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恋に落ちた日

それはまだ、恋になる前のこと。


明日は月に一度の店長会があるから、いつもより朝が早い。早いところまとめて寝ようと考えながら、施作と数字を追って報告書をまとめていた、そんな木曜日の夜。

先日、たまたま共通の知り合いを介して出会った彼から連絡が入った。

「今何してる?ちょっと会えない?」

その時すでに22時を過ぎていて、私は明日のことを考え断った。また会いたいなとは思っていたけれど、恋い焦がれるでもないので自分の都合優先だ。

「明日の夜なら大丈夫なんですけど…」

と返すと、明日から仕事で海外に行くんだよね、とのこと。

すごく残念そうにする彼がなんだか可愛くて、「それじゃあ…今からどこに行ったらいいですか?」と送ってみた。「いいの⁈」とすごく喜んでくれて、なんだかこっちまで嬉しくなったの、覚えてる。

こうして私たちは、初めて2人きりで会うことになった。


彼は目黒に住んでいて、私の家は都庁の近く。「夜も遅いし車で迎えに行くよ」と言ってくれたので、お酒を飲むことになったら嫌だなと思い、そのままドライブがしたいと提案した。


小雨の降る夜の東京を、2人でドライブした。

東京に来たのに東京タワーを見ていないと私が言うと、ベタだけど行こっか、と言って連れて行ってくれた。

少し滲んだ東京タワーは、私の知っている東京タワーよりも、なんだか輝いて見えた。

きれい…と思ったのも束の間、フッとろうそくを吹き消したかのように、ライトは消えてしまった。それは0時を告げる合図だった。

突然のライトアップ終了に、2人で笑いながらまた車を走らせる。

あぁ、車でよかったな。電車の時間を気にしないで、まだ一緒にいられてよかったな。そんな風に思っていた。


好きな音楽のこと、過去の恋愛のこと、年齢のこと、結婚観。私たちは、たわいもない話から真面目な話まで、たくさんたくさん話した。

楽しかった。すごくすごく楽しかった。

車を止め、2人だけの静かな空間、流れる音楽に、心地好い会話。

時折話が止まり、でたらめな鼻歌に、リズムを刻む。

この人は喋らなくても苦じゃないな。なんて居心地がいいんだろう。それは私には珍しく、不思議な感覚だった。


こうして穏やかに時間を過ごし、気がつけば朝を迎えていた。

「もう5時ですね。明るい。」
「もう5時だよ。今日絶対眠いよね。」

と言って、すっかり雨の上がった朝の東京で、2人で笑いあった。


なんてことない。なんてことない時間だったのだけれど、たぶんこの日、私は恋に落ちたんだ。


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サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。