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noteで面白かった話

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noteの中で良いなあと思った作品をまとめます。
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#小説

中央線 #金曜ビター倶楽部

中央線 #金曜ビター倶楽部

中央線に、会った。

中央線は朱色のトレーナーを着ていた。そのトレーナーがもう少し黄みがかっていて緑のラインが入っていたりしたら、あるいはわたしは「彼は東海道線なのでは?」と疑ったかもしれない。

けれど、わたしは彼が中央線であることを確信した。わたしの確信はわりかしよく当たる。

中央線はB型っぽい天秤座っぽい男だったが、そこのところは本人に確かめたわけではないのでわからない。彼はやせっぽちでめ

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恋に落ちた日

恋に落ちた日

それはまだ、恋になる前のこと。

明日は月に一度の店長会があるから、いつもより朝が早い。早いところまとめて寝ようと考えながら、施作と数字を追って報告書をまとめていた、そんな木曜日の夜。

先日、たまたま共通の知り合いを介して出会った彼から連絡が入った。

「今何してる?ちょっと会えない?」

その時すでに22時を過ぎていて、私は明日のことを考え断った。また会いたいなとは思っていたけれど、恋い焦がれ

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林伸次さんの小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』全文公開記念「#ファーストデートの思い出」を募集!

林伸次さんの小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』全文公開記念「#ファーストデートの思い出」を募集!

いつもnoteをご利用いただき、ありがとうございます。

noteでもおなじみの、林伸次さんのはじめての小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)。

燃え上がる恋が次第に冷め、恋の秋がやってきたと嘆く女性。1年間だけと決めた不倫の恋。バーテンダーを前にして滔々と「恋」を話し出す人々。やがて薄れるように、消えるように、終わっていってしまったいくつもの恋を記憶する、切ない恋愛小

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小説家はbarにいる①(bar bossa・林伸次さんインタビュー)

小説家はbarにいる①(bar bossa・林伸次さんインタビュー)

渋谷の喧騒から、少し離れたところに佇む「bar bossa」。

マスターの林伸次さんが、初の小説を出版されました。
「恋はいつもなにげなく始まって、なにげなく終わる。」という印象的なタイトルの本です。

数年前から林さんの文章を読んでいた私は、この本について、そして林さんについて訊いてみたいことがたくさんありました。
今回、林さんのご厚意で、インタビューが実現しました。2万字のインタビューから、

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❝渋谷 bar bossa❞経営&作家の林伸次さんにお聞きしました

❝渋谷 bar bossa❞経営&作家の林伸次さんにお聞きしました

先日、渋谷のbar bossaにて、林伸次さんに『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』についての取材をさせていただきました。

先日林さんがnoteで、「学生の方とかインタビュー初めてという方でも歓迎」と書いていらっしゃったので、素人の私も思い切って応募してみました。

林さんはとても気さくで明るく優しく、とても話しやすい方でした。

ですが私は、好きな人・尊敬している人を前にすると、

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土のにおい

土のにおい

(約3400字)

鶏が死んだ。
冷たく乾いた日々のあと、小雨が数日続いた。その日の朝、雨上がりの地面は太陽に暖められ、生気が立ち上り、陽光の中に生まれたばかりの小さな羽虫が無数に飛んでいるのが見えた。春の知らせは気分のいいものだ。何か新しいことが始まる予感がある。私は朝食を済ませると、庭に出て鶏の餌の準備をした。鶏に与える餌は市販の配合飼料でもいいのだけど、小米やぬか、近所の魚屋からもらうアラ、

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ふられたほうが楽なのは知っている

ふられたほうが楽なのは知っている

先日も書いたのですが、林伸次さんの「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」がすごくいいんです。

私は単行本で読みましたが、cakesでも一話ずつ公開しています。


特にこの話「この恋がうまくいかないことは私がいちばんわかっている」が好き。

この小説は、バーに来たお客様がマスターに自分の恋のことを語る物語です。

ふと思いついてしまったんですが、舞台をバーから山小屋にして、マスター

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エモい文章の作り方

エモい文章の作り方

エモい。この不明瞭な形容詞が定着するなんて思わなかった。

エモさとは何なのか? Wikipediaには「感情が動かされた状態」、「感情が高まって強く訴えかける心の動きなどを意味する日本語の形容詞」と書いてあるけれど、いまいちよくわからない。

一方で、私の文章は、「エモい」と評価をもらうことが多い。謎めいた形容詞で言い表される文章とは一体どういうことなのか?

