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4月に読んだ本

5月になった。4月は小説を読めて結構楽しかったので、軽くレビューしていく。

人間の居る場所/三浦展

戦後〜都市開発がかなり進んでしまった現代を比較し、同じように危機感を持って街に生命を与える活動をされている方との対談は、とても心安らぐ内容でした。よくよく考えてみれば、日本は戦後75年が過ぎ、中でも直近の40〜50年ほどでかなりのスピードで街が変化し、あっという間に都心はコンクリートジャングルになりました。物がなく、食料も限られた時代から考えれば、とても魅力的な街かもしれませんが、実際に住んでいる現代人からすればやはり“行き過ぎた”感が否めません。あまりにも人の心を考えずに、街だけ変化させすぎてしまった。これでは人の心も失われ、品川駅のように流れに沿って歩く人が増えていくのも仕方のないように思えます。

働き方改革がおこなわれ、ジェンダーに関する問題が日々議論され、夫婦別姓についても国民全体が興味を持ち始めている。ここにぜひ、政府がすすめる都市開発について、今後の東京や日本という街のあり方を考える議論も生まれてほしいと本書を読んで思いました。我々が心地良く住むことができて、生きていることを一瞬足りとも忘れさせてくれないような街が息を吹き返すこと。人間が人間らしく生きていく社会を取り戻すために。

新東京風景論 箱化する都市、衰退する街/三浦展

東京高級住宅地探訪/三浦展

村上春樹のせいで: どこまでも自分のスタイルで生きていくこと/イム・キョンソン

こういう本、大好物です。作家としての村上春樹は自身のことについても、自身のことそのものについても多くは語らない人物なので、過去のインタビューからエピソードを引っ張り、切り貼りする形になるしかない。それでもばらばらに語られたはずの言葉は並べてみると一貫した哲学を持っていて、村上春樹だと感じられることが、この作家の素晴らしさだなと思いました。また改めてこうして読んでみると、多くの言葉が印象的で、新鮮であるけれどどこか知っているようなことで。私が村上春樹の小説をほとんど読まないのは、彼に見透かされるのが嫌だかなのかもしれない。私にとって辛辣な現実が必ずフィクションの中に落とし込まれている。だから多くの人が「これは私の小説だ」と思って、村上春樹の作品を好むのだろうと思います。

村上春樹について語るのであればアメリカ文学は避けて通れないのと同じくらい、やはり村上龍は欠かせませんね。作風も性格もまったく似ていない両者だから、互いに尊敬していて、尊敬が感じられる関係の距離を保っている。どちらの作品が良い、悪いなんてことは2人の間には関係なくて、ただ互いに相手が存在し、相手の小説を自分から離れたところで読み、作品から刺激を受けている様が、わたしはとても好きなのです。とても理想的な関係だなと感じています。(絶版になっている対談本、少し前に古本屋で見かけたものの買わなかったことを思い出して、悔しい気持ちでいっぱい)

最後に。著者の書く一文一文に、春樹作品への揺るぎない尊敬と、深い愛を感じました。この本を読めてよかったです。

若きウェルテルの悩み/ゲーテ

なんて素晴らしい日記小説なんでしょうか……。巻末の解説にもありますが、当時の小説が説教めいたものだった中で、若きウェルテルの悩みだけはそうした説教など何もなく、ただひたすら自身の恋愛に悩んだ若者が、自死をもってその恋心を永遠のものとするまでの感情の動きを偽ることなく描いている。こうした恋愛をしたことのある人なら誰しも、ウェルテルの心の動き、ロッテへの恋心、アルベルトへの嫉妬からくるウェルテルの言動に、羞恥心で頭を抱えてしまうことでしょう。ウェルテルは非常に幼い精神を保ちながら、しかし驚くほど大人な部分もこちらに見せてくれる。生き方が真っ直ぐだと言えばいいのだろうか。小説としての文章表現も素晴らしく、とても美しくて、読むことで心がたっぷり満たされました。

忘れられた巨人/カズオ・イシグロ

ただのファンタジーではないですよね。むしろ記憶という題材を遠くまで、より多くの人に届けるため、ファンタジーの体裁が使われていると感じました。実際、竜との闘いは意外にもさらりと描かれています。竜がいなくなった世界、つまり良い記憶も悪い記憶も戻ってきた世界の話が、この本で最も重要な部分なのではないでしょうか。

それまでもじっくり、ゆっくりと読み進めてはいましたが、先に記したように記憶を手にしたベアトリスとアクセルのやりとりに深く注目し、それに加えて船の船頭との会話、駆け引きも一言一句を注意深く読み進める必要がありました。そこから得られた感動が、そこまで読んできた物語の上に成り立つことは間違いないのですが、本当に、なんて言えばいいんだろうか……心に柔らかくて、でも硬質な何かが残ったと感じられたのです。

羊をめぐる冒険(上・下)/村上春樹

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック

有名な洋画『ブレードランナー』の原作であり名著。人間世界へ火星からやってきたアンドロイドと、そのアンドロイドを処理する賞金稼ぎとのやりとりを通して、何をもって人間と判断するのか、人間らしいとは何なのか問題提起している作品です。アンドロイドか人間かの判断をする指標として使われるのは、“感情移入”の度合い。感情移入は人間が持つ特性であると考えられ、アンドロイドはどれだけ人間らしく振る舞っていても、どこか冷淡な部分を残している。主人公は、悲しいエピソードに対する微妙な反応のズレからアンドロイドの正体を暴き、人間に被害を与える前に処理をしていく。しかしその中で、アンドロイドに対して特別な感情を抱き、人間とアンドロイドとを隔てると考えられている“感情移入”の機能への信頼を失っていく。主人公が迷うと同時に、読者である私たちも惑わされていく。誰がアンドロイドで、誰が人間なのか。そして人間らしいとは何なのか? 何が私たちを人らしくさせるのか? 本文あとの解説まで素晴らしい。

時間を旅する40軒 東京 古民家カフェ日和/川口葉子

古民家カフェ、古民家が好きな人には読んでほしい。私たちが古いものに価値を感じる時、本当は何に心揺さぶられているのかと言うと、その場所やその物に積み重ねられた時間や記憶の厚みに対してだと思う。実際に何があったのか、過去にどんな人が持ち主であったのかを知らなくても、情緒が自然と流れこんでくる。俗に古民家とは、建築物として50年以上経過している建物のことを指す。建物によっては50年を優に超えて、人の手を渡り続け、用途を変え続け、今もなお現役の建物として出入りする人々を見守り続けている。古民家が生まれた背景から、古民家を受け継いで後世まで残そうと行動した方たちの固い決意、建物の過去もひっくるめて愛す姿に感動した。


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