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こころの手触りを確かめる
先日、東畑開人さんの著書「心はどこへ消えた?」を読んだ。
コロナ禍になり、人の心の姿がさらに見えなくなってしまった。そんな時代において、改めて人間は心をどのように扱うべきなのか、ひとりの臨床心理士として相談者と接しながら考えたことをまとめた一冊となっていた。
「心はどこへ消えた?」と似たタイトルがついた本に、「なんでも見つかる夜に、こころだけは見つからない」という本がある。こちらも東畑さんが書
爪が乾くあいだに少しだけ
爪が乾くあいだだけとか、最寄りの駅から家までの時間だけとか、お風呂が沸くまでの時間だけとか、そういう目的と目的のあいだに挟まった時間が昔から好きだ。今もそのあいだにポチポチと文字を打って、頭のなかにある言葉を見える形にしていっている。
8月に進んだ。5月あたりから今日までの時間に途切れがなく、ひとつの塊のような時間を過ごしている。日記を書こうとすると行動ではなくて、その日に考えたことにどうもなり
マニキュア、すぐはがれる 梅雨のできごと
塗ったばかりのマニキュアが、お風呂あがりにところどころはげて、それはもうとても悲しい。マニキュアを塗っているときは、濁流に飲み込まれそうな日々にぽっかりとあいた時空の穴のなかにいるみたいに静かな気持ちでいられたのに、またそれを繰り返すと考えたら、もうそれは鬱陶しい。1日に2回も爪を塗ってはいられない。心の余裕のなさ。
最近、東京にある祖母の家が取り壊された。祖母はもうしばらくその家には住んでおら
複雑なことを複雑なまま受け止める
「誰にでも分かりやすく簡単に」という言葉はどれだけ罪深いだろうか。誰にでも、分かりやすく、そして簡単に。そんな物事はまず存在しない。誰かに分かることは、違う誰かにとって全く理解しがたい物事であるし、分かりやすいと思う人の横には必ず、分かりにくいと思う人がいる。全員に分かる物事があると考えるのは幻想だ。
今週、ネトフリでカードキャプターさくらのシーズン3を観た。2000年に公開された『劇場版カード
知らなければ目には見えない
先日、みすず書房から2019年に発売された『きのこのなぐさめ』というエッセイ本を読みました。
赤、茶、白、黒、茹でると青色に変化するきのこ、一つひとつの形状も異なり、一見危険に見えるきのこの味が絶品で、真っ白で美しいきのこは毒を持っていることが多い。この本を読まなければ、道端にひっそりと生えるきのこの存在は、わたしの目に映らなかったはずです。
しばしば、自分の目と脳に搭載されているピント調節機