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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.4-③

~晩夏のスキーヤー@五山の送り火を過ぎた京都~

Vol.4-③

 肩に温かい感触が、降りた。
 何気なく首を後ろにもたせかける。後頭部が、池田君の折り曲げた膝の内側に、ビクッとする程すんなり納まってしまった。反対の足を立膝にしてベッドに寝そべっている彼の掌は、熱を持ったまま私の肩の上を動こうとしない。

 結局、こうなってしまうんや。。。
 当たり前やないの。付き合ってる男と女が夜遅く二人きりで居るんやから。池田君がそんな気持ちに成ったって。。。

 私は既に、諦めに近い気持ちを味わっている。自分の意志で彼の部屋に乗り込んでおいて、『そんなつもりじゃないわ』と言える程、私は純朴でもしたたかな計算がある訳でもない。
 出来るだけ【愛の儀式】を遠ざけ、さらに彼の気を引こうなどとは思えない相手だと、既にこの部屋に来る前に気づいてしまっている。

 いつだって、私が恋心へと助走つける前に、男性はフライングしてでも駆け込んで来るんだ。。。

 私の表面のアイスバーンを走り抜け、最初に積もった柔らかな根雪にはタッチもせずに、通り過ぎて行くんだろう。

 池田君の手を払い除けようともせず、応えようともしない間、彼の瞳はジッと私の反応を待っている。
 所詮、男の腕力には太刀打ちできない事は分かっている。もがけば動揺するかもしれないけど、そんな気力も無いほど落胆していた。強引に自分の腕に引きずり込もうものなら、思いっきり抵抗してやるつもりだ。なんとしても。だけど、彼の瞳は待っている。

 ふと、弘也の言ったセリフ頭をかすめる。
『自分を大切にしろよな。自分には正直に・・・』

 なに矛盾した事言うてんねん。ほな自分に正直になってやるわ。

 私は肩に置かれた手を両手でゆっくりと引き寄せ、彼の頬にキスした。
 また一つ背負い込むだけ。最後の妥協策だけど、受け止めてみる。嫌いじゃないから。

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