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70歳前半、もう少しだけ若さを保ちたいなぁと思っています。ゆっくり投稿していきます。

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最近の記事

『「保守」のゆくえ』 佐伯啓思

ひとり遅れの読書みち 第36回 著者は、今こそ「保守の精神」が必要と訴える。それは、今日の「すさまじい勢いで進展する科学・技術の革新、市場のグローバル競争、民主政治の混乱など」が、まさしく「進歩」を求め続けたあげくの「現代文明のクライシス」としか思えないからだという。今後「人間の倫理はますます破壊」されてゆくだろうし「日本もいまや喜び勇んでこの文明破壊のなかに飛び込もうとしているのではないか」との危惧を表明している。 著者によると、「

    • 『藩邸差配役日日控』 砂原浩太朗

      ひとり遅れの読書みち 第35回 神宮寺藩江戸藩邸の里村五郎兵衛は、差配役を務める。陰では「何でも屋」と揶揄されるが、藩内のあらゆる揉め事が持ち込まれ解決を目指す。藩邸の管理を中心にして、殿の身辺から人事はもちろん襖障子の貼り替え、厨の事まで目を配る。やや年長で汗かきの副役とやる気なさそうながら剣の腕はたつ若侍などとともに、藩内の困り事に対応を迫られる差配役の日々を描く。江戸家老と留守居役との確執も裏で展開され、目が放せない。 ある日、桜見物

      • 『覇権なき時代の世界地図』 北岡伸一

        ひとり遅れの読書みち 第34回 冷戦が終結し、米国に世界を束ねる責任感やリーダーシップがなくなり、米国はじめ先進諸国の経済的、軍事的、理念的な影響力は後退している。一方、G20の力は強まり、グローバル・サウス(GS)と呼ばれる国々の力も勢いをつけてきた。「覇権なき時代」に日本はどう進み、どんな役割を果たすべきか。 著者はJAICA(国際協力機構)の理事長として約120カ国を訪れた体験をふまえて論を進めていく。国連大使を務めた国際政治学者としての

        • 「古今和歌集」の創造力鈴木宏子

          ひとり遅れの読書みち 第33回 今から約1100年前に編まれた『古今和歌集』は、今も私たち日本人のこころに「それと気づかないところで」大きな影響を与えている。 春になると桜前線に注目するし、桜が散ると、それを花吹雪と捉える。また、秋の紅葉を錦織物のように眺める。『古今和歌集』の「こころ」と「ことば」が日本人の「ものの捉え方」や「感じ方」を規定してきた、と著者は指摘する。『古今和歌集』の「フィルター」を通じて自然を見つめているというのだ。古今和歌集的

        『「保守」のゆくえ』 佐伯啓思

          『本居宣長』 先崎彰容

          ひとり遅れの読書みち 第32号 江戸中期の国学者、本居宣長についての書籍ながら、冒頭のページに、G7広島サミット(2023年5月開催)と大東亜会議(1943年11月)の写真が登場する。前者は岸田文雄首相を中心にして西側先進7カ国の首脳が写ったもの。後者には東條英機首相を中心として、ビルマ、満州、中華民国、タイ、フィリピン、インド各国代表7人が並んでいる。当時アジアの盟主として、日本が西洋列強の帝国主義に対抗して世界秩序を創り出そうとしたときのものだ。

          『本居宣長』 先崎彰容

          『戦士の遺書』 半藤一利

          ひとり遅れの読書みち 第31回 太平洋戦争に散った軍人28人の遺書を取り上げ、家族や友人、国への思いを明らかにする。それぞれの人物像とともに歴史的な背景を描く。戦艦大和とともに海に沈んだ第2艦隊長官伊藤整一海軍中将から始まり、終戦決定時の陸軍大臣阿南惟幾大将まで、立場は違い、戦況もそれぞれ、また考え方も異なる人々を、昭和史研究の第一人者、半藤一利が簡潔にしかも情理を尽くした文章で記す。 軍人が最期に残した一言一言を読むと、今の私たちには

          『戦士の遺書』 半藤一利

          『戦後政治と温泉』 原武史

          ひとり遅れの読書みち 第30回 日本の政治トップは、太平洋戦争直後の1940年代後半から高度経済成長期にあたる60年代にかけて、箱根や伊豆などの温泉地にとどまって政権の維持をはかり、また国内外の課題解決の道を探った。さらに、いかに権力を保ち政界の力関係を自陣に有効にできるかを考えながら、近郊に居住する主要な人物との交流を進めた。GHQによる占領統治を経て日本が独立を回復し、経済的に復興していく時期である。 吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山、岸信介、池

          『戦後政治と温泉』 原武史

          万葉仮名でよむ『万葉集』 石川九楊

          ひとり遅れの読書みち 第29号 書家の石川九楊が「万葉集」を新しい視点で読み解き、その魅力を一層引き出している。今私たちが普段目にする漢字仮名交じりの歌ではなく、すべて漢字で書かれた歌を読む。漢字一字一字に込められた意味を理解しながら元の「万葉の姿」に戻る。すると、一層ダイナミックに歌声が響いて聞こえて来る。自然の動きや人々の生きる姿が、これまで以上に私たちの心に迫って来る。瞠目に値する万葉集の味わい方だ。 例えば、万葉集の二番目の歌だ。 大和に

