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読書感想と本について

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小説の感想と本についてのお話。
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#読書感想文

第18回読書会報告書

第18回読書会報告書

 9月15日(日)15:00から第18回いわぬま読書会が開催されました。
 本日はあいにくの雨天、傘をさしても所々にできた水溜りのせいで、歩くたび路上に跳ね返った雨粒がズボンの裾を濡らしました。そんな中、ご参加いただき誠にありがとうございました。第18回目の課題本は 樋口一葉「たけくらべ」 です。現代語訳を想定しておりましたが、原文そのままの「たけくらべ」をお持ちになる方もいました。私も2冊持って

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『父親の死体を棄てにいく』感想 カクヨム企画 番外編

『父親の死体を棄てにいく』感想 カクヨム企画 番外編

黒田八束さんによる、カクヨム企画 『 父親の死体を棄てにいく 』で寄せられた8作品の感想です。Xでやると長文になってしまうため、noteにまとめて記載させていただきました。企画内容↓

以下感想は開催中の参加順。

① 雪の晩鐘 -下村アンダーソンさんその人の境遇や生活環境、価値観や嗜好など、互いに違うことを明確にするキーとして『音楽』はとても最適かもしれない。他者と出会い、こういう生き方もあり得

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「家康、江戸を建てる」門井慶喜 感想

「家康、江戸を建てる」門井慶喜 感想

 読書会でオススメしていただいた本書。時代小説がより面白くなるとのお墨付きが本当でした。
 正直、昨年の大河はこういう物語が見たかったのです。とまぁそれはさて置き、何もない沼地だらけの不毛の大地に260年という歴史を刻んだ、その始まりに着手した武士と、技術者、人足(労働者)、開拓者など、江戸を建てることに関わった人々のお話。

 大きな河川を移動し、金貨を流通させ、飲水を広域に引き、城壁を築き、天

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第17回読書会報告書

第17回読書会報告書

7月21日(日)、第17回読書会が開催されました。
課題本 サン=テグジュペリ「星の王子さま」

 7月21日(日)の午後、連日の猛暑続き、べとつく湿気、アスファルトの陽炎、ゆがむ視界、なにもかも暑さにヤラれるこの時期、集中力も散漫になりがちです。そんなときはやはり、冷房の効いた室内でゆっくり読書するのがいいですね。本日は暑い中、読書会に足を運んでくださりありがとうございました。
 課題本は、大人

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「海岸通り」 坂崎かおる 感想

「海岸通り」 坂崎かおる 感想

〈 あらすじ 〉

※本文に触れているためネタバレにはご注意下さい。

 「海岸通り」坂崎かおる

 第171回芥川賞候補作。
 とてもよかった…また好みの作家さんに出会えた。

 海辺の老人ホームで派遣清掃員として働くクズミはウガンダからきた新人のマリアに仕事を教えることになる。
 同僚や施設の入居者達、在日外国人によるコミニティなど繊細な問題がある中で時にクスッとしてしまうようなクズミの比喩が

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家父長制アンソロ「父親の死体を棄てにいく」感想

家父長制アンソロ「父親の死体を棄てにいく」感想

家父長制アンソロジー「父親の死体を棄てにいく」

〚 あらすじと感想 〛
家父長制に対するアンチテーゼとして、父親の死体を棄てにいく小説だけを集めた文芸アンソロジー。
あらすじは『おざぶとん』黒田八束さんの通販サイトより引用致しました。以下掲載順です。
※物語にふれているため、未読の方はネタバレにご注意ください。

① Sewing Pieces Together(落山羊さん)
「次のお話を探そう

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第16回読書会報告書

第16回読書会報告書

 6月16日(日)18:00〜19:00まで、第16回いわぬま読書会が開催されました。課題本は、井伏鱒二【山椒魚】 です。

 宮城県は梅雨入り宣言もまだですが、この日は真夏日と言われるほどの暑さでした。各地で30℃以上を記録したところもあるそうです。風が吹けば、涼しく感じるのはまだマシな方なのでしょう。これがそのうち熱風になると思うと、今から夏対策は考えていかなければならないですね。
 この日の

