マガジンのカバー画像

エッセイはとつぜんに

212
つれづれなるままに、ひぐらし、ではないが、ときたまPCにむかひて。役には立ちませんが、何の変哲もない日常を楽しめるようにはなるかもね。
運営しているクリエイター

#人生

旅人になった日と、それから。

旅人になった日と、それから。

初めてパンパンに荷物が詰まったバックパックを背負ったとき、「ああ、旅に出るんだな」と思った。

リュックは手に持った状態からパッと担ぐもの、というイメージで生きてきた自分にとって、座った状態で背負ってからよいしょ、と慎重に立ち上がらなければいけないそれは、特別感を高めるのに十分なものだった。胸と腰のベルトをカッチリ閉めることで、体全体に重さが分散して楽になる。リュックについている腰ベルトの機能性な

もっとみる
ふと思い出すFさんのこと。

ふと思い出すFさんのこと。

特別親しいと呼べるわけではない間柄のだれかについて、ふと思い出すことがある。ほんとうに何の前触れもなく、ふと。

ここ最近、よくFさんのことを思い出す。今朝も娘を保育園まで送ったあと、街を歩いていてふと、Fさんのことを思い出した。

* 

Fさんはわたしが新卒1年目のときに、途中から入ってきた派遣社員さんだった。基本的には週3回、9時から17時までの間、出社されていた。

当時わたしは右も左もわ

もっとみる
センチメンタル母ちゃん

センチメンタル母ちゃん

最近、かつてなら気にも止めなかったようなことですぐに「うるっ」ときてしまって、そうかこれが年を重ねてゆくということなんだな、と思う。

週末、近所の公園で小さなイベントがひらかれ、地元中学校の吹奏楽部が30分ほど演奏をするという機会があった。

ちょうど夫が出張中の週末で、娘を連れて自転車でパッと行ける距離におもしろいものないかなあと思っていたので、事前にビラを見かけて、あらこりゃいいわと母はひそ

もっとみる
みかん農家になった友人のこと

みかん農家になった友人のこと

サラリーマンを辞め、突如みかん農家になった20代の友人から、「初めてのみかん」が届いた。

家族3人でダンボール箱を囲んでいそいそとあけてみると、箱いっぱいのみかんがずらりとあらわれた。

みかん好きの1歳娘は思わず、その上におおいかぶさる。次々とみかんを取り出し、横にいる夫に手渡してゆく。「うれしいねえ。ごはん終わったら食べようね」。そう声をかけると、ちっちゃな手を口に運んでパクパクと食べるまね

もっとみる

こどものタイムライン

きのう、夫の会社では「IT界隈に興味のある小中学生グループ」の会社見学を受け入れるという機会があった。

夫の帰宅後、どうだった?と雑談がてら話を聞いていたのだが、そのなかでわたしにとって一番印象的だったのは、ITとはまったく関係ない以下のようなやりとりである。

私「小中学生って、年齢層はまんべんなく来たの?」

夫「そうだね、わりと。一番下は、7歳の子がいて」

私「へー」

夫「でさ、うちの

もっとみる
もやもやするのもわるくない

もやもやするのもわるくない

最近、気持ち的にちょっと打ちのめされたような感覚を味わう機会があって、さあどうしたもんか、と自分の身のふりみたいなものをうじうじ考えている。

ちなみに、だれかになにか嫌なことを言われたわけじゃない。むしろその逆で、ものすごくシンプルにいえば「すごいひとたち」に囲まれて、その前からわかっちゃいたけど、自分の「何もできていない感」をいやというほど思い知ったというだけの話である。

でもそれが「落ち込

もっとみる
やりたい仕事だけやろうと決めたお話

やりたい仕事だけやろうと決めたお話

(※だらだら長いnoteですが、自分の脳内整理のために置いておきます)

すこし前の話だが、仕事用の名刺をリニューアルするにあたって、このnoteアカウントのURLを初めて記載した。

これはわたしにとってはけっこうな賭けというか、 ひそかな決意表明みたいなものだ。これまでわたしは、ぽこねんアカウントとリアルな自分をつなげることを意識的に避けつづけてきたのだから。