          万葉仮名でよむ『万葉集』 石川九楊

          『評伝 良寛』 阿部龍一著を読む

          ひとり遅れの読書みち 第28回 江戸時代の僧、良寛の「実像」に迫る出色の評伝だ。良寛の詩歌や書は夏目漱石や斎藤茂吉など著名な文学者をはじめ数多くの人々を魅了してきた。なぜか。著者は従来の評伝では見落とされてきた彼の「生き様」を改めてたどる。良寛の魅力の源泉を探るとともにその「真の姿」を描く。そこには「血のにじむような修行」を経てはじめて得られた人生があった。さらに著者は、現代社会に生きる私たちに良寛が何を教えているかと問い、「幸福の方程式」と名付け

          『評伝 良寛』 阿部龍一著を読む

          『「太平洋の巨鷲」 山本五十六』 大木毅

          ひとり遅れの読書みち 第27号 昭和海軍の連合艦隊司令長官山本五十六については、数多くの評伝が出版されている。戦前から今日まで、山本への評価は大きく転変してきた。「名将」との評価がある一方、「愚将」と指摘の声もある。著者の大木毅は、ここで新しい視座をとる。軍事の専門家としての能力からの分析だ。戦略、作戦、戦術という「三次元」から、山本の能力を分析しようとの試みである。「人間的な側面」については、あえて関与しない。 大木は「三次元」の関係を次のよう

          『「太平洋の巨鷲」 山本五十六』 大木毅

          『定価のない本』 門井慶喜

          <ひとり遅れの読書みち 第26回> 古書店の街、東京の神田神保町で、第2次大戦直後に起きた事件。ある古書店の店主が、崩落した古書の山に圧し潰されたというのだ。商いのために自らが集めた古書に殺されたかのような最期だった。 古くから付き合いのあった先輩格の古書店主が、事後の処理を引き受けるが、幾つかの不可解な点が見つかり、ひとり真相の究明に乗り出す。するとそこには戦後政治の闇に潜む陰謀が絡んでいた。犯人捜しのミステリーに魅力されると同時に、神保町の古書店主

          『定価のない本』 門井慶喜

          『歳時記 夢幻舞台24の旅』 髙樹のぶ子

          ひとり遅れの読書みち 第25号 不思議な物語が春夏秋冬と季節ごとに24編収められている。どの物語も読み始めると、知らず知らずのうちに引き込まれて、夢幻の世界を旅ゆく気持ちになる。民話のような語り口の作品もあるし、在原業平を描いた作家らしく中世の歌物語も登場する。 場所は様々、東京、千葉、沖縄、ギリシャ、満州、場所不明の土地も。登場人物は、幼子から98歳のおばあさんまで。時代は、現代から太平洋戦争前後、あるいは平安時代、よくわからない時まで、これも様々

          『歳時記 夢幻舞台24の旅』 髙樹のぶ子

          『死にかた論』 佐伯啓思

          ひとり遅れの読書みち 第24号 誰にでも「死」は訪れる。「生」まれたものには必ず「死」が来る。「生と死」とはどういうものか。私たちにはどうかかわって来るのか。難しいテーマだ。著者は、近代思想に根差す「死生観」の限界を示しながら、日本古来の伝統的な考え方、さらには仏教がこれにどう影響を及ぼしてきたかを論じる。 私たちは「死後」については知ることができない。しかし「生」から「死」に至る「間」については、考えることができる。「生から死へと移りゆくその間をどのよ

          『死にかた論』 佐伯啓思

          『人類史の精神革命』 伊東俊太郎

          ひとり遅れの読書みち 第23回 ギリシャ、中国、インド、イスラエルの4地域で、前5世紀頃を中として、哲学や普遍宗教の源点が定められた。ギリシャでの哲学の誕生、中国での儒教の成立、インドにおける仏教の勃興、イスラエルでのキリスト教の形成だ。なぜ東西の地で同時並行して人間の精神上の大変革が起こったのか。 哲学者ソクラテス、聖人孔子、覚者ブッダ、預言者イエスという4人の始祖の思索と行動を深掘りしながら究明していく。 また、宗教と科学は長い間根本的に対立し拮抗し

          『人類史の精神革命』 伊東俊太郎

          『福音列車』 川越宗一

          ひとり遅れの読書みち 第22号 明治維新から第2次世界大戦まで、国と国の歴史が激突する瞬間を生きた人5人をめぐる物語だ。既存の体制からはみ出した者たちが、海外を舞台にして繰り広げる人間ドラマである。 最初は本書のタイトルにもなっている「ゴスペル・トレイン」(福音列車)だ。九州佐土原藩の大名の三男島津啓次郎が維新直後、アメリカに渡り、アナポリスの海軍兵学校で学んでいたときに出会った黒人霊歌。根強く黒人差別が続くアメリカの食堂で聴いたゴスペルに感動し

          『福音列車』 川越宗一

          『日の名残り』 カズオ・イシグロ 土屋政雄訳

          ひとり遅れの読書みち 第21回 イギリス貴族の屋敷ダーリントン・ホールの執事スティーブンズが、数日間のドライブ旅行に出かけ、その途中での出会いや執事として働いてきた過去30年余りを振り返る。年老いた今、過去を理解しようとする中で、思い出すのは、敬愛する雇い主ダーリントン卿のこと、女中頭ミス・ケントンとの交流、また亡父のことなど。第1次大戦後のイギリスを中心としたヨーロッパの政治状況も語られる。 イギリス南西部コーンウォールを目指す旅の途上で偶然出会う村人

          『日の名残り』 カズオ・イシグロ 土屋政雄訳