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東原そら
2021年4月29日 20:51
今日は雨だにゃ。 俺は雨だにゃ。 雨の日に哲に会ったにゃ。 哲は優しいにゃ。でも哲は哲が好きじゃないみたいにゃ。 だけど哲が好きな雌もいるにゃ。 雌が来たにゃ。俺は雌に向かって飛ぶにゃ。 哲が追って来て、雌と目が合ったにゃ。「貴方のお名前、教えてください」 哲、勇気出すにゃ。
2021年4月29日 17:42
視線をまた感じる。 彼女は「雨」を見上げていた。 雨は、猫だ。 大雨の日に僕が連れ帰った。 名前に似合わず、お日様が大好きで、ベランダで日向ぼっこを日課にしている。 彼女は雨を見る時、僕と目がよく合う。 その時、僕はいつも背を向ける。 この醜い顔を、彼女には向けられないから。
2021年4月27日 20:00
篠突く雨という形容がぴったりな、激しい雨の日だった。 形が崩れた段ボールの中の仔猫を、雨から守っている人がいた。 お世辞にも、顔は良くない。 彼は猫を連れ帰った。 猫は毎日、彼のアパートのベランダで日向ぼっこをしている。 くすっ。今日はあくびしてる。 彼は、いない、のかな。
2021年4月26日 20:29
呼び鈴の手応えがない。 私はドアを二回ノックした。 男性の声が返ってきた。 引っ越しの挨拶と伝えると、カタンと錠が解かれた。 昭和風のドアが重たい音を奏でる。 ドアの背面から、嫉妬したくなる程の美女が現れた。「ご丁寧にどうも」 さっきの声だ。 彼と運命の出会いの瞬間だった。
2021年4月25日 20:00
今日は蚊だった。 今日は蝿だった。 今日は亀だった。 今日は鶴だった。 今日は猫だった。 次はなんだろう。 なぜ、前の記憶があるのだろう。 いつ人間になれるのだろう。 物心がついたのは三歳の頃だ。 母と遊んだ砂場が浮かぶ。 お母さんごめん。この世はつら過ぎる。 今日は貝だった。
2021年4月24日 21:07
「はい、あーん」「恥ずかしいな…」 隣のバカップルがうざい。 羨ましいなど、つゆ程も思わない。 無視して注文だ。 ウェイトレスが来ると、「あれ、恥ずかしくないんですかね」と、隣を揶揄する。「あれは、当店の一万円での追加サービスです!」 財布には稲造が一人。 ATMはどこだ!?
2021年4月24日 20:57
人間は欲深いんだ。 大きな感動も、二度目は自然と薄れてしまうものなのさ。 だからこれは、人としてあるべき当然の行動だったんだ。 俺は人間として、あるがままに動いたまでだ。 そして、ここで地に頭をこすりつける。 うむ。完璧だ。 これで今回の浮気謝罪のシュミレーションができた。
2021年4月22日 19:40
じじいが空に煙を吐き出している。 夜でも関係ないぞ。 そこは喫煙禁止区域だ。 マナーが悪い奴がいるから、きちんとした人の肩身が狭くなる。 ん?鍵が掛かっている。 ここもか。指定日以外に出す奴が多いからこうなる。 置いておこう。明日には回収されるさ。 ゴミ捨て場に鍵をかけるな。
2021年4月21日 20:22
体温計の数値が異常だ。 風邪だった。 娘に静かにと頼み、一眠りした。 のどが渇き、リビングに来た。 刻んだ折紙やクレヨンが散乱してる。 娘の仕業だ。 怒り心頭で娘の部屋に入ると、机で寝息を立てていた。 よだれの先には、折紙が貼られた画用紙があった。「ママ。はやくよくなってね」
2021年4月20日 21:49
夫に殺される。 毎日、恐怖に抱擁される。 三人の子を残して、天には逝けない。 コツン、と廊下で革靴が鳴る。 真っ直ぐに近づいてくる。 夫だ。間違いない。 ドアのロックが解除された。 ノブがゆっくりと回り、夫が顔を覗かせた。「ただいま。今日も君は世界一だ」 嗚呼、また殺された…
2021年4月19日 20:26
筆を置こう。 二十歳で直木賞を獲るも、その後はヒットがなかった。 ここまでだ。 最後に私小説を書こう。 称賛される生き様ではないが、小説家人生の集大成としよう。 発売すると、瞬く間にベストセラーとなった。 帯には「直木賞作家、新エロスの境地」 俺の人生はエロスだったのか。
2021年4月18日 20:22
第一印象は、死ね、だった。 先輩は私の洗濯板にちらりと目を落とし、嘲笑した。 憤慨ものだ。 でも仕事は完璧。 側にいると学ぶことばかり。 ある日、直帰で一杯付き合った。 酒の勢いで初対面の非礼ぶりを責めると、妹を思い出したという。「妹じゃ嫌なんです!」 あれ?私、なに言った?
2021年4月17日 20:59
瞳を奪われた刹那、鼓動が変わった。 私がそんな俗っぽい体験をするなんて、露ほども予期していなかった。 社内では氷姫と称された私も、四捨五入するともう四十だ。 なのに、一回り以上も違う男性に骨を抜かれた。 けれど最高に充実だ。 相棒のペンライトと共に、今日も彼を推しに行く。
2021年4月16日 20:24
今日は綿菓子が見えない。 青色の純度が高い空に手をかざすと、風が吹き抜けた。 ひんやりさもあるけど、心地よいあたたかさもある。 この時期の風はふたつの季節を感じる。 桜はすっかり姿を変え、つつじが道を彩る。 灰色の心が晴れていく。 今日もありがとう。 さあ、急がないと遅刻だ!