熊本熊

1962年 埼玉県蕨市生まれ 今思うことのあれこれの備忘録 忘れちゃってもいいんだけど…

熊本熊

1962年 埼玉県蕨市生まれ 今思うことのあれこれの備忘録 忘れちゃってもいいんだけど なんとなく、ね。

マガジン

  • 読んだ・観た・聴いた

    本や雑誌などを読んで思いついたこと。書評とか感想は上手にまとめる人がたくさんいるので、そういうものはそういう人たちにお任せする。本の内容とは全く関係なく見えることも少なくないが、自分の中でつながっていることに間違いはない。たまに観る映画のことも同様に。

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  • 怪我病気備忘録

    単に備忘録として。

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記事一覧

蛇足 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト 全2巻』

本書は五人の翻訳者が分担し、全体のある程度の統一を柴田元幸が担当しているのだそうだ。その五人の中に岸本佐知子がいる。10年前に岸本を含む座談を聴いた。2014年2月9日…

熊本熊
3日前
17

ポール・オースター編 柴田元幸 他訳 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト 全2巻』 新潮文庫

5月に一週間ほど入院した。入院中に退院予定日の夕方に予約を入れておいたマッサージ店にその後も通うようになった。その店は普段利用している駅の隣の駅の駅ビルにある。…

熊本熊
9日前
21

「私」と「あなた」の幻想 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』

ホモ・サピエンスが誕生して30万年だか20万年が経過したらしい。6万年前まではアフリカ大陸で暮らしており、日照への対応を考えれば皮膚の色は褐色系であっただろう。6万年…

熊本熊
2週間前
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信条について 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』

もうすぐ都知事選挙だ。よく、初対面の相手と政治や宗教を語るべきではない、などという。これは欧米の精神科医が患者のカウンセリングに際して注意すべきことのひとつとし…

熊本熊
3週間前
24

国境について 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』

初めて日本の外に出たのは1984年3月だった。大学3年と4年の間の春休みにオーストラリアに出かけた。なぜオーストラリアだったのか、今となっては記憶に無いのだが、「外国…

熊本熊
3週間前
23

ハンナ・アーレント 著 大久保和郎 訳 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』 みすず書房

アイヒマンとは、オットー・アードルフ・アイヒマン(Otto Adolf Eichmann、1906年3月19日 - 1962年6月1日)のことだ。彼は戦時中、ナチス親衛隊員でユダヤ人移送局長官と…

熊本熊
3週間前
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菅野康晴 『生活工芸と古道具坂田』 新潮社

『ひとりよがりのものさし』の編集後記のような本。2022年11月に坂田和實が亡くなった後、新潮社の「青花の会」とその周辺では坂田関連企画が続いた。不定期に年3回ほど発…

熊本熊
1か月前
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ルイス・フロイス著 松田毅一 川崎桃太 訳 『完訳フロイス日本史 豊臣秀吉篇』 中公文庫 第四巻から第五巻まで

プーチンがドイツにいた頃 俺はプー太郎で 兄貴はプーさんだった 近所にプーシキンがいて 朝昼晩シーチキンを食っていたっけ 飼っていたプードルは 毎日カップヌードルの蓋…

熊本熊
1か月前
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大野晋 『日本語の教室』 岩波新書

本書は『日本語練習帳』の読者から寄せられた質問に答えるという趣旨でまとめられたものだそうだ。たくさんの質問があったであろうが、本書の建て付けとしては、16の質問と…

熊本熊
1か月前
27

網野善彦 『中世荘園の様相』 岩波文庫

先週木曜日に職場の昼休み勉強会の講師番が回ってきた。「150人考」と題して、ダンバー数の話をした。脳の容量はホモ・サピエンス誕生以来概ね変化はなく、文化やテクノロ…

熊本熊
1か月前
23

退院後二週間目 備忘録

5月19日 日曜日 特に出かける用がないので、終日家で過ごす。特記すべきことはない。 5月20日 月曜日から5月24日 金曜日 通常通り出勤。通勤は往復立ち、エスカレータ…

