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ロックと経済圏。「フジロック考~ユートピアを探す旅」

ある日の沖縄は那覇の夜、
初めて訪れたメスカル・バーのマスターと「経済圏」についての話が始まった。

「フジロックの苗場第一回目って完全にユートピアが完成してたんですよ。その人数が3日=72,000人。これが3年後に90,000人に増えたら、あっと言う間に場が荒れ始めた。経済圏の適切な人数って大切ですよね」

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確かに苗場フジロック第一回目には魔法がかかっていた。

時はミレニアム、1999年の夏である。

関越自動車道を走り、会場に到着するや「居るべき人たち」が集まっていた。

真夏の青空の下、長野の山間の緑の光線の中で皆が勝手気ままに座り、徘徊し、ビールをあおり、ステージではキンクスのレイ・デイビスが『ウォータールー・サンセット』を弾き語っていた。

私は思わず「ここは天国か?(映画『フィールド・オブ・ドリームス』より)」と呟いた。

ピースな雰囲気の中でレイ・デイビスが弾き語る。ガラケー画像が時代を感じる

そのあと、アタリ・ティーンエイジ・ライオットが登場すると「うぎゃ~」と叫びながらステージ前に突進し、モッシュの海に身を投じだ。

次にステージに登場したのは、最盛期を迎えていたリンプ・ビスキットである。

ここでモッシュの荒波は最高潮に達した。

この時に集まっていた「手練れ集団」のモッシュは、まるで一頭の巨大な生物のように、怒涛の激しさでありながらも、美しく一体化した動きをしている。
そして誰かがコケたら、秒で四方八方から助けの手が差し伸べられる。

そのうちに日が暮れると、グリーン・ステージにケミカル・ブラザースが登場した。

オープニングで『HEY BOY, HEY GIRL』が鳴り響き、満天の星空の下で皆で踊り狂った。
目の前で踊っていた友の一人が急に振り返ると満面の笑みでハイタッチしてきた。
そのあまりの幸せな時空を皆が共有していた。

曲が『スター・ギター』に代わると、満天の夜空に流れ星が流れまくった。

「こんな事ってあるのか?」

皆で流れ星を指さしながら踊りまくった。

ひとしきり踊り狂うと、友が「ジョンスぺ行こう!」と言って、皆でホワイトステージに異動した。

ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンである。

バンドがステージに登場するや否や、大モッシュが始まった。

この日最高値の未曾有の大モッシュの中、1曲の間に10メートル以上流され、また10メートル以上戻された。

中盤、モッシュの最中に突き指をして少し後ろに下がった。

汗まみれの上半身は裸だ。

苗場の夏の夜は涼しいが、ちょうどいいチルである。

そのままふらふらと上半身裸のままフィールド・オブ・ヘブンに向かった。

偶然辿り着いたそこは異様に盛り上がっていた。

PHISHである。

なんという「芸運」の強さであろうか、この魔法のかかった夜の締めがPHISHだとは。

まるでこの場所だけがアメリカのど田舎のヒッピー・コミューンに時空がトリップしたかのように、文字通り「天国に一番近い場所」が現出していた。

PHISHのライブが終わると、会場を横切って駐車場へと向かった。

その時の光景を忘れない。

なんと、何万人もの人で溢れていた広大なスキー場である会場全体が「紙屑ひとつないほど綺麗」なのだ。

月明かりに照らされて、土と緑の会場はキラキラと輝いていた。

我々はそのまま車に乗り、明け方に東京に着いた。

私は「世界が変わった」と興奮していた。

入場時のリストバンドは1週間ほどずっと手首につけたままだった。

それは「そこに居た我々」同志が街でバッタリ出会ったときに確認する暗黙の「サイン」であった。

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メスカル・バーのマスターとの会話はつづく。

「その後の「モッシュ禁止」になったり、「あれもダメ、これもダメ」と規制だらけのフェスになっちゃったんですね。
「モッシュ・リテラシー」の無い人々、すなわち「薄い層」が入って来たんですよ。
その代わりに動員数は10万人超えて、今12万人くらい?
結局、
「ユートピア経済圏」を護るより「経済発展」の方を主催者が選んだ時点で私はフジロックから離れましたね」

「ああ、、、よくわかります」

「私は最高に贅沢しても一食1万5千円なんですよ。
つまり財布に2万入っていれば人生幸せなんです。
その2万をキープする経済圏を作ろうと今色々やってるんです」

「いや分かります、3万超えたら10万も20万も変わらないですよね」

「そうなんですよ。そうなると嫌なヤツとも連まなきゃいけなくなる。
気心の知れたダチと美味い飯と酒を心ゆくまで愉しむ。
その私にとってのユートピアが2万円なんです。
その適切な経済圏のスケールを見極めるのが大切ですね」

「いや分かります、ポルシェ乗ってる人も全然幸せに見えない人が多いですよね」

「1000万円のポルシェ乗る快楽の量は、10万で買ったボロボロのワゴンRの窓を全開にしてロックステディ爆音で流しながらピーカンの58号を流す快楽の100倍あるのか?っていつも考えてますね」

BGMは爆音のTresure Isleのロックステディ


そんな話で盛り上がりながら、那覇の夜は更けていった。

そして、
あの日の苗場に一瞬出現した「ユートピア」と、また違う何処かで出会うために私の旅はまだつづいている。

完。

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