見出し画像

知らなければ目には見えない

先日、みすず書房から2019年に発売された『きのこのなぐさめ』というエッセイ本を読みました。

赤、茶、白、黒、茹でると青色に変化するきのこ、一つひとつの形状も異なり、一見危険に見えるきのこの味が絶品で、真っ白で美しいきのこは毒を持っていることが多い。この本を読まなければ、道端にひっそりと生えるきのこの存在は、わたしの目に映らなかったはずです。

しばしば、自分の目と脳に搭載されているピント調節機能のことを考えます。

近くのものを見るとき、その背景は自然とボケて見えています。遠くを見ようと思えば、それとは逆の現象が起きます。人間の目にはピント調節をしてくれる水晶体が備わっており、水晶体の厚みを変更することで遠近のものを見ることができるようになっています。

これと同じようなことが脳内でも起きていると考えます。厳密にいえば考える範囲の調節が無意識に行われている。例えば、自分にとって近しい人について考える時、人の思考の範囲は無意識に狭く設定されます。そうすることで問題解決をスムーズに行うことができるからです。しかし問題の中には考える範囲が狭すぎて問題の身動きが取れない場合もあり、そうした状態に陥る時、その人は原因がわからず苦しみます。思考の範囲は個人の経験から自動的に導き出されてしまうため、調節が難しいのだと思います。

ずっと苦しんできた問題に対して、ふと世界から見たらちっぽけな悩みだという考えが降ってきた経験がある人は多いでしょう。これは思考の範囲がふいに拡張され、問題や悩みの動ける範囲が広がったからだと思います。ただこれは一時的であることが多く、かつ逆に範囲が広すぎて問題や悩みの具体的な解決法には辿り着けません。単に気持ちが一瞬、楽になる程度。

問題や悩みに対してちょうど良い思考の範囲を設定するには、縮小と拡張を何度も繰り返すしかないのだと思います。これはとても内的で抽象的な話で、実践できる具体例も何もないので、頭の中での想像に合わせて脳をしぼるイメージによってしか意識化できないのですが……。

“世界から見れば”の話があったように、範囲を広げるなら、実際に自分が広いと知っているものを想像して、逆に狭くするなら自室や自宅の部屋の広さから始めるのが良いでしょう。人間の脳は不思議なもので、広さを知っている場所を思い浮かべるだけで、なんとなく考え事の範囲も広がっていく。本来、人間のアタマって自分たちが思っているよりも柔軟性が高いものなんですよね。

知らなければ見えない

最近読んだ本に出てきた印象的な言葉。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?