こんなことを書きながらも、自分自身

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『アップルパイ』(短編小説)

『アップルパイ』(短編小説)

(あらすじ)
 夫は無類のアップルパイ好き。それはどうやら、昔の彼女に訳があるようで...アップルパイと初恋をめぐる小さな物語。

**『アップルパイ』 上田焚火 **

「あなたって、どうしてそんなにアップルパイが好きなの?」

妻にそう言われて、確かにそうだ、と私は思った。

その日は誕生日で、目の前にはショートケーキじゃなくて、アップルパイがあった。

銀色のアルミの皿に入っているホールのア

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申し訳ないのはこっちです

申し訳ないのはこっちです



1.

どんなに超絶急いでいても、駅の改札は開かない時は開かない。特にsuicaにお金が入っていない時はなおさらだ。でも人は焦れば焦るほど、当たり前の事実から目を背けがちになる。何かの間違いでは?となんどもセンサーにカードを叩きつけ、貴重な数秒が流れていった。

この日はイラスト持ち込みの営業の日で、時間が迫っていた。その会社はなんども電話してようやくアポの取れたセンスのいい憧れの会社だった。

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純粋個性批判

純粋個性批判

 モリー・ガールをご存知だろうか? もちろん知っているでしょう。時代の寵児であり、単なる色モノであり、本物の本物であるMolly Girl。大昔のあやふやな概念でしかない「森ガール」なんて言葉をもじって自分の名前にしようとする変な奴だし、そもそも森が好きではないし、盛りは多めだし、銛で人を突き殺すくらいのことはしでかしそうな、あのモリー・ガールだ。私と彼女の思想はとてもよく似ている。というより、ほ

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恋愛小説

恋愛小説

 パソコンのデータを整理していたら、中学生のときにこっそり書いた恋愛小説が出てきた。冒頭の数文字を読んだだけで、大長編の物語が当時の思い出したくない記憶と共に急速に蘇ってくる。それをゴミ箱にドラッグするかほんの少し躊躇ったところを、隣でテレビを見ていた建一はすかさず気づいた。

「これ、ミズキが書いたの?」

 建一は興味津々で、私の太腿に乗せたノートパソコンに顔を近づける。私は全力で彼の体を押し

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覆面先輩ライターに聞いた!お金がもらえる文章を書くために必要なこと(1)

覆面先輩ライターに聞いた!お金がもらえる文章を書くために必要なこと(1)

某社の編集者たち(※コルクラボの愉快な仲間たち)が会社の垣根を超えて活動する「覆面編集者プロジェクト」では、作家志望者の方に役立つ情報を定期的にお届けします!

今回は「覆面先輩ライターに聞いた!お金がもらえる文章を書くために必要なこと」です!

ライターの仕事は小説を書く、ということにも役にたつ部分があるかも?ということで、私、覆面新人ライターSMが、覆面先輩ライターNにライターで食べていけるに

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こぼれ落ちた気持ち拾います (前編)

【小説】

 

〈こぼれ落ちた気持ち拾います〉

 街角で見かけた奇妙な看板に惹かれて、古びた雑居ビルの階段を三階へとあがる。なかに入るのを躊躇うほど錆びて赤茶けたドア。〈こぼれ落ちた気持ち拾います〉と手書きの朱色の文字。僕のこぼれ落ちそうな気持ちも拾ってくれるのだろうか。
 
 勇気を出してノックをするが返事はない。ドアノブを回してそっと扉を開けると、仄暗い間接照明のなか高価そうな調度品が並

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