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長編小説、超短編小説、実験小説、詩、、朗読ライヴの元ネタ、文体の研究などなど。多すぎてどれ読んでいいかわからない時は「【おすすめ】創作編」というマガジンをどうぞ。
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2018年1月の記事一覧

道に落ちてる片方だけの手袋と孤独の総量

道に落ちてる片方だけの手袋と孤独の総量

冬の道には片方だけの手袋がたくさん落ちている。世界中の道に落ちた片方の手袋を集めたら、世界中の一人で放出された精液を溜めることはできるだろうか。孤独と精液がたまった手袋は手りゅう弾として世界中に散らばって、埋められて、君の両手を片手にする。なかったことに、なかったことに。

今朝、妊娠する夢を見た。三日前に友人が出産してお見舞いと称して新生児を見に行った、その同じ病院に夢の中で私は「おめでたですよ

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【中編小説】インターネットであそぼ

【中編小説】インターネットであそぼ



原稿用紙換算枚数:70枚(23000字くらい)

たしか3年くらい前に書いた小説です。

上記にも書きましたが、作中のかなりの割合を、小説家志望の女・リナと、ネットライターの確変マチ子のDMが占めています。リナが無職バンドマンのセフレから抜け出せず、お金も返してもらえず…という状況をマチ子が叱咤激励するシーンから始まります。

……と書くと、あらすじはわりとえげつない感じですが、最後は激エモで

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新しい小説を書きたい。シーンを作りたい。仲間が欲しい。

新しい小説を書きたい。シーンを作りたい。仲間が欲しい。

昨日のの記事↓↓の補足記事です。

昨日は
「私の愛する純文学が、インターネット時代において廃れかけていることが悲しい。でも、インターネット時代の今、早くて分かりやすいコンテンツが好まれるのは、時代の潮流だから仕方ない。だから「ネット時代にも読んでもらえる純文学」を作るしかないよ」という話を書きました。

昨日の記事は本当に、私の2018年の目標でありここ最近のnoteの集大成だし、リスクもとった

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「文学なんか今時読まれない」に全力で抗う。ネット時代にも読まれる文学を作る。

「文学なんか今時読まれない」に全力で抗う。ネット時代にも読まれる文学を作る。

上記タイトルが、今年の私の目標です。

・「ネットの文章は「質より量」」という風潮に違和感がある人
・小説(特に純文学)が好きな人、書いてる人
・「良い芸術を作っても食べていけない」という現実に憤りがある人

にはぜひ読んでもらいたい。

■こんにちは、「ライヴが出来る小説家」、渋澤怜です。私はもともとずっと純文学を書いていたのですが、

「小説、しかも純文学なんてウルトラマイナージャンルを読む人

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【長編小説】音楽の花嫁 19/19

【長編小説】音楽の花嫁 19/19

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通夜と葬式はつつがなく行われた。最後、煙となったおじいさんを火葬場の外から眺めると、やっと肩の荷が降りたように思って安心してしまった。葬式は疲れる。兄も同じように感じていたようで、慣れないスーツのネクタイを緩めてシャツを腕まくりして、「あちー」と言って手であおいだ。母はそんな私達を見ながらくすりと笑って、
「ねえ綾乃ちゃん、あのフルートどうしたの?」
と聞いてきた。
「うん?」

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【長編小説】音楽の花嫁 18/19

【長編小説】音楽の花嫁 18/19

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「おじいちゃんは……お父さんは、フルートの名手だったらしいのよ。その道で食べていこうと考えていたくらい、でもその前に戦争にとられちゃったらしいんだけど。でも私は一度もフルートを吹いているところを見たことが無かった。それどころかお父さんは、ラジオでクラシックがかかると顔をしかめて消すくらいだったの。一度私が友達にクラシックのレコードを借りてきたら、『そんなちゃらちゃらしたもんにかま

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【長編小説】音楽の花嫁 17/19

【長編小説】音楽の花嫁 17/19

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その時の彼の表情の変化――一瞬の出来事だったそれを私は一生忘れないだろう。まるで卵を奪われた雌鶏のように怒りで顔が膨らみ、私に掴みかかるほどの血の気で沸き立ったと思ったら直後、悲しみと安堵と諦めとがいっしょくたになって一気に顔の上を通り過ぎるように青ざめ、しぼんでいった。そして彼の顔はまるで支柱を失ったテントのように皮膚がずるずると垂れ落ち、皺が刻まれ、あっという間に私の知ってい

