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当てる

 石に石を当てる。
 石に「石」を当てる。

 いまここにあるたった一つのものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

 猫に猫を当てる。
 猫に「猫」を当てる。

 いまここにいるたった一つのものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

     *

 愛に愛を当てる。
 愛に「愛」を当てる。

「たった一つのもの」とは言えないものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

 海に海を当てる。
 海に「海」を当てる。

 つながった大きなものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

     *

 つながった大きなものに、一本化された「たった一つのもの」を当ててみる。

 空に空を当てる。
 空に「空」を当てる。

 風に風を当てる。
 風に「風」を当てる。

 水に水を当てる。
 水に「水」を当てる。

 川に川を当てる。
 川に「川」を当てる。

 土に土を当てる。
 土に「土」を当てる。

     *

 山に山を当てる。
 山に「山」を当てる。

 窓から見える遠くにあるものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。
 目をつむり、思いの中にあるものに、一本化された「たった一つのもの」を当てる。

     *

 私の思いの中にあるたった一つのものに、みんなで使っている「たった一つのもの」を当てる。

 私のたった一つのものに、私を含むみんなの「たった一つのもの」を当てる。

 たった一つのものに「たった一つのもの」を当てる。

 たった一つのものに「たった一つのもの」を当てることで、たった一つのものが消えていく、離れていく、見えなくなる、無くなる、いなくなる。

     *

「たった一つのもの」を当てることで、みんなとつながる。私がみんなとつながるというよりも、私は私を含めたみんなとつながる。

 おそらく、たった一つのものと「たった一つのもの」を分けることはできない。

 たった一つのものを思い見ているのだから、「たった一つのもの」を用いて綴っているのだから、分けることはできない。

     *

 たった一つのもの、「たった一つのもの」――と口にしてみる。目を閉じて口にしてみる。目を閉じ口を動かさず、となえてみる。

 たった一つが消える。ものがなくなる。

 目を閉じたまま、手に手を当ててみる。

#散文 #文字 #言葉 #思い


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