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僕は川を泳いで茜色の街のあの娘に会いに行く

僕は頭上でガタンガタンと鉄の箱が通過していく音を聞きながら高架下を潜りぬけて茜色の街のあの娘に通ずる川へと足を動かした。

道中には商店街が呼吸を辞めて佇んでいた。人の気配が全くなくて異様な空気が立ち込めていたのを深く覚えている。すれ違う店はシャッター締め切らせていて僕をこの場所から遠ざけようとしている気がした。けれど、僕はあの娘に会うために来たのだと後ろを振り返って来た道を目でなぞっては目的地へと引っ張られるようにして再び歩き進めた。

商店街を抜けるといつの時代か見当もつかない車が数台走っていた。カーブミラーには沢山の人影が写ってはこちらに微笑みかける。そこに、僕は影だけ残すようにして近くにあった横断歩道を渡り目前に迫る川に全力疾走で向かい果てた。

やっとの思いでこの街を流れる川に到着すると一人の顔が歪んだ男が僕に微笑みかけて、その瞬間男は川に飛び込みブクブクと音を立てながら青き暗闇へと吸い込まれていった。僕は信じがたい光景を目にして頭をどつかれたのかと思うぐらいグラグラと視界が悪くなりその場に嘔吐してしまった。微睡んだ視界を拒むようにして持参したペットボトルの水に手を伸ばし口へと運ぶことにした。すると、しばらくして徐々に視界は回復していった気がしていた。そして、瞼を開けて川の対岸を見るとそこには僕が目指した茜色の街が輝いていた。

僕は周りに誰も居ないことを確認して、先ほど見た光景をを振り払うようにするためにあの娘の事を思い浮かべた。やっと数年ぶりに会える。
こみあげる感動に僕は涙を流し、その涙で纏っていた空気感を切り裂いてはもう一度対岸に潜む茜色の街を真っすぐ見つめた。もう、そこに行く準備は整っている。

そして、僕は川に飛び込む姿勢を作りあちら側で美しく咲き誇っている無数の茜色に手招きされるようにして川へと飛び込んでいったのだった。

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