マガジンのカバー画像

栄養素🍹

94
いろんな人から頂いた栄養
運営しているクリエイター

#エッセイ

いなくなった、あの人のこと

いなくなった、あの人のこと

今年の3月ごろ、足を運ぶのにダントツで気が重い場所は、役所だった。

母が感染性心内膜炎というやばい病気で入院。

祖母の物忘れが急加速し、介護認定。

ダウン症の弟と祖母が一緒になるとトム&ジェリーからユーモアを抜いたような様相になることが増えたので、弟のグループホーム入居。

十年も精神病院で過ごしていた祖父が亡くなったので、相続。

わたしが東京から神戸へ出戻ることになったので、引っ越し。

もっとみる
生まれて半年、バナナが届かない君へ

生まれて半年、バナナが届かない君へ

君の後頭部が禿げた。

髪全体の毛量は増えているのに、生まれて4ヶ月が経った頃から、後頭部だけがぽっかり更地になったように禿げた。病院の先生からは、この時期にはよくあるから心配しなくていいと言われた。
仰向けの姿勢でいると、枕と摩擦する部分が抜けやすいらしい。そういえば最近しょっちゅう頭を動かして、色々な方向に視線を向けようとする。それで摩擦が加速されるのだろうか。左右にせわしなく目をやり、常に新

もっとみる
お腹が大きくない妊婦たちに抱擁を(妊娠7週/つわり)

お腹が大きくない妊婦たちに抱擁を(妊娠7週/つわり)

人生で体験する色々なことは、ドラマや映画や本などであらかじめ見たことがあるような現象も多く、大体の場合は「その時」が訪れるまでは知った気でいるものだ。今わたしはまさにその真っ只中にいる。「つわり」だ。

いつか子供が欲しいと思っていたわたしなので、つわりに対する知識もいくらかはあった。なんでも吐いてしまう「吐きづわり」。食べないと気持ちが悪い「食べづわり」。眠りつづけてしまう「眠りづわり」。あとは

もっとみる
Creepy Nutsの武道館ライブが良すぎたから話を聞いてくれ

Creepy Nutsの武道館ライブが良すぎたから話を聞いてくれ

九段下のロイヤルホストで、武道館に行ったその足で、ぼろぼろの泣き顔で、これを書いている。

ほかに仕上げないといけない原稿も、返さないといけないメールもあるのに、なぜだか突き動かされてこれを書いている。

でも、言い訳も用意してる。

Creepy Nuts(クリーピーナッツ)が、良すぎたから。

ただそれだけを、どうにかして伝えないといけない気がして、Twitterに書いていたけど途中から「14

もっとみる
天然オットに振りまわされてる

天然オットに振りまわされてる

結婚8年目の夫がいる。

おっとりしていて優しく、マメで家事が好き。お酒はほどほど、煙草も博打も女遊びもやらない。とてもいい人だ。

しかし、どうにもトンチンカンである。度を越えたマイペースで常識がなく、オカルトやスピリチュアルが好きで、すぐ話をそっちの方向に持っていってしまう。共通の友人からは「半径5メートルが見えてないよね。自分か宇宙かって感じ」と評されていた。

そんな夫は売れないイラストレ

もっとみる
私が未来永劫大切にする、たった一つの花束

私が未来永劫大切にする、たった一つの花束

豊かさって、なんだろう。

生きていると、何度か考えさせられる宿題だ。

小学校の作文だったり。
新聞のインタビューだったり。
明け方4時までデロデロに飲みながら、ふと聞かれたり。

思い返せば、私が出す答えはいつも違っている。

答え、つまり、価値観っていうのは。
自分の芯であり、絶対に変えず、貫くべきものだと思っていた。
それをコロコロ変えるなんて、かっこ悪いことだとも。

でも、違った。

もっとみる
表現とは、「正解」の数を増やすことである

表現とは、「正解」の数を増やすことである

りんごが「りんご」である確証はどこにもない。赤くてまあるくて、皮を剥けばみずみずしい黄色をしているそれは、わたしにとっては確かにりんごだけれど、他者から見たら全く違う果実なのかもしれない。わたしが見ているりんごの姿は、所存わたしひとりの目を通して映し出されているものであって、全人類が同じようにその姿を目にしているかどうか、何年生きても自信がない。

