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在るまでの日々

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これまで書いた中で好きな文章、 かつ読んで欲しいものをまとめました。
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2019年7月の記事一覧

さよなら、イチリンソウ

あの花の残り香はとうに褪せて、今部屋に立ち込めるのは悲しい煙の臭いだけであった。

私は右手には煙草を左手にはバイト帰りに購入してきた缶ビールを握りしめていた。部屋は散らかり教材とゴミが混ざりあって私の探し物は見つからないのも仕方ないと言えるものになっていた。この状況を作り上げたのは他でもない私であって責め立てるべき相手も私のみだった。彼は悪くない。

私はそそくさと立ち上がり部屋の明かりを閉じる

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水平線上に浮かぶ海の月

水平線上に浮かぶ海の月

試合で疲れ果てた妹と朝から部活動の準備で忙しかった両親の寝息が部屋に充満していた。リビングでは死人でも出たのかと思うほどシーンとしていて呼吸することを躊躇うほどの息苦しさを感じ、今すぐにも外に出たいという気持ちが僕の心を駆り立て僕は二階に上がりスマホを手に取るとなるべく音を立てないように急ぎ足で玄関ドアをこじ開けた。

ドアを開けた瞬間に外の心地の良い自由な風が玄関に流れ込んでくるのが分かった。こ

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僕は川を泳いで茜色の街のあの娘に会いに行く

僕は川を泳いで茜色の街のあの娘に会いに行く

僕は頭上でガタンガタンと鉄の箱が通過していく音を聞きながら高架下を潜りぬけて茜色の街のあの娘に通ずる川へと足を動かした。

道中には商店街が呼吸を辞めて佇んでいた。人の気配が全くなくて異様な空気が立ち込めていたのを深く覚えている。すれ違う店はシャッター締め切らせていて僕をこの場所から遠ざけようとしている気がした。けれど、僕はあの娘に会うために来たのだと後ろを振り返って来た道を目でなぞっては目的地へ

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夜を歩けよ、言葉の中。

夜を歩いた。街は静まり返って僕がこの街と街を包む夜について書くのは一体何回目なのだろうか。

それはもうわからない。けれど、書くたびに思う、僕はこの街が好きだということを、ここは都会でもないし田舎でもない微妙な立ち位置である。そんなところが僕は大好きなんだ。

そして、夜の街に繰り出したのは久しぶりである。よりいっそう体にまとわりつくようになった空気は凄く気持ち悪いしそれ以上に暑いすぎる。

え、

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