すだちくん

田舎者。

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記事一覧

知らないことは反省もできない / 「ディア・ハンター」

3時間にも及ぶ大作なんて、よほどの作品でなければ観る気もしないだろう。 「ディア・ハンター」はそんな傑作の1本だ。 スラヴ系アメリカ人の若者3人がベトナム戦争へ出征…

すだちくん
5時間前

キリスト教の空に? / 「ショーシャンクの空に」

映画が好きだという人と話していると、かなり高い割合で会話に登場する作品が「ショーシャンクの空に」だ。僕は大学生の頃、周囲の映画ファンがしきりに本作を勧めるものだ…

すだちくん
17時間前
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【超解説】 「オデュッセイア」はパイレーツ・オブ・エーゲ海

この noteを始めて1ヶ月ほど、ふとした時に「映画でよく引用される小説は何だろう」と考えていた。聖書を除けば「白鯨」と「闇の奥」は間違いなく頻繁に言及されているので…

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なんでそんなに必死なの / 「ミッション・インポッシブル」

ブルース・ゲラーという名を知る人はほとんどいないだろう。イェール大学で心理学と社会学を専攻して卒業したこの男が、1966年にCBSで Mission: Impossible (邦題はスパイ…

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1人でいることが嫌だからじゃないの? / 「ロブスター」

映画「哀れなるものたち」の感想がいくつもnoteに書かれているので、この作品を監督したギリシア人、ヨルゴス・ランティモスの出世作「ロブスター」について徒然なるままに…

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あえて触れない描法 / 「グランド・ブダペスト・ホテル」

シュテファン・ツヴァイクという名の作家をご存知だろうか。 主にオーストリアで生活していたユダヤ人で、おそらく第二次世界大戦前のヨーロッパ大陸でもっとも有名な作家…

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理系離れの原因は教職課程です

上掲の画像が何なのかお分かりだろうか。ドブに落ちたパインアメではない。 これは2019年に発表された、M87という銀河の中心にあるブラックホールの photon sphere (光子球…

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【超解説】 「フルメタル・ジャケット」とは人間のこと

トロイア戦争からユーゴスラヴィア紛争に至るまで、あらゆる戦争が映画の題材となってきたが、スタンリー・キューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」は傑作と言える…

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スペインは”なんでもないよ”のお国柄 / 「レッド・クイーン」

さて、こんな列島は放っておいてスペインの話である。 数年前、スペインのテレビドラマ「ペーパーハウス」が世界中でヒットした。8人組の強盗たちが綿密な計画を立て、人質…

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あらゆるものの用途を間違える才能に気付いていない日本人

たとえば「戦場のピアニスト」にせよ「ソフィーの選択」にせよ、ナチスとその影響を扱う映画は山ほどあるが、この列島の観客の大半はナチスについてほとんど知識を持ってい…

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保身だらけのこんな世の中じゃ / 「羅生門」

日本列島の歴史をじっと眺めていると、なんでそうなるの、と言いたくなるようなことが山ほど起きている。たとえば、有名な例を挙げると、「真珠湾攻撃はなぜ奇襲にすると決…

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「トレインスポッティング」という単語のおそらく本当の意味

若い頃に観た映画の中でも「トレインスポッティング」は特に印象深い。とにかくスコットランド訛りが聞き取れず、しかしそのことが妙に可笑しくなり、急いで書店に原作を買…

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狂気と知性は相反しない / 「羊たちの沈黙」

登場人物たちの風変わりな言動を通して、人間に潜む”狂気”を暴く作品を数多く残したロアルド・ダールは、晩年に1冊の本を絶賛した。 トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」で…

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ヘンタイの国のアリス・イン・コスプレランド

たとえば、4歳から15歳くらいまでの少女の写真を裸体も含めて何千枚も撮り、時にはコスプレ衣装も着させ、撮影した写真の状況などを細かくノートに書き付けている30歳くら…

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【超解説】 「バットマン」はコスプレした太宰治

映画は映像を使った表現方法なので、当然ながら小説を原作にしたものが多い。作り手は文字を読んで育ってきたからだ。そこでよく引用される小説が「白鯨」と「闇の奥」だと…

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みんなと一緒に流されないための”見ない”というカウンターパンチ

ノーベル文学賞の候補だと毎回騒がれているトマス・ピンチョンの小説を原作にした映画「インヒアレント・ヴァイス」は、ヒッピーが全米に山ほどいた頃の話だ。2014年の映画…