熊本熊
1か月前
29

ルイス・フロイス著 松田毅一 川崎桃太 訳 『完訳フロイス日本史 織田信長篇』 中公文庫 第一巻から第三巻まで

うっかり全巻買ってしまった。さまざまなところで史料として本書に言及されることがあり、以前から気にはなっていた。フロイスは1563年7月、31歳の時に来日、1597年7月に長…

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2か月前
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退院後一週間 備忘録

5月12日 日曜日 午前 退院する。今の妻と前妻との間の娘が出迎えに来る。娘とは病院前で別れ、妻とタクシーで帰宅する。 帰宅後、妻と近所のクリーニング店に行き、頼…

熊本熊
2か月前
27

カール・マルクス著 長谷部文雄訳 『賃労働と資本』 岩波文庫

たぶん「価値」というものは観念であって、それを恰も実体であるかのように認識するところから人間社会の喜劇的悲劇や悲劇的喜劇、悲喜交々が起こっている。所謂「社会主義…

熊本熊
2か月前
23

片岡千歳 『古本屋 タンポポのあけくれ』 夏葉社

本書はエッセイだ。古書店を営む著者が日々思うあれこれを綴っている。ただ、書いた本人も、その古書店も今はもうない。以前読んだ『昔日の客』も古書店の店主が書いたエッ…

熊本熊
2か月前
25

一般病床4日目

今いる病室は4人部屋だ。各自のスペースはカーテンで区切られているだけだが、かなり広い。他の患者とのやりとりは皆無。私のベッドは病室入ってすぐ左側。看護師とそれぞ…

熊本熊
2か月前
19
蛇足 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト 全2巻』

蛇足 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト 全2巻』

本書は五人の翻訳者が分担し、全体のある程度の統一を柴田元幸が担当しているのだそうだ。その五人の中に岸本佐知子がいる。10年前に岸本を含む座談を聴いた。2014年2月9日に世田谷文学館で行われた「おかしなトークショー」と題されたもので、登壇者はクラフト・エヴィング商會の二人、岸本佐知子、古屋美登里の四人だった。

かつてテレビのある生活をしていた頃(つまり2007年9月22日以前)、よく観ていた番組

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ポール・オースター編 柴田元幸 他訳 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト 全2巻』 新潮文庫

ポール・オースター編 柴田元幸 他訳 『ナショナル・ストーリー・プロジェクト 全2巻』 新潮文庫

5月に一週間ほど入院した。入院中に退院予定日の夕方に予約を入れておいたマッサージ店にその後も通うようになった。その店は普段利用している駅の隣の駅の駅ビルにある。ビルと言っても二階建てで、一階がスーパーで二階はマッサージ店のほかに書店や床屋などが入っている。その書店の品揃えが気に入っていて、マッサージに出かける度に何かしか買って帰る。先日ここに上げた『古本屋 タンポポのあけくれ』もそこでたまたま目に

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「私」と「あなた」の幻想 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』

「私」と「あなた」の幻想 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』

ホモ・サピエンスが誕生して30万年だか20万年が経過したらしい。6万年前まではアフリカ大陸で暮らしており、日照への対応を考えれば皮膚の色は褐色系であっただろう。6万年前あたりに何があったか知らないが、アフリカを出て世界中に拡散を開始した。緯度が変われば、日照時間と日照強度が変化し、日照が変化すれば植生が変化する。植生が変われば、そこで暮らす動物の種類も変わり、移動した先でホモ・サピエンスが手にする

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信条について 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』

信条について 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』

もうすぐ都知事選挙だ。よく、初対面の相手と政治や宗教を語るべきではない、などという。これは欧米の精神科医が患者のカウンセリングに際して注意すべきことのひとつとして言われていたものが世間に拡散したものらしい。