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【長編小説】音楽の花嫁 16/19

【長編小説】音楽の花嫁 16/19

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ふと視界の端でちらりと何かが動いた。目を上げると、そこにはバイタの群れからはぐれて、誰かの腐った分身がひとり、ぽつりと立っていた。手首につながれた鎖はちぎれ、飼い主に置き去りにされた、いや、飼い主をどこかに置いてきた迷い犬のようだった。こちらを怯えた様子で見つめているが、目は好奇心を隠せずきょろきょろとせわしなく動いている。まるで小動物のようだ。
「大丈夫、あなたは食べないよ」

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【長編小説】音楽の花嫁 15/19

【長編小説】音楽の花嫁 15/19

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遠くからいろんな声が混じり合った、声ともつかない何かが聞こえて来た。それは技師のいた部屋で聞いたマルタの声にも似ていたが、声と言うより悲しみや絶望そのものに近い、素手で心臓に触れてくるような何かだった。バイタの棺の中身よりもっとひどいものを見るだろうという予感が走ったが、足を止めることは出来なかった。
 遠目に見るとボウリングのピンのように、頭部と下部の間にくびれがある肌色の物体

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【長編小説】音楽の花嫁 14/19

【長編小説】音楽の花嫁 14/19

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「一番好きなものを思い出す」、そして「棺を上手く使う」。ネムルはそう言っていた。それと、「僕の棺によろしく」とも。でも男の人は棺を持っていないんじゃないだろうか。
 エレベーターで考え事をしているとあっという間に降りる階についてふためくように、気付いたら私は細い食道を落ち続けて少し広くなった場所に着地した。下は胃液でびちゃびちゃ、そしてあたりは真っ暗で何も見えない。まるで地下を走

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【長編小説】音楽の花嫁 13/19

【長編小説】音楽の花嫁 13/19

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突然空が暗くなったので見上げると、黒いじゅうたんが落ちて来た。粉塵と風が顔を襲うのでとっさに腕でかばう。腕をほどくと、じゅうたんだと思ったのは巨大な鳥だった。夜を背負ったようにまっ黒で、私達二人を食べてもおやつにしかならないだろうというほど大きな、鳥というより恐竜に近かった。頭だけが黒を纏い忘れたようにピンク色の肌がむき出しだった。
「驚いた、人形使いか」
 鳥が喋った、と

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【長編小説】音楽の花嫁 12/19

【長編小説】音楽の花嫁 12/19

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こんな形でメイドの言っていた「寝室を一緒にする」機会が訪れたのは皮肉だった。私は死に絶えた城で唯一呼吸している生き物、傷ついたネムルの傍にいたかった。自分のベッドに引き入れて飽かず眺めていた。
 ネムルがケガしたのは左腕、指が六本ある方だった。革の手袋は血を吸って赤黒く染まっていた。ネムルは私の前で手袋をとったことが無い。食事もそのまま食べる。手袋をとって剥き出しの六本目の指を見

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【長編小説】音楽の花嫁 11/19

【長編小説】音楽の花嫁 11/19

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たったひとりで音楽を作り、聴いた者は全員死ぬ。そんなネムルの今までの孤独とはどんなものだったろう。美しいとは言えないけれど、私はネムルの音楽を心から好きだと思う。もともとオーケストラから派兵されたのだからこれは裏切り行為になるけれど、私はネムルと一緒に戦うこと以外考えていなかった。ネムルの音楽の一部になれることがこの上なく嬉しかった。
 でも、ネムルの音楽にどうやって私が入るのだ

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【長編小説】音楽の花嫁 10/19

【長編小説】音楽の花嫁 10/19

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馬車から下されると、私は要塞のようなすさんだものをイメージしていたのだが、賑わう城下町に囲まれた中世風の美しい城がそびえていた。鎧を着た衛兵がつかつかと馬車に歩み寄る。私だけが連れて行かれる。技師と女性にはもう会わないかもしれない。
 城の中には一体こんなに必要なのかというほど家来が溢れていた。どこもかしこも掃除中で、すでに透き通るほどに磨かれた大理石の床に何十人もの家来がへばりつ

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