マガジンのカバー画像

気になってます❔( *´艸`)

139
まだ始めたばかりですが、順次追加いたします🎶
運営しているクリエイター

記事一覧

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.5-①

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.5-①

~晩夏のスキーヤー@五山の送り火を過ぎた京都~

Vol.5-①

 ナカサンと出会ってから3年以上になるが、一緒に飲みに行くのは初めてだ。積極的に誘ったのは友達のケイコの方だった。

 私は正直あてにはしていなかった。すっぽかされて泣いていたグルーピーみたいな女の子の姿も観て来ているから。
 「ダメでも電話だけは入れて来て」
と、ケイコは念を押した。
 私はその様子に背中を向けて、『来なくっても

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.4-③

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.4-③

~晩夏のスキーヤー@五山の送り火を過ぎた京都~

Vol.4-③

 肩に温かい感触が、降りた。
 何気なく首を後ろにもたせかける。後頭部が、池田君の折り曲げた膝の内側に、ビクッとする程すんなり納まってしまった。反対の足を立膝にしてベッドに寝そべっている彼の掌は、熱を持ったまま私の肩の上を動こうとしない。

 結局、こうなってしまうんや。。。
 当たり前やないの。付き合ってる男と女が夜遅く二人きり

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.4-②

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.4-②

~晩夏のスキーヤー@五山の送り火を過ぎた京都~

Vol.4-②

 御所の蛤御門に近い月極駐車場から並んで歩き、池田君ちを訪れた。学生時代にひょっとしたら、近辺で頻繁にすれ違っていたのかもしれない。

 池田君の部屋は雑然としている。狭くもないのに物が有り過ぎるのだ。20 年余りの間に所持品が積り積もった事を、壁の剥がれかけた懐かしアイドルのポスターが物語っている。昔ながらの家屋に妙に馴染んだ最

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.4‐①

長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.4‐①

~晩夏のスキーヤー@五山送り火を過ぎた京都~

Vol.4‐①

 午前8時過ぎに退社した後、池田君と繁華街に出た。月曜だというのに、木屋町通りを周遊する人波は絶え間ない。繁華街の数が少ないせいか。
 どちらかというと、昼間の北山通沿いの方が好きだけど。定休日を明日に控え、幾分か開放的な心持ち。

 そう云えば学生の時、南欧文化史のルイス教授が『大坂、小さな都会。京都、大きな田舎、ね⁉』と、仰って

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.3‐⑦

長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.3‐⑦

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-⑦

 弘也は、ユニフォーム姿でゲレンデ中を駆けずり廻っている私を知らない。どこかに出かけてデイトしたのは、スプリングスティーンとブライアン・アダムスの来日コンサートくらいだ。
 それでも、どんなに説得しようと思い込んだら振り向かない私を、弘也は知っている。感覚で決断した意志を、理屈や感情では譲ったり曲げたりをしない性格である事を。

 最初

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-⑥

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-⑥

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-⑥

 いつもの時刻発の電車に駆け込み、危うく遅刻を免れた。
 私のタイムレースは、会社に到着する50分前から始まる。昨夜からの珍客、池田君を朝早く追い出した後、他人の匂いを拭い去るべく部屋を片付けている内に、スタートに出遅れてしまったのだ。

 帰宅した時、『我が城』に他人の抜け殻が残っているのは、妙に嫌だ。それが肉親でも腐れ縁の友人でも。

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-⑤

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-⑤

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-⑤

 1部のステージの後、メンバー達は各々知人のテーブルに紛れ込んで来ていた。
 化粧室へと立ち上がった時、ひときわカン高い女性達の笑い声が響いた。見渡すと、中央最後尾ミキシング・ルームの前のテーブルで、女性ばかりを笑わせているナカサンの姿があった。

 相変わらず、軽いヤツ。でも憎めないな。

 私は苦笑しテーブルを離れた。生憎化粧室は混

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-④

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-④

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-④

 ブラック・ヴォーカルのBGMが途絶え、客電も消えた。百人程の客席のあちこちからパラパラと拍手が起こり、徐々に厚さを増して行く。

 私の胸の鼓動が最高潮に達した時、斜め後ろから
「早よせえや!」
と、叫び声がした。ホール内に笑いが沸き起こり、ほぼ中央のテーブルに居る顎ヒゲのオジサンが注目を集めた。その瞬間、
「わかっとるわいぃ~」

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-③

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-③

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-③

 イクタ・ジョージのバンドに居た頃の、ナカサンとの最初で最後の握手を、思い出す。

 2年前、活動休止前年のツアー・ステージから、ジョージは『一旦バンドを白紙に戻す』と告げた。『その上で、また一緒に演ろうと互いに思えば、残るメンバーも居るだろう』と。

 訳もなく私は、ナカサンは居なくなると確信していた。とても気さくで、旅先のホテルのロ

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-②

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-②

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-②

 正社員になって初めて、タイムカードを2時間早く打刻した。
 6月下旬の1週間前に、早退の申し出は計画通りに済ませていた。

「お先に失礼しまーすっ」
 2階のテニス・フロアにも声をかけると、
「もう帰るんけ❓」
 と、池田君が振り向いた。
「そう。ウメダまで用事で行くの」
 それ以上は詳しく話すつもりはない。
「ウメダって何しに❓」

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-①

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-①

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-①

 また、あの夢を見た。
 今度は、弘也の腕の中にいる私を、彼が手招きした。

 覚えがあるのに誰だか知らないその彼は『おいで』と言った。私は戸惑いながらじっと見つめていた。弘也の腕を振りほどき一歩だけ近づくと、彼は片手で、こっちへ来いと合図し、笑顔でまた去って行った。
 そこで、目が覚めた。

 クッションの上で胡坐をかいて座り込み、考

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.2-④

長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.2-④

~雪解けの春@白馬八方尾根~

Vol.2-④

 半年分の荷物と、スキーの板やブーツを宅配便で送り出す手配をして、私は厨房へ入って行く。宿泊客も他の居候も居ないので、家族の分だけの遅い朝食を作っている女将に、私は声をかける。

「女将さん。ほな、そろそろ帰ります」
 エプロンで両手を拭いながら、女将は振り返る。
「ぁ、もうそんな時間❓」
「ええ。名古屋廻りでゆっくり帰ります」
「それじゃあ、岳彦

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2-③

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2-③

~雪解けの春@白馬八方尾根~

Vol.2-③

 『技術選』とは、全日本スキー技術選手権大会の事で、全日本スキー連盟(SAJ)が主催している全国のSKIインストラクターの頂点の大会である。
 この大会で、男子は上位20位までに女子は10位までに入り、しかも正指導員のの免許を取得していれば、デモンストレイター選考会に出場できる。
 デモンストレイターは、4年に1度開催される国際的なスキーの祭典『イ

もっとみる
長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2-②

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2-②

~雪解けの春@白馬八方尾根~

Vol.2-②

 正午から午後4時までは、自分のためのスキーの時間だ。
 インストラクターとして就業しているクリスマス頃から3月末までは、午前8時に出勤し、計4時間のレッスンの仕事以外にも、研修会などで拘束されて朝一番しか自由な時間はない。
 シーズン始めやオフのこの時期は、居候の仕事がメインで、そこから解放されると後は全て、自由に過ごせる。

 雪解けしたテニス

もっとみる