欧州の長い歴史の中で、様々な民族の移動があり、ローマ帝国のような大国家が成立したり消滅したり、キリスト教が成立したり分裂したり、時に大規模で長期にわたる武力紛争があり、ペストの大流行のような

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国境について 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』

国境について 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』

初めて日本の外に出たのは1984年3月だった。大学3年と4年の間の春休みにオーストラリアに出かけた。なぜオーストラリアだったのか、今となっては記憶に無いのだが、「外国」といえばアメリカという世間一般に抵抗してみたかったが、かといって前人未踏の土地に出かけるほどの根性がなかったというだけのことだろう。しかし、初めての外国はオーストラリアではなかった。格安航空券で往復したので、往路は成田を発って、福岡

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ハンナ・アーレント 著 大久保和郎 訳 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』 みすず書房

ハンナ・アーレント 著 大久保和郎 訳 『新版 エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』 みすず書房

アイヒマンとは、オットー・アードルフ・アイヒマン(Otto Adolf Eichmann、1906年3月19日 - 1962年6月1日)のことだ。彼は戦時中、ナチス親衛隊員でユダヤ人移送局長官としてユダヤ人問題の「最終的解決」のためユダヤ人を強制収容所に移送する指揮を執ったとされている。戦後は名前を変え、旧ドイツ内で何度か住まいを変えた後、アルゼンチンに移住して暮らしていた。1960年5月11日に

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菅野康晴 『生活工芸と古道具坂田』 新潮社

菅野康晴 『生活工芸と古道具坂田』 新潮社

『ひとりよがりのものさし』の編集後記のような本。2022年11月に坂田和實が亡くなった後、新潮社の「青花の会」とその周辺では坂田関連企画が続いた。不定期に年3回ほど発刊される『工芸青花』という会員制の機関誌が坂田趣味風の内容であり、その編集長である菅野はかつて月刊誌『芸術新潮』で編集者として坂田関連企画を主導したという経緯がある。

その『工芸青花』も「青花の会」も、過剰に理屈ぽい気はするが、メデ

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ルイス・フロイス著 松田毅一 川崎桃太 訳 『完訳フロイス日本史 豊臣秀吉篇』 中公文庫 第四巻から第五巻まで

ルイス・フロイス著 松田毅一 川崎桃太 訳 『完訳フロイス日本史 豊臣秀吉篇』 中公文庫 第四巻から第五巻まで

プーチンがドイツにいた頃
俺はプー太郎で
兄貴はプーさんだった
近所にプーシキンがいて
朝昼晩シーチキンを食っていたっけ
飼っていたプードルは
毎日カップヌードルの蓋を集めていた
わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ

2015年12月に佐賀にある名護屋城跡を訪れた。そこを目指して行ったのではなく、別件で佐賀を訪れた際についでに立ち寄ったのである。博物館があるものの、それがなければ日本最大級の城郭が

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大野晋 『日本語の教室』 岩波新書

大野晋 『日本語の教室』 岩波新書

本書は『日本語練習帳』の読者から寄せられた質問に答えるという趣旨でまとめられたものだそうだ。たくさんの質問があったであろうが、本書の建て付けとしては、16の質問とそれらに対する回答という形となっている。いわば『日本語練習帳』の補遺のようなものでもある。

『日本語練習帳』を読んだ後に本書を読んだので、ここに挙げられている質問自体に意外なものはないのだが、質問10から質問16にかけては「日本語と日本

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網野善彦 『中世荘園の様相』 岩波文庫

網野善彦 『中世荘園の様相』 岩波文庫

先週木曜日に職場の昼休み勉強会の講師番が回ってきた。「150人考」と題して、ダンバー数の話をした。脳の容量はホモ・サピエンス誕生以来概ね変化はなく、文化やテクノロジーといったソフトウエアを更新することで大小様々の組織を拵えているが、人が生理的に対人関係を取り結ぶことのできる相手の数は大体150人が限度であるという。このことは以前に何度かnoteに書いたので、それをもとにまとめた。一応、ダンバー数に

