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【15行小説】不定期更新

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15行に《怒り/嫌悪/恐怖/喜び/悲しみ/驚き》を閉じ込めました。人間の感情を揺さぶるストーリー!
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【15行小説】私の子供はマリオネット

【15行小説】私の子供はマリオネット

軽快なリズムで手足を広げ、あの子は踊っている。
いい音楽といいリズムに私の気分も高揚する。

まだ幼い小学生なのに髪の毛はサラサラでいい匂い。
まん丸と光る目は私に似ている。
私も一緒に踊ろう。

この時が1番楽しいの。
薄暗い部屋で一緒に踊るこの瞬間に幸せを感じる。
テンポよく流れるこの音楽はお気に入り。
二人で息の合った踊りを楽しむの。

いつも踊りは突然終わる。
線香の残り香の中、私は仏壇の

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【15行小説】雨乞い

【15行小説】雨乞い

雨乞いとは、旱魃(かんばつ)が続いた際に雨を降らせるため行う呪術的・宗教的な儀礼って書いてあった。
私は、呪術なんて使えない。

ましてや、宗教にも縁がない。
ただ、雨を降らせて欲しいだけのに…。
いつまでこうしていればいいのだろう。

旱魃(かんばつ)とは、水不足ということらしい。
つまり枯れているってことでしょ。
嫌味のよう…。
窓の外には黒い雨雲。

窓が揺れている向こうには大粒の雨。
知っ

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【15行小説】あなたが思っているよりもずっと深い愛情で

あなたは子供をあやしている。
遊ばれているといった方がいいのかもしれない。

あなたはいつもせわしなくしている。
まるで未来が見えているかのよう。
私は無能。

あなたはなぜそんなにたくましく生きれるの。
あの子達を幸せにして。
あの子達の気持ちもわかってる。
僕にはわからないのに。

あなたは休日終わりの平日にふと気が抜けるよね。
それでいいんだよ。
少しでもいい、気を抜いてほしい。
こっちにお

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あの公園の角を曲がったら

あの公園の角を曲がったら彼の声が聞こえる。
いつもの散歩道。

その角にはポールが立っている。
ポールに来ると立ち止まる。
今日も彼はいるのだろうか。

あの公園の角には何度も向かった。
たまに道を忘れるけれど。
ポールの角っていうのは覚えているの。
ある日、ポールが無くなった。

工事のすごい音もする。
何が起こったのかわからない。
誰か説明して。
彼は今もいるのだろうか。
また一つ私の世界に色

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幻想の中の現実

薄れゆく記憶の中に彼女はいた。
モヤのかかる記憶の中で、彼女は笑っている。

笑い顔も、見つめてくる顔も、ぼんやりとしているがこれは幻想なのか。
話した内容が曖昧でまるで夢の中のようだ。
そこにいるはずの君はなんて美しいんだろう。

記憶の中で彼女は何度も整形を繰り返す。
僕の前には誰がいたんだ。
柔らかな雰囲気の中にわずかな居心地の良さが僕の心を幸せにする。
あなたにもう一度会いたい。

会った

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波に消された足跡

5歳の息子は浜辺にのる波と遊んでいる。
私は年に一度この場所をおとづれていた。

潮風が心地よく、私たちを包み込んでくれた。
もう5歳、やんちゃで、いろんなことに興味が出て、わがままな子になった。
この子と過ごすたびに、どこか懐かしい気持ちなる。

どこからともなく、あの子は拾ってきた貝殻を私にくれた。
虹色に輝くその貝殻は私が1番好きなものだった。
ふいに顔を上げると、あの子が何か言いたそうにし

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ベビーカーに恋をして

じゃあ、…先輩はお子さん諦めたんですか?
いろんな選択肢もありますからね…。

でもよくこんなに立派な子を産んだね。
俺の後輩ながらさすがだ。
もう2歳か。

はい、今はいろんなものに興味がいってます。
先輩はお子さんいないんでしたっけ?
…いろんな選択肢もありますからねぇ。
よければこのベビーカー、押してみてくださいよ。