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ペーパーウェル12感想

ペーパーウェル12感想

 2024年5月24日〜6月2日まで開催された第12回ペーパーウェルが終了しました。

 今回私は、短歌+写真(青空に咲く満開の藤)にて参加させていただきました。たくさんのダウンロードとコンビニでのネットプリントをありがとうございました。

 短編小説、自作品の番外編、本の書評、そして短歌と写真で参加してきましたが、次回はまた戻って何か文章で参加したいなぁと思います。今回の参加作品は折本が多かった

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「忘れられない日本人 民話を語る人たち」小野和子 感想

「忘れられない日本人 民話を語る人たち」小野和子 感想


「 忘れられない日本人 民話を語る人たち 」
             小野和子

 前作の「あいたくて ききたくて 旅にでる」が好きだったので、今回の2作品目も迷わず購入しました。
ブックカフェ火星の庭さんで購入

 今回は語り部たち8人にスポットを当てた、彼らの人生と思い出をまとめたもの。
 常々、『人の一生は文学になる』と思っていたが、今回の本書を読んでますますそう感じました。それと同時に

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「黙って喋って」ヒコロヒー 感想

「黙って喋って」ヒコロヒー 感想


 「黙って喋って」 ヒコロヒー

※若干ネタバレを含みますので未読の方はご注意ください

 思ってた以上にすごくよかった。比喩表現が巧みで、彼女にしかできない表現方法が面白く、この感じ、結構好きだなと思った。短い物語のなかで、よくある身近な話題から二人にしかわかりあえない微妙なニュアンスの部分まで、男女の繊細な機敏をわかりやすく、また文章も読みやすい。それが、人気の理由なのかもしれません。
 最

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第15回読書会報告書

第15回読書会報告書

 2024年4月29日(月・祝)14:00〜15:00、第15回目の読書会が開催されました。
 課題本は 若竹千佐子さんの「おらおらでひとりいぐも」です。 第54回文藝賞、第158回芥川賞受賞作品。本作は2020年に田中裕子さん主演で映画化もされています。

 若竹千佐子さん「おらおらでひとりいぐも」

※ネタバレを含みますので未読の方はお気をつけください。

 4月下旬、曇が多く涼しい風がほどよ

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「My bookshelf〜時を探して〜」

「My bookshelf〜時を探して〜」

「 My bookshelf 〜時を探して〜 」

 X(旧twitter)のWeb企画、ペーパーウェル11(2023年9/30開催)の参加作品です。テーマは『 時計・時間 』でした。概要はこちら、

 私は作品の配信と読者の両方で楽しませて頂いております。いつもは物語の短編で参加していたのですが、11回では趣きを変えて時計や時間に関する本を紹介しました。読書の薦めのような、書評のような、推し本語

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「裁判官三淵嘉子の生涯」伊多波碧 感想

「裁判官三淵嘉子の生涯」伊多波碧 感想


 「裁判官三淵嘉子の生涯」 伊多波 碧

 朝ドラ『虎に翼』が好きで拝読しました。

 女性の自立を阻むのは同じ女性だったりもする、という嘉子の言葉に頷いてしまう。日頃から常々思ってたことだったので嘉子が体験する疑問をリアルに感じました。彼女の生き方と後生への偉業は尊敬するし、少年達との対話は涙を耐えることができなかった。
 一冊分の生涯なので、本当はまだまだたくさんの困難があったんだろうなぁと

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「ぼくは青くて透明で」窪美澄 感想

「ぼくは青くて透明で」窪美澄 感想


「ぼくは青くて透明で」 窪美澄

 とてもよかったぁ。海くんと忍くんの関係だけでなく、海くんの継母や父親、同級生の視点などを、一話ずつ重ねながら進む物語は、多面的で一方の思い込みを柔らかく解いていく。
 文章ってきっと相性があるんだと思う。どんなに読みやすい文体でも読みづらく感じることはあるし、逆に難しそうでもすんなり頭に入っていって、スラスラ読めることもある。窪美澄さんの作品は、とても読みやす

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