ただこのたび、育休を経て仕事

もっとみる
どこかのだれかに宿る、ストーリー。

どこかのだれかに宿る、ストーリー。

昨日、とある取材で素敵なご夫婦の自宅に伺ってお話を聞く機会があった。

取材内容としても、人生の転機や生き方に触れるものだったので、おふたりの想いにふれてなんだかこちらまでわくわく、幸せな気分になった。

ああやっぱり、ひとの生き方に触れるストーリーを伺うのは、とても魅力的だなあ。それにまつわるインタビューは、やっていて幸せな仕事だと思う。

これまで何度も思ってきたことだけれど、何度でもまた、思

もっとみる
映画『マンマ・ミーア!』の続編にむせび泣いた。大好きだ。

映画『マンマ・ミーア!』の続編にむせび泣いた。大好きだ。

もしあなたが、10年ほど前にほぼリアルタイムで映画『マンマ・ミーア!』を観たことがあって、それを好きだった記憶があるなら、あなたは、絶対に今上映中の続編『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』を見に行かなければならない。絶対にだ。

このnoteが開かれなくても、それだけは伝えたいので冒頭に書いた。

あなたが上記に該当するなら、別にこのnoteなんて読まなくてもいいから、いますぐチケットを買って

もっとみる
10代の私に、30代の私がインタビューをしてみたら。

10代の私に、30代の私がインタビューをしてみたら。

33歳の私「こんにちは。今日は来てくれてありがとう」

15歳(中3)の私「……こんにちは(とてもいぶかしげな表情)」

今「うん。まあムリもないと思うんだけど、今noteで『悩める10代に向けた投稿』を募集しててさ。ちょっと話、聞かせてくれないかなと思って」

中「はぁ、意味がわからないんですけど。だいたい、“悩める10代”とか、おとながそうやってひとくくりにすること自体がなんか嫌いです……。“

もっとみる
次の元号を生きるあなたへ

次の元号を生きるあなたへ

お母さんは、わりとぎりぎり昭和生まれです。

大学4年生になったとき、その年の入学生には平成生まれのひともいて、なんともいえない衝撃を受けたことを覚えています。同世代のはずなのに、何かがそこでぱっきりと分かれてしまったかのような感覚をもちました。

西暦で見れば地続きで、何かが変わっているわけでもないのに、変ですよね。ただ、血液型占いなどカテゴライズが好きな日本人にとって、元号はそんなふうに、アイ

もっとみる

であったーの日、おめでとう

Facebookをひらいたら、「◯◯さんとの友達記念日の動画が作成されました。思い出を振り返ってみよう!」という通知がきていた。

◯◯さんというのは夫である。

その通知をみて、「ああ!やってしまった!」と思った。

夫とは出会った翌日にFacebookでつながったので、それはつまり、昨日は出会って何年目、的な日だったということを意味していたからだ。

こう書くと、「え、結婚記念日でもあるまいし

もっとみる
スーパーでアイスをむさぼるロックな貴婦人

スーパーでアイスをむさぼるロックな貴婦人

炎天下、自転車をこぐ。冷蔵庫の食材が切れたから、今日は買い出しに行かなければならない。

店の脇に自転車をとめる。汗だくでスーパーに入ったら、入ってすぐのあたりで、おばあさんがゆるゆる歩きながらアイスクリームをなめていた。

よくある、ソフトクリーム型のバラ売りアイス。パッケージの上半分がカパッとフタになっていて取りはずせる、あの形。もちろん、そのスーパーで買ったものだろう。

“あ、店内でアイス

もっとみる
幸先

幸先

日本を出て、1年以上の長い旅をつづけていた。

そろそろ、帰国のとき。

すっかり相棒となったバックパックを担ぎ、空港へ向かうバスに乗る。

バスの中で、これまでのことを思い返していた。

圧倒的に、価値観を揺さぶられた日々のこと。

外国の都市で、働くという経験をしたこと。働くとはこんなに楽しかったのかと衝撃を受けたこと。

田舎で、たくさんの家庭を転々と渡り歩いたこと。つたない英語を話すチビの

もっとみる