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記事一覧
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.5-①
~晩夏のスキーヤー@五山の送り火を過ぎた京都~
Vol.5-①
ナカサンと出会ってから3年以上になるが、一緒に飲みに行くのは初めてだ。積極的に誘ったのは友達のケイコの方だった。
私は正直あてにはしていなかった。すっぽかされて泣いていたグルーピーみたいな女の子の姿も観て来ているから。
「ダメでも電話だけは入れて来て」
と、ケイコは念を押した。
私はその様子に背中を向けて、『来なくっても
長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.3‐⑦
~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~
Vol.3-⑦
弘也は、ユニフォーム姿でゲレンデ中を駆けずり廻っている私を知らない。どこかに出かけてデイトしたのは、スプリングスティーンとブライアン・アダムスの来日コンサートくらいだ。
それでも、どんなに説得しようと思い込んだら振り向かない私を、弘也は知っている。感覚で決断した意志を、理屈や感情では譲ったり曲げたりをしない性格である事を。
最初
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-⑤
~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~
Vol.3-⑤
1部のステージの後、メンバー達は各々知人のテーブルに紛れ込んで来ていた。
化粧室へと立ち上がった時、ひときわカン高い女性達の笑い声が響いた。見渡すと、中央最後尾ミキシング・ルームの前のテーブルで、女性ばかりを笑わせているナカサンの姿があった。
相変わらず、軽いヤツ。でも憎めないな。
私は苦笑しテーブルを離れた。生憎化粧室は混
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-③
~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~
Vol.3-③
イクタ・ジョージのバンドに居た頃の、ナカサンとの最初で最後の握手を、思い出す。
2年前、活動休止前年のツアー・ステージから、ジョージは『一旦バンドを白紙に戻す』と告げた。『その上で、また一緒に演ろうと互いに思えば、残るメンバーも居るだろう』と。
訳もなく私は、ナカサンは居なくなると確信していた。とても気さくで、旅先のホテルのロ
長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.2-④
~雪解けの春@白馬八方尾根~
Vol.2-④
半年分の荷物と、スキーの板やブーツを宅配便で送り出す手配をして、私は厨房へ入って行く。宿泊客も他の居候も居ないので、家族の分だけの遅い朝食を作っている女将に、私は声をかける。
「女将さん。ほな、そろそろ帰ります」
エプロンで両手を拭いながら、女将は振り返る。
「ぁ、もうそんな時間❓」
「ええ。名古屋廻りでゆっくり帰ります」
「それじゃあ、岳彦