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知らないことは反省もできない / 「ディア・ハンター」

知らないことは反省もできない / 「ディア・ハンター」

3時間にも及ぶ大作なんて、よほどの作品でなければ観る気もしないだろう。
「ディア・ハンター」はそんな傑作の1本だ。
スラヴ系アメリカ人の若者3人がベトナム戦争へ出征し、それぞれ異なる人生を歩んでいくことになる様を描いたこの映画は、劇中のロシアンルーレットのシーンであまりにも有名になった。ちなみに、著名なジャーナリストから、ベトコンが捕虜とロシアンルーレットをしたなんて話は聞いたことがない、と批判さ

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キリスト教の空に? / 「ショーシャンクの空に」

キリスト教の空に? / 「ショーシャンクの空に」

映画が好きだという人と話していると、かなり高い割合で会話に登場する作品が「ショーシャンクの空に」だ。僕は大学生の頃、周囲の映画ファンがしきりに本作を勧めるものだから、反発するようにしばらく観なかったほどだ。無実の罪で投獄された男が刑務所で耐えて、やっと解放される、というシンプルな筋書きも然ることながら、主演のティム・ロビンスとモーガン・フリーマンがハマり役だったことも大きい。本作については多くの人

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【超解説】 「オデュッセイア」はパイレーツ・オブ・エーゲ海

【超解説】 「オデュッセイア」はパイレーツ・オブ・エーゲ海

この noteを始めて1ヶ月ほど、ふとした時に「映画でよく引用される小説は何だろう」と考えていた。聖書を除けば「白鯨」と「闇の奥」は間違いなく頻繁に言及されているので、リンク先の記事に書いた。ところが今日、クルマを運転している時に気付いた。「オデュッセイア」だ。小説ではないし、引用ではなくモチーフとして用いられているので見落としていた。
古代ギリシアの叙事詩にして、"名前は知っているけど読んだこと

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なんでそんなに必死なの / 「ミッション・インポッシブル」

なんでそんなに必死なの / 「ミッション・インポッシブル」

ブルース・ゲラーという名を知る人はほとんどいないだろう。イェール大学で心理学と社会学を専攻して卒業したこの男が、1966年にCBSで Mission: Impossible (邦題はスパイ大作戦)というテレビドラマをプロデュースした。言わずと知れた映画「ミッション・インポッシブル」シリーズの生みの親と呼べる人物だ。しかしゲラーは今日の大成功を見ることなく、1978年に大好きだった飛行機の操縦をして

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1人でいることが嫌だからじゃないの? / 「ロブスター」

1人でいることが嫌だからじゃないの? / 「ロブスター」

映画「哀れなるものたち」の感想がいくつもnoteに書かれているので、この作品を監督したギリシア人、ヨルゴス・ランティモスの出世作「ロブスター」について徒然なるままに書きたい。
こういう映画を大雑把に表現しようとすると、英語なら dystopia とか absurdity などの単語がすぐに思い浮かぶのだが、どちらもこの列島には存在しない形式なので、"暗黒郷"だとか"不条理"などの見慣れぬ単語をつか

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あえて触れない描法 / 「グランド・ブダペスト・ホテル」

あえて触れない描法 / 「グランド・ブダペスト・ホテル」

シュテファン・ツヴァイクという名の作家をご存知だろうか。
主にオーストリアで生活していたユダヤ人で、おそらく第二次世界大戦前のヨーロッパ大陸でもっとも有名な作家の1人だ。ドイツ語で著作を発表していたので、大学でドイツ語を学んだ方は名前に聞き覚えがあるかもしれない。僕は第二外国語がドイツ語だったし、戦前から戦後にかけてのヨーロッパの書物をたくさん読んだので、”ずいぶん名前がよく出てくる奴だな”と思っ

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理系離れの原因は教職課程です

理系離れの原因は教職課程です

上掲の画像が何なのかお分かりだろうか。ドブに落ちたパインアメではない。
これは2019年に発表された、M87という銀河の中心にあるブラックホールの photon sphere (光子球)である。人類が初めてブラックホールを”間接的に”目撃した瞬間だ。かつて物理学を専攻していた僕は何とも言えない感慨に耽った。
ここで”間接的に”と書いたのは、光子球のなかの黒い部分(俗にシャドウと呼ぶ)は黒い球がある

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【超解説】 「フルメタル・ジャケット」とは人間のこと

【超解説】 「フルメタル・ジャケット」とは人間のこと

トロイア戦争からユーゴスラヴィア紛争に至るまで、あらゆる戦争が映画の題材となってきたが、スタンリー・キューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」は傑作と言える”戦争映画”の一本だろう。
しかし、僕はこの映画を戦争映画とは思わない。これは人間の姿をじっと見つめた哲学書のような作品だ。この映画が公開される直前、オリバー・ストーン監督「プラトーン」が発表されているが、こちらは戦闘における人間の醜さを描

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スペインは”なんでもないよ”のお国柄 / 「レッド・クイーン」

