門井慶喜

講談師と講談社――神田松之丞さんの慶事を祝す(前篇)門井慶喜「この東京のかたち」#8

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 講談師・神田松之丞さんが真打に昇進し、伯山(6代目)を襲名しました。伯山は44年ぶりに復活した大名跡だそうで、私ごとき歴史作家には対岸の火事……と言いたいところですが、じつは密接な関係があるという以上に、何というか、講談師という人々そのものと血をわけた兄弟のようなところがある。

 今回はこの慶事へのご祝儀として、そのへんの事情を述べましょう。舞台はまさかの本郷、東京帝国

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直木三十五の場合――東京とは馬が合わなかった 門井慶喜「この東京のかたち」#7

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 第162回芥川賞・直木賞が発表されました。ここでは直木賞のほうに話をしぼりますが、受賞者が川越宗一さんと聞いて、私は、

 ――宗一かあ。

 偶然の一致がおもしろかった。直木賞はいうまでもなく大正昭和期の作家・直木三十五を記念したものですが、この作家は、本名を植村宗一というんです。 

 姓の「植」の字をふたつに割って「直木」のペンネームにしたわけで、つまり今回は、宗一

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「浮沈艦」高橋是清 門井慶喜「この東京のかたち」#6

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「浮き沈みが激しい」という慣用句があります。

 人生のいいときと悪いときの差が大きい、くらいの意味でしょうが、それで行くと、近代日本史上もっとも浮き沈みの激しい人はまちがいなく高橋是清。大正期には総理大臣をつとめ(第20代)、昭和11年(1936)の二・二六事件では現役の大蔵大臣のまま青年将校に射殺されましたが、彼の人生は、むしろそれ以前のほうが乱高下がはなはだしかった。

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銀座は大阪に負けた 門井慶喜「この東京のかたち」#5

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 銀座はつらいよ、という話を前々回しました。今回はその「つらい」銀座に誰がした、という話をします。ややスキャンダラスに言いかえるなら、誰が銀座を殺したか。

 結論から言うと、その犯人は大阪でした。まずは前々回のおさらいから。銀座は維新後すぐ、明治5年(1872)にはもう「銀座煉瓦街」という美しい名のベッドタウンになった。ベッドタウンということは他の使いみちがないということ

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新国立競技場が「おとなしい」理由 門井慶喜「この東京のかたち」#4

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 新しい国立競技場が完成しました。一般むけの開場イベントはあした(12月21日)だそうですが、私はたまたま用事があり、完成直前に向かいの「三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア」に泊まったので、ひとあし早く、競技場の建物をいろいろな角度から眺めることができました。

 何しろホテルの屋上テラスから見おろした、客室から見た、もちろん地上からも仰ぎ見た。大型ビジョンにちらちらと

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ベッドタウン銀座 門井慶喜「この東京のかたち」#3

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 その街はむんむん動物のにおいがしました。猿芝居、犬の踊り、熊や虎の見世物小屋……浅草や両国ではありません。銀座の話です。銀座に見世物小屋があったんです。

 とにかく毎晩たいへんな人気だった。明治8年(1875)8月31日付「郵便報知新聞」には、午前1時すぎまで騒がしかったとあり、

「新橋よりゑびすやの辺が最も人通り繁(しげ)く」

 うんぬんとあります。もしも「ゑびす

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なぜ丸善は日本橋なのか――門井慶喜「この東京のかたち」#2

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 ハヤシライス、おいしいですね。薄切りの牛肉と玉ねぎをケチャップとウスターソースで煮こんで白いごはんにかけるという例のあれですが、いや煮こむのはドミグラスソースだとか、ごはんはバターライス一択だとか、こだわる人も多いでしょう。

 元来は、粗雑のきわみの料理でした。以下は明治初期の話と思われます。「丸善」創業者・早矢仕有的(はやし・ゆうてき)は、友達が来ると、たまたま台所に

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門井慶喜さんの無料連載が始まりました!

皆さん、こんにちは。

 本日、文藝春秋digitalオリジナルの無料連載に強力なラインナップが1つ追加されました! 作家の門井慶喜さんによる「この東京のかたち」です。「東京」と書いて、「まち」と読む。このまちのかたち。後述しますが、そこが、この連載の重要なポイントです。

 2003年に『キッドナッパーズ』でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビューした門井さんは、2008年『人形の部屋』、200

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「東京」誕生――門井慶喜「この東京のかたち」#1

東京駅ってなんて小さいんだろう、と思うことがあります。

 もちろん現在のそれは1日あたり乗降客数90万人、列車発着本数4100本という日本のまさしく大玄関なのですが、しかしたとえば丸の内中央口から少し皇居のほうへ行ったところで振り返ると、意外にも、赤煉瓦の駅舎はあっさり一望できてしまう。プロポーションが極端に横長であるにもかかわらずです。

 もともと人間の視野そのものが横長だからでもあるでしょ

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旅と本 『家康、江戸を建てる』

今回、推薦図書のハッシュタグで投稿してみます。
数か月前に門井慶喜さん著作の『家康、江戸を建てる』を読んだ後、実際にその場所に行ってみたいという衝動にかられたので紹介します。

本のタイトルから、描かれている場所は説明不要の東京都です。

目次は下記のように五話構成になっていて、
大まかに言うと東京都の礎となる江戸が、
どのようにできていったのかがわかる物語になっています。

第一話 流れを変える

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