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#言葉

山の記憶、「山」の記憶

山の記憶、「山」の記憶

 今回は、川端康成の『山の音』の読書感想文です。この作品については「ひとりで聞く音」でも書いたことがあります。

◆山と「山」
 山は山ではないのに山としてまかり通っている。
 山は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通っている。

 体感しやすいように書き換えると以下のようになります。

「山」は山ではないのに山としてまかり通っている。
「山」は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通って

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うつす、うつる、うつってしまう

うつす、うつる、うつってしまう

 川端康成の『名人』には「うつす」と「うつる」と「うつってしまう」が出てきます。

 頼まれて「うつす」ことになった写真に「うつる」ものを見て、「うつってしまう」を感じたときの気持ちが文字にされているのです。「みる・みえる」について考えさせてくれる刺激的な記述に満ちています。

 なお、『名人』については以下の記事に書きましたので、よろしければお読みください。

写す・写る
 写真を撮る場合には、

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当てる

当てる

 石に石を当てる。
 石に「石」を当てる。

 いまここにあるたった一つのものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

 猫に猫を当てる。
 猫に「猫」を当てる。

 いまここにいるたった一つのものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

     *

 愛に愛を当てる。
 愛に「愛」を当てる。

「たった一つのもの」とは言えないものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

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まなざし、目差し、眼差し

まなざし、目差し、眼差し

 私は言葉を転がすのが好きです。眠れない夜とか、昼間にぼーっとしているときにやっています。

 具体的に言うと、次のように連想にうながされる形で言葉を並べていくのです。

 まなざし、目差し、眼差し、なざし、名指し、名付ける

 よく記事の中でも、言葉を転がしています。あれは記事を書きはじめたり、書きつづけるために、取っ掛かりを探しているのです。見切り発車で記事を書くので、どうしてもそうなります。

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うつろう かげろう

うつろう かげろう

 見出しの付いた各文章は連想でつなげてありますが、断章集としてお読みください。どこからでもお読みいただけます。

*言葉を転がす

 映る、鏡に映る、水面に映る、瞳に映る、壁に映る、スクリーンに映る
 映る、見える、眺める

 映す、鏡に映す、水面に映す、瞳に映す、壁に映す、スクリーンに映す
 映す、見る、観る

 映してみる、映しみる
 映して見る、映し見る
 移して見る、移し見る

 うつしみ

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【小話集】似ている、そっくり、同じ

【小話集】似ている、そっくり、同じ

 今回の記事はとても長いです。太文字のところだけに目をとおしても読めるように書いていますので、お試しください。なお、小話間で重複があるのは、そこが大切だという意味ですので、どうかご理解願います。

【小話0】
 似ている、そっくり、ほぼ同じ、同じ、同一を体感するのには、刻々と変っていく時計――アナログでもデジタルでも日時計でも腹時計でもいいです――を見つめたり、耳を傾けたり、触れたり、目をつむって

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描写・反描写

描写・反描写

 今回は二部構成です。まず以下の目次をご覧になってから、お読みください。長い記事ですが、太文字の部分だけに目をとおしても読めるように書いてあります。

◆描写*純粋な描写

 学生時代の話ですが、純文学をやるんだと意気込んでいる同じ学科の人から、純文学の定義を聞かされたことがありました。

 ずいぶん硬直した考えの持ち主でした。次のように言っていたのです。

・描写に徹する。
・観念的な語を使わな

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ぺらぺら(薄っぺらいもの・02)

ぺらぺら(薄っぺらいもの・02)

 今回は「薄っぺらいもの・01」の続きです。

 いま私は薄い液晶の画面に表示されている自分の書いた文字を見つめています。

 と書きましたが、半分は正確ではない気がします。

「薄い」は「ある程度(そこそこ)厚みのある」という感じで、「自分の書いた」は「自分がキーボードのキーを叩いて入力した」であり、「文字」は利用しているサイトが用意した活字といういうべきでしょう。

 細かいことを言っています

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知らないものについて読む

知らないものについて読む

 文芸作品そのものを読むよりも文芸批評を読むほうが好きでした。大学生時代はちょうど文芸批評の全盛期みたいな雰囲気があり、従来の印象批評の本が相変わらず続々出版され、フランス製のヌーベルクリティックとか英米加製のニュークリティシズム、そして日本でも新批評と呼んでいいような本や論考があいついで上梓されたり雑誌に発表されていました。

 つぎつぎに紹介される斬新な手法に興奮したのを覚えています。

 印

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葉子を「見る」「聞く」・その1(する/される・04)

葉子を「見る」「聞く」・その1(する/される・04)

 今回は『雪国』冒頭の汽車の場面で、葉子が島村から一方的にその姿を見られ、さらには声を聞かれる部分を見てみます。

 結論から言いますと、映っている現実(うつつ)は美しいということです。現実そのものではなく、映っている現実だからこそ、美しいのです。

エスカレート
 これまでの回をお読みになっていない方のために、この連載でおこなっている見立ての図式を紹介いたします。

・『雪国』(1948年・完結

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顔



 朝起きると、見知らぬ顔が鏡の中にいた。忘れもしない、二十年前のゴールデンウィーク最終日のことだ。驚いたのは言うまでもない。誰にも言わなかったのは、誰も気づいていないみたいだったからだ。家族も、学校でも。最も敏感であってほしい我が家の犬さえも。

 翌日の午後、学校から帰る途中に、私を追い抜いていったバスの一番後ろの窓から見ていた私の顔と目が合った。私たちは互いに目を見開き、口を手で被った。

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雨、濡れる、待つ

雨、濡れる、待つ

 今回の記事は、見出しのある文章を連想でつなげてあります。それぞれ断片としてお読みください。

雨、濡れる、待つ
 雨、濡れる、待つ。

 この三つが出てくる歌はとても多い気がします。私は音楽には疎いので、数えたことも調べたこともありません。そんな気がするだけです。

 そういえば、初めて買ったレコードが雨の出てくる曲でした。これは待つ歌ではありませんけど。

 私が初めて歌い覚えた(聞き覚えた)

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多層的で多元的なもの同士が、ある一点で一瞬だけつながる世界

多層的で多元的なもの同士が、ある一点で一瞬だけつながる世界

「春」を感じるたびに連想するのは「張る」です。辞書の語源の説明には諸説が紹介してありますが、私は「張る」派です。

 春になると、いろいろなものが張ります。木々や草花の芽やつぼみが膨らむのは張っているからでしょう。

 山の奥でも雪解けが進み、川面が膨らんで見えます。道を歩く人たちの頬も上気したかのように見えます。細い血管が膨らんでいるようです。

 山川草木、そして人が膨らみ張って見えます。膨張

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書いた言葉はどこに行く

書いた言葉はどこに行く

 今回は「2022年1月1日」に投稿した記事の再掲です。文章の勢いを生かすために、加筆は最小限にとどめています。

自分の書いた言葉たちは、どこに行くのでしょう? 
 ネット上で文章を公開しているとよく考えます。note で下書きをつくり、それを投稿したとたんに、あなたの目に触れることになります。あなただけではありません。不特定多数の人に読まれる可能性が生じます。一瞬に、ですよ。

 自分の書いた

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