スペインは”なんでもないよ”のお国柄 / 「レッド・クイーン」

さて、こんな列島は放っておいてスペインの話である。
数年前、スペインのテレビドラマ「ペーパーハウス」が世界中でヒットした。8人組の強盗たちが綿密な計画を立て、人質をとって造幣局に立てこもるーー、という筋書きなのだが、僕は第7話あたりで脱落してしまった。あまりにも登場人物たちが idiota (バカ)すぎて、見るに堪えなくなったのだ。このnoteを始めるよう僕に勧めた人に、もう観ていられないと言った

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あらゆるものの用途を間違える才能に気付いていない日本人

あらゆるものの用途を間違える才能に気付いていない日本人

たとえば「戦場のピアニスト」にせよ「ソフィーの選択」にせよ、ナチスとその影響を扱う映画は山ほどあるが、この列島の観客の大半はナチスについてほとんど知識を持っていないだろう。いくらフィクションとはいえ現実の世界に基づいた話なのだから、ある程度の知識があった方が良いことは誰でも分かると思う。このように、何かを上手に受け取るには素地が要る。そんなのめんどくさい!という方のための”ムービー”なら溢れている

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保身だらけのこんな世の中じゃ / 「羅生門」

保身だらけのこんな世の中じゃ / 「羅生門」

日本列島の歴史をじっと眺めていると、なんでそうなるの、と言いたくなるようなことが山ほど起きている。たとえば、有名な例を挙げると、「真珠湾攻撃はなぜ奇襲にすると決定されたのか」という問いに誰も答えることができない。日米交渉をしながら12月1日の御前会議で開戦が正式に決まるものの、そもそも外務省は11月から宣戦布告の有無を含めて検討していたし、一方で海軍の幹部は8日開戦であると把握していた。11月27

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「トレインスポッティング」という単語のおそらく本当の意味

「トレインスポッティング」という単語のおそらく本当の意味

若い頃に観た映画の中でも「トレインスポッティング」は特に印象深い。とにかくスコットランド訛りが聞き取れず、しかしそのことが妙に可笑しくなり、急いで書店に原作を買いに行ったことを思い出す。僕は家庭の事情で幼い頃から複数の方言に親しんで育ったので、英語の”方言”を耳にしたことがうれしかった。もちろん、原作も読みにくいことこの上なかったが、愉快な英語のレッスンだった。
本作の舞台はスコットランドの首都エ

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狂気と知性は相反しない / 「羊たちの沈黙」

狂気と知性は相反しない / 「羊たちの沈黙」

登場人物たちの風変わりな言動を通して、人間に潜む”狂気”を暴く作品を数多く残したロアルド・ダールは、晩年に1冊の本を絶賛した。
トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」である。ほとんどの人はこの題名を1991年の映画によって記憶しているが、1988年に出版された同名の小説が原作だ。
著者のトマス・ハリスに”シリアルキラー”について教示したのが、FBIの行動科学課(Behavioral Science Un

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ヘンタイの国のアリス・イン・コスプレランド

ヘンタイの国のアリス・イン・コスプレランド

たとえば、4歳から15歳くらいまでの少女の写真を裸体も含めて何千枚も撮り、時にはコスプレ衣装も着させ、撮影した写真の状況などを細かくノートに書き付けている30歳くらいの独身男がいたとしよう。今日なら間違いなくジェフリー・エプスタインの友人としてリトル・セント・ジェームズ島で楽しんでいたに違いない。「不思議の国のアリス」や「鏡の国のアリス」で知られるルイス・キャロルである。この小児性愛者が生み出した

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【超解説】 「バットマン」はコスプレした太宰治

【超解説】 「バットマン」はコスプレした太宰治

映画は映像を使った表現方法なので、当然ながら小説を原作にしたものが多い。作り手は文字を読んで育ってきたからだ。そこでよく引用される小説が「白鯨」と「闇の奥」だというnoteは既に書いた。というのも、20世紀以前にアメリカで優れた文学はほとんど生まれていない。ピューリタンの強い影響を受けて建国された国なので、今日の印象からすると意外かもしれないが、もともとアメリカの本流はいわゆる”お堅い”国だったの

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みんなと一緒に流されないための”見ない”というカウンターパンチ

みんなと一緒に流されないための”見ない”というカウンターパンチ

ノーベル文学賞の候補だと毎回騒がれているトマス・ピンチョンの小説を原作にした映画「インヒアレント・ヴァイス」は、ヒッピーが全米に山ほどいた頃の話だ。2014年の映画だが、よくこれだけ当時(映画は1970年の設定)の雰囲気を映像で再現したものだと感心した。ただ、これはドン・デリーロの「ホワイトノイズ」についてのnoteでも書いたことだが、優れた文学は得てして映像にしづらい。映像はどうしても時間が流れ

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