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ドラマ・シネマローグ

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日本のドラマ・映画を中心に感想と思ったこと考えたこと。
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#ネタバレ

映画「髪結いの亭主」パトリス・ルコント〜醒めない甘美な夢

映画「髪結いの亭主」パトリス・ルコント〜醒めない甘美な夢

主人公のアントワーヌは12歳の頃、豊満でいい匂いのする理髪店の女主人に恋し店に通いつめていた、なかなか早熟な少年であった。
父親に「将来の夢はなんだ?」と聞かれ、「床屋の女の人と結婚すること」と答えたアントワーヌは、ぶん殴られる。
日本でも昔は "髪結いの亭主" といえば、妻の稼ぎをあてにし養われている男を意味し、いわゆる "ヒモ" を指していた。
フランスでも同じなんだろうか、と思った。

この

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ドラマ「ヒヤマケンタロウの妊娠」と私のマタニティライフ

ドラマ「ヒヤマケンタロウの妊娠」と私のマタニティライフ

Netflix、テレ東でも配信されているドラマ「ヒヤマケンタロウの妊娠」を観ている。
この作品は、子供を産むということ、家族の形についても、いろいろ考えさせられる。

男性妊娠、子供を産むということ

やり手のエリート広告マンでプレイボーイの桧山健太郎(斎藤工さん)は、ある日、自分が妊娠したことを知る。
子供の母親はフリーライターの亜希(上野樹里さん)で、お互い特定のパートナーとして付き合っていた

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ドラマ「ブラッシュアップライフ」〜あなたは人生何周目?

ドラマ「ブラッシュアップライフ」〜あなたは人生何周目?

今期スタートのドラマの中で、脚本とキャストが自分の好みだから見始めたのが「ブラッシュアップライフ」だ。

突然の事故であの世の入り口に立った主人公・近藤麻美(安藤サクラさん)は、案内の男性(バカリズム)から、来世は人間ではなくオオアリクイだと告げられ、納得できずに他の道は?と食い下がると、もう一度同じ人生をやり直すこともできると言われ、再び赤ん坊からの人生を始める。

ストーリー的にはファンタジー

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ドラマ・小説「空白を満たしなさい」

ドラマ・小説「空白を満たしなさい」

3年前に会社の屋上から転落死したはずの徹生(柄本佑さん)は、ある日突然に生き返り家族の前に姿を現す。
徹生のような生き返りは世界中で何人もいることが分かっており、彼らは"復生者"と呼ばれている。
誰にでも平等にあるのは "生も死も一度だけ" という前提を覆す "復生者"の存在は、人々から恐れられ忌み嫌われ、差別されるようになる。

"一度死んだ人間が蘇る" ということは手放しで喜べることばかりでは

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映画「すばらしき世界」〜厳しくも優しくこの世は美しい

映画「すばらしき世界」〜厳しくも優しくこの世は美しい

西川美和監督作品『すばらしき世界』を遅ればせながら視聴した。
今回も一人の人間の多面性と人生に深く切り込んだ脚本が素晴らしかった。

役所広司さん演じる三上は、旭川刑務所での13年の刑期を終え出所し東京へ向かう。
人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上は、今度こそもう二度とムショには戻らないと誓い悪戦苦闘しながら社会復帰を目指すが、元ヤクザの前科者である三上が堅気の世界で生きる術を見つけることはそう

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映画『ドライブ・マイ・カー』〜喪失と再生のロードムービー

映画『ドライブ・マイ・カー』〜喪失と再生のロードムービー

私の住む国でも映画館で『ドライブ・マイ・カー』の上映が始まった。
だけど何度か見直したい作品だと思ったので、私は配信で鑑賞した。

冒頭、窓の外に広がる夜明けの空を背に、家福の妻・音(霧島れいかさん)は寝物語を家福(西島秀俊さん)に語る。その様子はまるでトランス状態にある巫女のようで、天から物語が降りてくるかのようだ。
しかし音は、翌日になると自分が話したことを覚えていなくて、今度は家福が昨夜の物

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三浦春馬 映画「アイネクライネナハトムジーク」~小さな夜、ささやかな幸せ

三浦春馬 映画「アイネクライネナハトムジーク」~小さな夜、ささやかな幸せ

『アイネクライネナハトムジーク』は、春馬くんが旅立ってから何度も観た。
ずっと感想を書こうとしていたけれど、もう春馬くんの新しい作品はないのだと思うと、残された一つ一つの作品を惜しみながら噛みしめるように、その感想を丁寧に書いてゆきたいという気持ちが強くなった。

