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140文字小説

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Twitterで日々投稿している140文字小説をまとめたものです。
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2021年4月の記事一覧

雨と猫と男と女と (下) (140文字小説)

雨と猫と男と女と (下) (140文字小説)

 今日は雨だにゃ。

 俺は雨だにゃ。

 雨の日に哲に会ったにゃ。

 哲は優しいにゃ。でも哲は哲が好きじゃないみたいにゃ。

 だけど哲が好きな雌もいるにゃ。

 雌が来たにゃ。俺は雌に向かって飛ぶにゃ。

 哲が追って来て、雌と目が合ったにゃ。

「貴方のお名前、教えてください」

 哲、勇気出すにゃ。

雨と猫と男と女と (中) (140文字小説)

雨と猫と男と女と (中) (140文字小説)

 視線をまた感じる。

 彼女は「雨」を見上げていた。

 雨は、猫だ。

 大雨の日に僕が連れ帰った。

 名前に似合わず、お日様が大好きで、ベランダで日向ぼっこを日課にしている。

 彼女は雨を見る時、僕と目がよく合う。

 その時、僕はいつも背を向ける。

 この醜い顔を、彼女には向けられないから。

雨と猫と男と女と (上) (140文字小説)

雨と猫と男と女と (上) (140文字小説)

 篠突く雨という形容がぴったりな、激しい雨の日だった。

 形が崩れた段ボールの中の仔猫を、雨から守っている人がいた。

 お世辞にも、顔は良くない。

 彼は猫を連れ帰った。

 猫は毎日、彼のアパートのベランダで日向ぼっこをしている。

 くすっ。今日はあくびしてる。

 彼は、いない、のかな。

運命の彼は、絶世の美女 (140文字小説)

運命の彼は、絶世の美女 (140文字小説)

 呼び鈴の手応えがない。

 私はドアを二回ノックした。

 男性の声が返ってきた。

 引っ越しの挨拶と伝えると、カタンと錠が解かれた。

 昭和風のドアが重たい音を奏でる。

 ドアの背面から、嫉妬したくなる程の美女が現れた。

「ご丁寧にどうも」

 さっきの声だ。

 彼と運命の出会いの瞬間だった。

私は貝になりたかったのか? (140文字小説)

私は貝になりたかったのか? (140文字小説)

 今日は蚊だった。

 今日は蝿だった。

 今日は亀だった。

 今日は鶴だった。

 今日は猫だった。

 次はなんだろう。

 なぜ、前の記憶があるのだろう。

 いつ人間になれるのだろう。

 物心がついたのは三歳の頃だ。

 母と遊んだ砂場が浮かぶ。

 お母さんごめん。この世はつら過ぎる。

 今日は貝だった。

偉大なる福沢諭吉 (140文字小説)

偉大なる福沢諭吉 (140文字小説)

「はい、あーん」

「恥ずかしいな…」

 隣のバカップルがうざい。

 羨ましいなど、つゆ程も思わない。

 無視して注文だ。

 ウェイトレスが来ると、

「あれ、恥ずかしくないんですかね」と、隣を揶揄する。

「あれは、当店の一万円での追加サービスです!」

 財布には稲造が一人。

 ATMはどこだ!?

欲深きものよ (140文字小説)

欲深きものよ (140文字小説)

 人間は欲深いんだ。

 大きな感動も、二度目は自然と薄れてしまうものなのさ。

 だからこれは、人としてあるべき当然の行動だったんだ。

 俺は人間として、あるがままに動いたまでだ。

 そして、ここで地に頭をこすりつける。

 うむ。完璧だ。

 これで今回の浮気謝罪のシュミレーションができた。

マナーとは!? (140文字小説)

マナーとは!? (140文字小説)

 じじいが空に煙を吐き出している。

 夜でも関係ないぞ。

 そこは喫煙禁止区域だ。

 マナーが悪い奴がいるから、きちんとした人の肩身が狭くなる。

 ん?鍵が掛かっている。

 ここもか。指定日以外に出す奴が多いからこうなる。

 置いておこう。明日には回収されるさ。

 ゴミ捨て場に鍵をかけるな。

最高のお見舞い (140文字小説)

最高のお見舞い (140文字小説)

 体温計の数値が異常だ。

 風邪だった。

 娘に静かにと頼み、一眠りした。

 のどが渇き、リビングに来た。

 刻んだ折紙やクレヨンが散乱してる。

 娘の仕業だ。

 怒り心頭で娘の部屋に入ると、机で寝息を立てていた。

 よだれの先には、折紙が貼られた画用紙があった。

「ママ。はやくよくなってね」

うちの夫は、一流の殺し屋 (140文字小説)

うちの夫は、一流の殺し屋 (140文字小説)

 夫に殺される。

 毎日、恐怖に抱擁される。

 三人の子を残して、天には逝けない。

 コツン、と廊下で革靴が鳴る。

 真っ直ぐに近づいてくる。

 夫だ。間違いない。

 ドアのロックが解除された。

 ノブがゆっくりと回り、夫が顔を覗かせた。

「ただいま。今日も君は世界一だ」

 嗚呼、また殺された…

これぞ真骨頂 (140文字小説)

これぞ真骨頂 (140文字小説)

 筆を置こう。

 二十歳で直木賞を獲るも、その後はヒットがなかった。

 ここまでだ。

 最後に私小説を書こう。

 称賛される生き様ではないが、小説家人生の集大成としよう。

 発売すると、瞬く間にベストセラーとなった。

 帯には「直木賞作家、新エロスの境地」

 俺の人生はエロスだったのか。

非礼な先輩は死ね (140文字小説)

非礼な先輩は死ね (140文字小説)

 第一印象は、死ね、だった。

 先輩は私の洗濯板にちらりと目を落とし、嘲笑した。

 憤慨ものだ。

 でも仕事は完璧。

 側にいると学ぶことばかり。

 ある日、直帰で一杯付き合った。

 酒の勢いで初対面の非礼ぶりを責めると、妹を思い出したという。

「妹じゃ嫌なんです!」

 あれ?私、なに言った?

アラフォー女の恋 (140文字小説)

アラフォー女の恋 (140文字小説)

 瞳を奪われた刹那、鼓動が変わった。

 私がそんな俗っぽい体験をするなんて、露ほども予期していなかった。

 社内では氷姫と称された私も、四捨五入するともう四十だ。

 なのに、一回り以上も違う男性に骨を抜かれた。

 けれど最高に充実だ。

 相棒のペンライトと共に、今日も彼を推しに行く。

心を晴れにする (140文字小説)

心を晴れにする (140文字小説)

 今日は綿菓子が見えない。

 青色の純度が高い空に手をかざすと、風が吹き抜けた。

 ひんやりさもあるけど、心地よいあたたかさもある。

 この時期の風はふたつの季節を感じる。

 桜はすっかり姿を変え、つつじが道を彩る。

 灰色の心が晴れていく。

 今日もありがとう。

 さあ、急がないと遅刻だ!