ベビーカーなんて触ったことも、押したこともないしな。
…ベビーカーって、

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視聴者に恋をして

視聴者に恋をして

化粧よし、カメラよし、時間…よし。
毎週金曜21時から1時間ライブ配信。

って言っても私、特に人気ないんだけどね、今日も100人行かないくらいか…。
最初に始めたのは1年ほど前だったかな、興味本位で。
その頃から見てくれる人って…今じゃあの人くらいだよな。

一度会ったことあってね、見てくれるのも10人ほどしかいなかった時に。
おじさんかと思ってたから、同年代くらいで印象に残ってるの。
今日は残

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サンダルウッドの香りに惹かれて

サンダルウッドの香りに惹かれて

その人は職場の先輩で、なぜだかいつもサンダルウッドの香りがするの。
通り過ぎる香りに意識が逸れるのを必死でガマン。

当然結婚してないことは確認済み、指輪してないし、てか総務が言ってたの聞いたし。
別に好きじゃないよ、ただ匂いが気になるだけ。
たぶんみんなもそう思っていると思う。

強いってわけじゃなくて、なんかこう、優しい匂い。
だから、とりわけそれについては女子の中で話題になってない。
好き?

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死神のその一瞬

死神のその一瞬

その一瞬のせいで交通事故が起きた。
その子の両親の命をとった、それが出会いだった。

その子の悲しげな淡い表情は僕の何かを揺さぶった。
致命傷はなく運良く生き延びた彼女は病院へ。
大丈夫、まだ彼女は死なない。

こんな一人の女性に何を思うんだろう。
たまにそばに行くけれど、僕の姿は見えない。
会話も、触れることも、この気持ちを伝えることも。
何十年も彼女は僕には気づかない。

彼女の寿命はもうなく

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寝起きのキミは寝落ちする

寝起きのキミは寝落ちする

いつも、起きてって言ってるわけじゃない。
てか、何も言ってない。

いつも私が早く目覚めるだけ。
トイレにいこうとベットから抜けるの。
起こさないようにね。

起こさないようにしてるつもりなのに。
キミは私の手首を掴んで離さない。
どうしたのと、顔を近づける。
モゴモゴと寝言のキミ。

私はもう一度問いかけた。
さっきよりも小さくモゴモゴしてる。
寝てるじゃん。
こんな時までちょっとだけ嬉しい気持

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アヒルのポチ

アヒルのポチ

親から結婚の話はもうされなくなった。
一人で10年以上も良く生きてこれてるよね。

男はもういいの。
というか、人がもういい。
友達付き合いも最近してないし。

将来の不安は、まぁ…あるけどさ。
それよりも自分のこの気持ちを大事にしたい。
恋がしたくないわけじゃない。
友達とはしゃぐのが嫌いってわけでもない。

時々ね、思い出すの。
なんでアヒルなのにポチって名前なんだろうって。
お風呂に浮かんで

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10メートルの恋

10メートルの恋

毎週土曜、午前10時、近所の公園に行く。
別に必ずじゃないけれど、雨降ったら行かないし。

公園では決まったベンチで読書をする。
読むのはなんでもよくて、そういう習慣が欲しかっただけ。
…ごめん、嘘ついた。

ほんとはその時間に向かいのベンチにいつもの男性が来るから。
ワンチャン連れて散歩がてら休憩してるみたい。
…恋くらいしてもいいじゃん。
ある時、私の目線に彼が気づいてくれたの。

その日から

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雨音に流るるあなたの鼓動

雨音に流るるあなたの鼓動

雨音に流るるあなたの鼓動

土砂ぶりの帰り道。
傘がなく途方にくれていた。

なんで傘を持ってこなかったんだろう。
後悔してももう遅い。
気づくと横にスーツ姿の彼がいた。

ないんですか、と彼の問い。
うなづく私に彼の顔は少し赤くなった。
そんな気がした。
雨音は騒音のようだった。

彼はカバンから傘を取り出した。
よければ、と差し出す傘に手を伸ばす。
彼の手が触れた瞬間、雲が晴れた。
雨がやみ、

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