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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-⑤

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-⑤

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-⑤

 1部のステージの後、メンバー達は各々知人のテーブルに紛れ込んで来ていた。
 化粧室へと立ち上がった時、ひときわカン高い女性達の笑い声が響いた。見渡すと、中央最後尾ミキシング・ルームの前のテーブルで、女性ばかりを笑わせているナカサンの姿があった。

 相変わらず、軽いヤツ。でも憎めないな。

 私は苦笑しテーブルを離れた。生憎化粧室は混

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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-④

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-④

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-④

 ブラック・ヴォーカルのBGMが途絶え、客電も消えた。百人程の客席のあちこちからパラパラと拍手が起こり、徐々に厚さを増して行く。

 私の胸の鼓動が最高潮に達した時、斜め後ろから
「早よせえや!」
と、叫び声がした。ホール内に笑いが沸き起こり、ほぼ中央のテーブルに居る顎ヒゲのオジサンが注目を集めた。その瞬間、
「わかっとるわいぃ~」

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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-③

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-③

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-③

 イクタ・ジョージのバンドに居た頃の、ナカサンとの最初で最後の握手を、思い出す。

 2年前、活動休止前年のツアー・ステージから、ジョージは『一旦バンドを白紙に戻す』と告げた。『その上で、また一緒に演ろうと互いに思えば、残るメンバーも居るだろう』と。

 訳もなく私は、ナカサンは居なくなると確信していた。とても気さくで、旅先のホテルのロ

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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-②

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-②

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-②

 正社員になって初めて、タイムカードを2時間早く打刻した。
 6月下旬の1週間前に、早退の申し出は計画通りに済ませていた。

「お先に失礼しまーすっ」
 2階のテニス・フロアにも声をかけると、
「もう帰るんけ❓」
 と、池田君が振り向いた。
「そう。ウメダまで用事で行くの」
 それ以上は詳しく話すつもりはない。
「ウメダって何しに❓」

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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-①

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-①

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-①

 また、あの夢を見た。
 今度は、弘也の腕の中にいる私を、彼が手招きした。

 覚えがあるのに誰だか知らないその彼は『おいで』と言った。私は戸惑いながらじっと見つめていた。弘也の腕を振りほどき一歩だけ近づくと、彼は片手で、こっちへ来いと合図し、笑顔でまた去って行った。
 そこで、目が覚めた。

 クッションの上で胡坐をかいて座り込み、考

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長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.2-④

長編小説「ひだまり~追憶の章~」 Vol.2-④

~雪解けの春@白馬八方尾根~

Vol.2-④

 半年分の荷物と、スキーの板やブーツを宅配便で送り出す手配をして、私は厨房へ入って行く。宿泊客も他の居候も居ないので、家族の分だけの遅い朝食を作っている女将に、私は声をかける。

「女将さん。ほな、そろそろ帰ります」
 エプロンで両手を拭いながら、女将は振り返る。
「ぁ、もうそんな時間❓」
「ええ。名古屋廻りでゆっくり帰ります」
「それじゃあ、岳彦

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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2-③

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2-③

~雪解けの春@白馬八方尾根~

Vol.2-③

 『技術選』とは、全日本スキー技術選手権大会の事で、全日本スキー連盟(SAJ)が主催している全国のSKIインストラクターの頂点の大会である。
 この大会で、男子は上位20位までに女子は10位までに入り、しかも正指導員のの免許を取得していれば、デモンストレイター選考会に出場できる。
 デモンストレイターは、4年に1度開催される国際的なスキーの祭典『イ

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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2-②

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2-②

~雪解けの春@白馬八方尾根~

Vol.2-②

 正午から午後4時までは、自分のためのスキーの時間だ。
 インストラクターとして就業しているクリスマス頃から3月末までは、午前8時に出勤し、計4時間のレッスンの仕事以外にも、研修会などで拘束されて朝一番しか自由な時間はない。
 シーズン始めやオフのこの時期は、居候の仕事がメインで、そこから解放されると後は全て、自由に過ごせる。

 雪解けしたテニス

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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2‐①

長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.2‐①

Vol.2-①

 コロコロ、、、と鈴を転がすようなデジタル・アラームの音に、気づいた。天井を見つめるのを止め、ゆっくりと上体を起こし、四つんばいに成って這って行き、わざと布団の足元に置いてあるアラーム音を、鎮めた。

 低血圧で寒がりな私は、冬の間布団から抜け出る事を億劫がる自分を、そうやって無理やり起こしていた。
 が、最近目覚めが良い。春になったせいだろうか。ゴールデンウィークも過ぎて、朝晩

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長編小説「ひだまり~追憶の章~」

長編小説「ひだまり~追憶の章~」

プロローグーーー雪解けの春@白馬八方尾根

Vol.1

 窓の外の白樺が、口笛みたいに啼いている。春風に身を任せ、ハスキーに。春一番はもう、2週間も前に通り過ぎて行ったというのに。
 心地好い陽射しが、この部屋の床にも届いている。

 シーズンOFF間近のスキー場。リフトが止まり、ゲレンデの麓のテニスコートがすっかり雪解けしてしまうと、そろそろここも潮時かな、と住み込みのスキーヤーやボーダー達は

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歴史小説「Two of Us」第4章J‐28 (The Epilogue) 

歴史小説「Two of Us」第4章J‐28 (The Epilogue) 

~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~

第4章 On A ”SABO Tea Room” About Some Last Scenes 

J‐28

 細川ガラシャ珠子は、400年以上も大嘘をつき通しました。忠興もまた、同じく最後の最後、辞世の句で嘘をついたのです。

 けれどもその二つの辞世の句は、二人にとっては真実そのものだったのです。二人にだけ分かり合えるメッセージは、魂の真実そのもの。第

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歴史小説「Two of Us」第4章J‐27

歴史小説「Two of Us」第4章J‐27

~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~

第4章 On A ”SABO Tea Room” About Some Last Scenes 

J‐27

 1642年ヨーロッパでは、イングランド・アイルランド・スコットランドでの、「ピューリタン革命」が勃発している。いわゆる市民大衆の宗教信仰の自由や弾圧への内乱としての革命である。その後、大英帝国は飛躍的に世界進出を果たして行く。武闘の争いでなく、経

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歴史小説「Two of Us」第4章J‐26

歴史小説「Two of Us」第4章J‐26

~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~

第4章 On A ”SABO Tea Room” About Some Last Scenes 

J‐26

 1638年、寛永拾伍年の卯月を迎えた。
 細川忠興の七拾四歳の誕生日(11月13日)までは、ガラシャ珠子は、たしかに八代城の忠興のそばに居て、歌詠みをしていた。

 その日、忠興は肥後藩熊本城本丸へ参内し、嫡男忠利が政務を行う参議の場に、同席。

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歴史小説「Two of Us」第4章J-25

歴史小説「Two of Us」第4章J-25

~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~

第4章 On A ”SABO Tea Room” About Some Last Scenes 

J‐25

 おっとりとした口調で、引き続き細川忠利は【島原・天草の一揆】の現状を語る。
 向かい合った席には、高田焼の茶碗をゆっくり口に運ぶ、細川忠興。傍ら斜め後ろに、ガラシャ珠子。
 竹林の重なる揺らぎ音と、傾く陽射しの障子窓。

「単なる百姓一揆ならば、

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