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7月に読んだ本

うわっ……7月終わって数回目を閉じただけの時間が経ったかと思いきや、8月も半分が過ぎた。19日の間で目立った人生の進退はなく、ただいつもより少し活動的ではあるなと感じる日々を送っている。雨がよく降っている。

黒雲の下で卵をあたためる

著者の小池昌代さんは詩人だ。明大前駅にある「七月堂」でふと目に入り、なんとなく良さそうと思い、そのまま読み始めた。そういえば、詩人が書くエッセイを読んだことがなかった。一編はほどよい長さで、内容は濃密。日常という宝物を手に取り、さまざまな角度から眺め、その感触を肌で実感し、愛でるような文章。ずっと、こんな文章を読みたいなと思っていたような気がした。深い眠りと目覚めのあいだの意識の浅瀬が心地良いように、微睡むように毎日読んだ。読み終わってしまうのがもったいない本は、最近の私のなかでは珍しい。

ねむり

村上春樹作品といえば「ねむり」一択。初めて読んだ村上春樹作品で、また読みたいとぼんやり思い始めたときに、今度は西荻窪にある本屋「BREWBOOKS」で出会った。

「ねむり」は、ある日突然眠れなくなってしまった女の日常を描いた短編。人々が眠っている間も女は起き続け、本来は眠っている時間を「アンナ・カレーニナ」などの読書にあてる。夫も息子も、女がもう何日も眠っていないことに気付いていない。はじめは正常に思えた女の意識は徐々にスピードを上げ、眠っていないにもかかわらず意識と眠りのあいだの境界がぼやけ、何かが狂っていく様が堪らない。たった93ページの短編なのに、何度読んでも満足度が高い。

小説「火の鳥」大地編(上・下)

もっとも好きな作家・桜庭一樹が書いた「火の鳥」。手塚治虫の書きかけのプロットをもとに新たに構成を作り、手塚治虫ワールドを引き継いで見事に仕上げた作品だった。ただ、原作に見られるように火の鳥による人間への制裁のシーンはない。火の鳥が持つ力に欲望をかき立てられ、正常な判断を失った人間の物哀しさが描かれている。

火の鳥が持つ奇跡の力を使う人間は、大切な誰かを失っていたり、愛情を求めていたりする。幸せなときを取り戻すために火の鳥を求め、その力を自分のためだけに使うのだ。ただ人は欲深い生き物だから、望みは肥大し続け、やがて欲が人を支配する。欲に飲まれてしまう。火の鳥という作品にはいつも救いがない。人の弱さばかりが描かれている。でもそれが人というものだし、弱いことは悪でも善でもない自然なことだから私は好きで、つい読んでしまうんだろうな。

夏になると図書館行きたくなる

7月の総括でもなんでもない、夏になるといつも思うこと。図書館行きたい。年中図書館利用してても、夏になるとより強くそう思う。要するにこの場合の「図書館行きたい」は概念だし、記憶のことだ。

わたしのなかで夏の図書館といえば、夏休みの宿題を持ち寄ったあのひととき。お菓子とジュースを携えて図書館の自習室におもむき、結局おしゃべりばかりで宿題なんて少しも捗らないあの空間。「もう遊びに行こうよ」と誰かが言い出し、近くの神社に再集合した夏の記憶。すべてをひっくるめて「図書館行きたい」と言っているのだ。

だからこの気持ちのまま図書館に行っても、なんら満たされはしない。けれども、やっぱりこの夏も、足繁く図書館に通いつめている。

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