長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.5-①
~晩夏のスキーヤー@五山の送り火を過ぎた京都~
Vol.5-①
ナカサンと出会ってから3年以上になるが、一緒に飲みに行くのは初めてだ。積極的に誘ったのは友達のケイコの方だった。
私は正直あてにはしていなかった。すっぽかされて泣いていたグルーピーみたいな女の子の姿も観て来ているから。
「ダメでも電話だけは入れて来て」
と、ケイコは念を押した。
私はその様子に背中を向けて、『来なくっても私の知ったこっちゃないよ❓』と決め込んだ。BIG BANGのライヴの間だけでも、ナカサンとの再会に満足していたのだから。
少しの期待を寄せて、遅いね、、、と、2杯目のワイン・クルーラーを呑んでいた12時過ぎに、ナカサンは意外にも主役の斎藤詩織を除いたメンバー全員を連れてドヤドヤと、プール・バーの戸口に現れた。
シックなモノトーン・ファッションがトレードマークだったナカサン、最近はスポカジに凝っているのか、黒いカットソーのスウェット上下に白いGジャンを着こなしている。
リラックスした談笑をしながらも、以前には見つけられなかったバンド・マスターとしての落ち着きが、ある。
ステージを降りた彼らに、少しずつ親しみを感じながらも、業界の内輪話になると、聞いてても善いものか戸惑った。
今夜はホステス役に成って欲しいという事なのだろう。案外、他業界の人達に接する機会は稀な面々なのかもしれない。
話がひと段落すると、タンタンヘアのキーボーディストが、私と私を連れて来たケイコに水を向けた。
「彼女は美雪ちゃん。イクタジョージさんの大ファンなんだ。武道館でジョージさんが初LIVE演った時も、来てたらしいよ。歳は若いけど、ジョージ・ファンとしてはベテランなんだ」
ナカサンは私を紹介した。
「へえーー!ジョージさんの」
「そっかあ。ジョージさんのファンなのかあ。それでナカサンが知ってるんだあ⁉」
メンバーは口々に納得した様子を示したが、私はエッ❓と耳を疑った。
ジョージの活動の中では最近のメンバー加入だったナカサンが、8年前に高校生の私が武道館に行ってたのを、どうして知っているんやろ❓
それに改めてナカサンに『美雪』という名前を教えた事もない。いつも『やあ、来てたのか』と手を上げるだけで、『美雪ちゃん』なんて呼ばれた事もない。
確かに、ナカサンが居た頃はジョージのLIVEに通い詰めた本数は一番多く数えられるけど。
一瞬戸惑ってから、LIVEフリーク仲間のケイコを紹介する。
「こちらはケイコ。彼女もジョージさんのコンサートによく来るんですよ。今は〈XIE〉ってバンドのファンに成ってしまったけど」
何度か面識があるはずだが、ナカサンに旧知の反応はなかった。代わりにキーボーディストが相槌を入れる。
「〈XIE〉なら俺昔、タイコの奴と組んでたんだ」
ケイコはその話題に興味を持ったようだ。
私は、隣に座っているベーシストが一時期ジョージのサポート・メンバーとして加わっていた話に驚いた。丁度、ジョージが学園祭では収まり切れない人気を集め始めていた頃の事だ。午後の授業をサボり、高校の制服のままチケットを握り締め、憧れのキャンパスへ足を踏み入れた、その頃。
ここから先は
¥ 200
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?