「黙って喋って」ヒコロヒー 感想
「黙って喋って」 ヒコロヒー
※若干ネタバレを含みますので未読の方はご注意ください
思ってた以上にすごくよかった。比喩表現が巧みで、彼女にしかできない表現方法が面白く、この感じ、結構好きだなと思った。短い物語のなかで、よくある身近な話題から二人にしかわかりあえない微妙なニュアンスの部分まで、男女の繊細な機敏をわかりやすく、また文章も読みやすい。それが、人気の理由なのかもしれません。
最初の『ばかだねぇ』は、なんて優しいんだろうと思った。悪口のようでいて労う言葉の遣い方ってすごく難しいんでしょうけど、その友人の「ばかだねぇ」は全然尖っていなかった。柔らかくて、受け身で、包みこんでくれるようなニュアンスに聞こえた。
『しらん』のお話は、社会人になると、どんどん心が擦り切れてきてしまって、相手のことを純粋な気持ちで支えきれなくなってくる。
夢を語り、願い、挑み続けることは本当に難しくて、一握りの人だけに許された舞台。だからこそ、自分がほど遠いと気付いたときの虚しさは計り知れないものがあるし、結婚だって夢の一つ。過去の自分を無かったものにしたくない。泣きながら目の前の人にありがとう、うれしい、と礼を言いながら、過去の記憶を重ね合わせる行為は誰もが覚えがあるもので、「そうだったらよかったなぁ」と、傍観するくらいがちょうどいい。
あと『春香、それでいいのね』は、男女のお話が多いなかで、母と娘のやりとりが中心になっている物語。もしくは家族のお話。
これは、母の娘に対する健やかであれという願いと欲望に純粋なことへの羨慕があるのかもしれないなと思った。
『問題なかったように思いますけど』も印象的でした。これも男女というより同僚や会社内での人間関係のお話。今のハラスメントに対して、価値観を揺さぶられるような、ヒコロヒーさんの皮肉もはいっているようで、悪習という言葉を思い起こした。
ハッピーエンドもバッドエンドも、また終わり方がそのどちらでもない場合でも、読み手によって受け取り方が全く違ってくるのかもしれない。そんなお話と、魅力的な登場人物たちによる人対人の多彩な感情の数々。それでも、よかった……と心が暖かく満たされたような、いい余韻に包まれました。
ヒコロヒーさんの次作がでたら、また読みたいです。
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