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退院後二週間目 備忘録

退院後二週間目 備忘録

5月19日 日曜日
特に出かける用がないので、終日家で過ごす。特記すべきことはない。

5月20日 月曜日から5月24日 金曜日
通常通り出勤。通勤は往復立ち、エスカレーターは使ったり使わなかったり。特記すべきことはない。結局、未読メールを片付ける作業は捗らず、この週は1,050通を残して業務を終了する。

ロンドン在住の直接の上司との月例電話が木曜日にあり、入院のことを尋ねられるかと思って脳挫傷

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ルイス・フロイス著 松田毅一 川崎桃太 訳 『完訳フロイス日本史 織田信長篇』 中公文庫 第一巻から第三巻まで

ルイス・フロイス著 松田毅一 川崎桃太 訳 『完訳フロイス日本史 織田信長篇』 中公文庫 第一巻から第三巻まで

うっかり全巻買ってしまった。さまざまなところで史料として本書に言及されることがあり、以前から気にはなっていた。フロイスは1563年7月、31歳の時に来日、1597年7月に長崎で亡くなった。この長期に亘る日本滞在は宣教師としてというよりは、当初から本書『日本史』執筆を目的としていたようだ。これは日本の歴史という意味ではなく、キリスト教の「日本布教史」であり、イエズス会の布教資料である。来日前はゴアの

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退院後一週間 備忘録

退院後一週間 備忘録

5月12日 日曜日

午前 退院する。今の妻と前妻との間の娘が出迎えに来る。娘とは病院前で別れ、妻とタクシーで帰宅する。

帰宅後、妻と近所のクリーニング店に行き、頼んでおいたコート類を受け取る。その衣類を持って妻は帰宅。私の方は普段の理容店に出向き、頭を刈ってもらい、顔を剃ってもらう。

帰宅して昼食をいただく。入院中は運動量が極端に少ないので空腹になろうはずもなく、形式的なものだ。

一服後、

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カール・マルクス著 長谷部文雄訳 『賃労働と資本』 岩波文庫

カール・マルクス著 長谷部文雄訳 『賃労働と資本』 岩波文庫

たぶん「価値」というものは観念であって、それを恰も実体であるかのように認識するところから人間社会の喜劇的悲劇や悲劇的喜劇、悲喜交々が起こっている。所謂「社会主義」や「共産主義」の理念に基づいて建国されたことになっている国々が、結果として悉くああいうことになってしまったのは、観念と実体とを混同したからではないか。或いは、その手のマヤカシをいつまでも続けることができなかったという至極常識的な帰結なのか

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片岡千歳 『古本屋 タンポポのあけくれ』 夏葉社

片岡千歳 『古本屋 タンポポのあけくれ』 夏葉社

本書はエッセイだ。古書店を営む著者が日々思うあれこれを綴っている。ただ、書いた本人も、その古書店も今はもうない。以前読んだ『昔日の客』も古書店の店主が書いたエッセイ集だ。古書に限らず古物を扱う人は、世間的には用済みとなったものに改めて価値を見出す、或いはそこから改めて価値を創造する目利きである、と思う。古道具屋の坂田さんだってそうだ。みんなすごい人たちだ。そういう人たちが書く文章は、なぜかとても柔

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一般病床4日目

一般病床4日目

今いる病室は4人部屋だ。各自のスペースはカーテンで区切られているだけだが、かなり広い。他の患者とのやりとりは皆無。私のベッドは病室入ってすぐ左側。看護師とそれぞれの患者との会話から推察するに、私の隣は二十代前半で、何か外傷のようだ。昨日まで痛みがどうこう言っていたが、今日退院。私の向かいは高校三年生。やはり外傷らしい。手術後の経過が思わしくないようで、医師が比較的頻繁に様子を診にきている。斜め向か

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