そもそも、自分では「赤い」と認識している物体が、

もっとみる
とんっと踏み出すその一歩。

とんっと踏み出すその一歩。

願い、を伝えてはいけない、と。
叶わなかったときにぐっと声を押し殺して泣くのが一番痛い、と。
どうせ消えてしまうと思っていた。
叶わないなら、願わない方がいい、と思っていた。

小さい頃の自分との、小さな小さな約束。
でもそれはきっと、お空に返して大丈夫。

だってね、
こんなにもあたたかく柔らかな涙を流しながら、
一緒に手を握り合える人がいるんだもの。

ゆっくり丁寧に聴き合えば大丈夫、と
たっ

もっとみる
家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

私が住んでいる東京という大都会に、母と弟が来た。
ひろ実と良太が来たとも言う。

母からのリークによると、新幹線の中で、弟は何度も「奈美ちゃんは?奈美ちゃんは?」と、母に聞いていたそうだ。

なるほど、なるほど。
それはそれは猛烈な歓迎を受けるに違いないと、相応の準備をしていたら。

弟に真顔で「よう」と言われた。
ちょっとちょっと。話が違うじゃないか。

弟心は、秋の空ほど移り変わる。

さて、

もっとみる
車いすの母とミャンマーに行ったら、異国の王様だと思われた

車いすの母とミャンマーに行ったら、異国の王様だと思われた

2016年11月。
土埃と魚醤の匂いがするミャンマーの市場で。
私は立ち尽くしていた。

車いすに乗る母の背後には、何人ものちびっ子托鉢僧たちが、連なっていた。
逃げようとすれば、ついてきて。
そしていつの間にか、増えていて。

君たちは、あれか。ピクミンか。

母・ひろ実は困り果てた顔で「どうしよう」と、私に助けを求めた。
私は、見て見ぬフリをした。

私という人間は、理解できない状況に遭遇した

もっとみる
ハンバーグカレーみたいだね!

ハンバーグカレーみたいだね!

先日、note酒場に参加しました。

「写真の通りすぎてびっくりです」
いろんな人に言われて、写真なんだからそりゃそうじゃないか?とも思ったけど笑ってもらえたので嬉しかったです。歩いてるだけで笑顔にできるなんて。

「再現度高い」「実写化成功」は衝撃でした。やっぱり文章を書いている人の言葉選びはすごいなぁ!…二次元だと思われてたんですかね?



言われて嬉しい言葉、ありますか?

もっとみる
「好きを仕事に」を問い直す。

「好きを仕事に」を問い直す。

「好きを仕事に」という言葉が、時々苦手だ。

でもその理由が、自分でもよく分からなかった。
理由がわからないものを「嫌い」とは言い切れないから、「苦手」と言っていたんだ。

「好きを仕事に」しなよおじさん「いや、ほらもうさぁ、今の時代、好きなことを仕事にしないと生き残っていけない時代なんだよね。
好きなことを仕事にしてたらぁ、生産性ぜんぜっん違うから!
終身雇用とかさぁ、不生産でしかないわけ」

もっとみる
旅の道しるべにしたい一冊と出会えた夜

旅の道しるべにしたい一冊と出会えた夜

 台風の影響でネットが使えない間、積読していた書籍を幾つか読了した。
今日はその中の一つ、吉本ばななさんの作品をご紹介したい。

 私という人間の輪郭の一部は、間違いなく吉本ばななさんの作品でできている。「キッチン」「ハゴロモ」「TUGUMI」「デッドエンドの思い出」、ちびがお腹の中にいる時に読んだ作品「イルカ」も、とても思い出深い。今回読み終えたこちらの作品も、私にとってかけがえのない1冊となっ

もっとみる
死にたい季節は愛をビュッフェ

死にたい季節は愛をビュッフェ

セックスよりも恥ずかしいことは、

銀座四丁目。ブランド店がつらなる、
並木通りと松屋通りがあわさったあたりで、

ちょうどランチタイム、サラリーマンが行き交う道端で。顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら、泣き叫ぶこと、だと思う。

あの日わたしは上京して2ヶ月、
新卒で入った某R社で、銀座をチャリでかけまわり来る日も来る日も飛び込み営業で怒られ煙たがられ拒否されを繰り返していた頃。
なにかの糸がきれて

もっとみる