熊沢さとみ

文筆家。某出版社勤務。小説やエッセイを書いています。著書に『だれも知らないムーミン谷-孤児たちの避難所』(朝日出版社)。他、小学館「本の窓」4月号・5月号に短編小説を連続掲載など。

あの太り過ぎたピンクペリカンに乗って

日曜日の午後、水族館でデートしたときに彼がこう言った。 「あのピンク色のペリカン、太り過ぎていない?」って。  そのペリカンは4匹いる中で一際からだが大きくて、一…

おしゃべりな黒子

下唇の右下にある黒子は、ちょうどチョコレートボールを指で潰したくらいの大きさをしていて一際目立つから、私と向かい合うときはだれもがそれに夢中になった。  授業中…

2017.12.9

30歳を迎えた誕生日の夜、まだ知り合って間もない男の人と抱き合いながら、人生って思っていたよりずっと短いのかもしれない、と唐突に思った。だって、100歳まで生きると…

魔法がとけた夜のこと

22歳になるまで、わたしは自分のことを特別な子だって思いこんでいた。  でも、絵が上手かったり、足が速かったり、これと言って才能があったわけじゃなくて、結局のとこ…

音楽が聞こえる

玄関を開けると、ギターの音が聞こえくる。  その次に見えるのは窓際のソファに寄りかかる、ご機嫌なあの人の俯いた顔だった。ただいま。おかえり。今日の夕飯はなににす…

蜘蛛

真夜中、巨大な蜘蛛を見た。  それは掌を広げたのと同じくらいの大きさで、ベッドの真横にあるテーブルの隅にぴたりと静止していた。自分でもその気配に気づいて目を覚…