◇ ◇ ◇

この作品の主役は春馬くんだけれど群像劇なので、一人だけ突出するでもなく、これまで春馬くんが演じた中でも一、二を争うくらい

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映画「おらおらでひとりいぐも」〜老いと孤独の先に

映画「おらおらでひとりいぐも」〜老いと孤独の先に

映画『おらおらでひとりいぐも』を観た。

沖田修一監督の作品は、前作『モリのいる場所』が、こちらの国のアジア映画祭で上映されたのでスクリーンで観た。
画家の熊谷守一を演じた山崎努さんと樹木希林さんの老夫婦がとても良かった。

『おらおらでひとりいぐも』の方も、75歳の老女、日高桃子が主人公だ。

冒頭、壮大な地球創生がアニメで描かれ、ジュラシックパークのような世界が展開し、他の作品と間違えたかと思

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三浦春馬 映画 「東京公園」 ~ファインダー越しに見つめる世界

三浦春馬 映画 「東京公園」 ~ファインダー越しに見つめる世界

秋も深まり、紅葉した木々の葉が散り始め、地面は黄色や赤の落ち葉の絨毯が敷き詰められたようで美しい。
この国はすでに晩秋で、もうすぐ長い長い冬がやって来る。
そんな季節が来る前の秋日和の休日に『東京公園』をまた観た。
春馬くん21歳(撮影時は20歳)の時の公開作品だ。20歳の頃というと、高校生を演じたかと思うと高校教師になったり大学生になったり、春馬くんは演じる年齢も変幻自在だ。

はじめに
この作

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「太陽の子」 ~君死にたまふことなかれ

「太陽の子」 ~君死にたまふことなかれ

映画版『太陽の子』が公開された。春馬くんの出演した最後の作品公開。
もうこれで、続きの春馬くんも、新しい春馬くんも、観られない…そう思うと気持ちが乱れてしまう。
この作品は最初に映画が完成し、そこから編集したものがドラマ版だということを知った。海外在住の私は当分映画の方は観られないが、ドラマ版を観た後に読んだノベライズでは、映像ではあまりはっきりと表されていなかった登場人物の心情やエピソードも詳し

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映画「きみはいい子」 〜ぎゅっと抱きしめたい

映画「きみはいい子」 〜ぎゅっと抱きしめたい

映画「きみはいい子」を観た。
観ている間中、胸がヒリヒリ痛くて、感情が大きく揺さぶられた作品だった。
呉美保監督の作品は初めてだけど、観る者の心にダイレクトに語りかけてくるような、ドキュメンタリーを見ているようだった。

観終わったあと、息子を思わずぎゅーっと抱きしめた。
何~お母さんどうしたの~?と笑う息子。



小学校教師の岡野(高良健吾さん)は、まだ教師1年目という事もありどこか頼りない

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三浦春馬 映画「真夜中の五分前」~エトランゼ・異邦人

三浦春馬 映画「真夜中の五分前」~エトランゼ・異邦人

ずっと観たかった「真夜中の五分前」。やっと日本からDVDを送ってもらい観ることが出来た。本当は映画館で観たい作品だけれど、海外生活の身では難しいのでホームシアターで鑑賞。

上海〜静謐な映像美と音の世界ステンドグラスの窓から漏れる陽の光、壁に掛かる沢山の柱時計の影、間接照明だけの仄暗い室内、光と影の対比を捉えたような一つ一つの映像がとても美しい。
セピアがかったノスタルジックな色調のフィルムがヨー

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ドラマ「にじいろカルテ」の涙と笑いの中に、またしても春馬くんを想う

ドラマ「にじいろカルテ」の涙と笑いの中に、またしても春馬くんを想う

いやぁ今週の「にじいろカルテ」第5話、凄まじかったですね。

先週第4話では、ある無差別爆破事件での、トリアージにおける自分の判断ミスで妻は亡くなり、そうとは知らずに必死で犯人を助けてしまった、朔先生(井浦新さん)の壮絶な過去が明らかになったが、第5話では、その過去を朔先生自ら真空(高畑充希ちゃん)と太陽(北村匠海くん)に打ち明け、可哀想な奥さんと医者である自分という勝手な物語を人に作られたくない

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