくるなぁ。あー。そっか。今眠いんだ。でも、講義中に寝たら教授に怒られるな。でも、でも、たまにはいいよなぁ。この優しい暗闇に身を任せても……

 僕の脳が体にやっと休んでいいよ。って、声をかけて来てくれるものだから、そうするよ。って机に伏せて少しづつ脱力していく。そして、眠る事を自分の身体を受け入れようとした時、僕の隣の席から僕へ小さく囁く様にゆったりとした言葉が転がって来た。

「ねー。君は今、この一瞬、何を考えているの?」って。

 その声に冷たさとか、攻撃的なものを感じなかったからなのか、それとも僕が寝ぼけていたのかは、分からないけれど、机に伏せていた僕の首から上が反応して、声の持ち主の方を向くと、水分を含んだ藍墨茶あいすみちゃの色をした、大きな瞳と頑張って目を開けている、僕の無意識な細い視線が合わさった。

 真っ白のTシャツから伸びた細い腕を僕と同じ様に枕にして、その女の子の吐く息を僕が感じ取れるくらいの距離で、あなたにビー玉を転がしたんだから早くこっちへ返して。っと言わんばかりの子供の様に輝く無邪気な大きな目を僕に向けていた。

 そう言えば、こんなに近い距離で家族以外の人から話しかけられるのって初めてだっけ?小学生の時に向かい合って描いた……花ちゃんだったか?っとも、ここまで近い距離で話したことなかったし。

 若干広めな僕のパーソナルスペースは2メートルくらいが適切で、緊張しない距離。それ以上近づかれると、相手の黒い部分を僕の中のCPUが勝手に作り込んで、逃げてください。って体に信号を出すものだから、変に空気を読んで、どうにか後退しようってなってしまうのだけれど、今、僕の半径50cm以内にいるこの女の子には、不思議な事に僕の危険信号は反応しないみたいで……むしろそれより、心地よさを僕に運んで来てくれる。そんな雰囲気を持った女の子だった。

 この心地よさは何だろう?僕の好きなレオナール・フジタが描いたシュジー・ソリドールの雪の様な白い肌だから?それとも、メアリー・カサットが描いた子供みたいな雰囲気があるから?

 ……多分違う。んー。どちらかと言えば、色かな?──あー。そう、真っ白な雪の感じで、空からふわふわと落ちてくる時のまだ、汚れていないあの感じ。僕と同じくらいの体温を持った雪色って雰囲気。それを僕の中の藍色が欲しがってるから、この女の子に危険信号が反応しないのかも。

 そしたら、僕から君へ転がす言葉は決まった。

「いつか、君を描いてみたい」

 その女の子が言葉を僕に転がして、3秒後、僕がその女の子に言葉を転がし返すと、藍墨茶の瞳をした大きな目はさっきより、もう少しキラキラとさせて、僕にまたゆっくりと言葉を転がした。

「やっぱり、君は君だった」

 いつもなら、この言葉に僕は今日みたいな蒸し暑いだるさを感じるんだろう。だけど、何故かこの女の子に言われると何だか、心が温かくてよく眠れそうだ。

「うん。ありがとう」

 僕はその女の子に言葉を転がすと、気持ちがいい暗闇に堕ちていくことにした。

「おやすみ。またね」っと、その言葉を聞いて。


つづく。


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