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日記

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2020年からは自分のために書いてます。
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#小説

喪失の響き

わたしには文学の才能ってものがない。自分で書いていて虚しいほどにわかる。語彙は少ないし、小説も数えるほどしか読めたことがないし、コツコツと地道な作業を続けるのも苦手だ。

それでも、書かないと生きられない瞬間があったから、これまで書き続けてきた。

わたしが本当にやりたい芸術は音楽だ。音楽でなら、どんな言いたいことだって表現できる。音は血肉となってわたしの中を流れている。こどものころからずっと、記

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【青春音楽小説の感想】藤谷 治『船に乗れ! (1) 合奏と協奏』

本屋大賞ノミネートの作品。三部作の第一巻。

個人的な趣味(クラシックピアノ、吹奏楽でトランペットの経験がある)との合致点が多かったからかとても面白く読んだ。

まず設定が好き。本作は青春音楽小説と銘打たれている通り、主人公は(三流)音楽高校の生徒なのだが、東京芸大付属高校に合格しかけるほどチェリストとしての腕があり、音楽への知識も深い。

筆者ご自身、実際に青春時代を音楽高校で過ごしていたからだ

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4月3日(金)線維筋痛症とCFS/MEによる二年間の寝たきり生活を経て庭に出られた時の話

4月3日(金)線維筋痛症とCFS/MEによる二年間の寝たきり生活を経て庭に出られた時の話

今日というこのなんでもない日におめでたいニュースである。

一昨日、自宅の中庭に出るためのバリアフリー工事が整い、今日、二年ぶりに戸外に出るに至ったのだ。

私はずっとこの時を待ち望んでいた。二年前を境に、「線維筋痛症」と「CFS/ME(慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎)」が悪化して自分の足で歩けなくなり、実家で寝たきり生活を送ってきた。家族に看病され、車椅子を押され(手が痛いから車輪を漕ぐこともで

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4月1日(水)パラレルワールド行きの切符

4月1日(水)パラレルワールド行きの切符

パラレルワールドに行くのは難しそうに思えて意外な程に簡単である。実践にあたっての感覚を掴めるまでに私は半年から一年ほど掛かったが、せっかく習得した技を独占しておいてももったいないのでこの機会に方法をまとめてみるとする。

まずパラレルワールドとは何であるかという話になってくるが、私の貧弱なSF知識で解釈するに「いま自分がいる世界とは別の、並行(パラレル)に存在する世界」のことである。私の理解では、

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3月30日(月)うちのジャンバルジャン

3月30日(月)うちのジャンバルジャン

夕方頃になると毎日廊下に出て庭越しに遠くの空を眺めるのが習慣になっている。コレをするとしないとでは密室に居続けることによる心身の閉塞感や平衡感覚の狂い、三半規管のバグの発生率などが全然違う。

わが家の間取りはかなり特殊な造りをしているため一般的感覚では伝えにくく、しかも機密情報保持の観点から伝えるわけにもいかないのだが、とにかくハハに脱衣場から廊下まで椅子をよっこらしょと持ってきてもらい、私はえ

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3月23日(月)物語が心に運ぶもの

3月23日(月)物語が心に運ぶもの

困ったときは、よく歌うようにしています。特に『サウンド・オブ・ミュージック』の曲は、歌っていると視界の遠くにスイスの山々が見えるようで、気分がすっきりします。

ミュージカルや映画などの歌曲って、歌詞に物語が付随しているのが良いところだな、と思います。自分が今いる世界や自分自身の心情とは別の、舞台や映画で描かれた物語の中にいる人物の心情として歌えるので、その間は頭の中のことなんて忘れてしまいます。

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3月8日(日)なんも悪いことしてへんで

3月8日(日)なんも悪いことしてへんで

【読みもの】

エストロゲンとプロゲステロンの分泌配分がそういうふうになる時期なんやろうけど、どうにも落ち込みと苛立ちの上がり下がりが激しく、そのこと自体にもがっかりしてしまう。

こういうときは大天使アカシヤ(さんまさん)の出ているトーク番組を観るに限る。安心と安定の明石家印とはよく言ったもので、さんまさんはいつなんどき見ても常に「明石家さんま」をやってくれている。

なので、「ああ、今日もさん

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2月16日(日)芥川賞と直木賞

2月16日(日)芥川賞と直木賞

【できごと】

私が殆ど小説を読めへんのに対して、家族Aは大変な読書家で、古今を問わず様々な物語を読む人だ。もちろん源氏物語などの古文や和歌にも明るい。

芥川賞と直木賞の話題になった。Aいわく、話題になった受賞作を読んでも全然ピンとこないことはよくあるらしい。作品の良し悪しとは別に、人には好みってもんがあるし、それはしゃーない。

A「芥川賞とか直木賞とか、出版社の主催やからな」
私「そうなんや

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2月15日(土)ユーモアの種

2月15日(土)ユーモアの種

時は20XX年、行き過ぎた品行方正を求めた世界ではユーモアが途絶え、笑いを解する者は絶滅危惧種となっていた……

笑いのなくなった世界を救うために立ち上がった4人の老若男女。彼らもまた、それぞれの理由でユーモアを失ってしまっていた。

おばあさん「老い先短いから…」
おじさん「おじさんが冗談を言うと空気が凍るから…」
おねえさん「女が面白いとモテないから…」
おとこのこ「じゅけんべんきょうがあるか

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1月25日(土)自分のために書いて、自分のために生きる

文章を書く動機は人それぞれだとして、近頃の自分は「誰かのため」を想定しすぎていた。自分の言葉で誰かの心が軽くなったら本当に素敵なことだけど、じゃあ、自分は?自分の心は軽くなってる?というと、全然、なってなかった。

読まれるためのタイトルを、みんなが知りたい内容を、共感されそうなエピソードを、誰も知らない世界の話を、書いても書いても自分の心は軽くはならず、どんどん漬物石に押し潰されるみたいになって

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ブルースが生まれた時

年末は音楽番組が増えますね。様々なミュージシャンの演奏を聴いて刺激を受けました。音楽性が合うとか合わないとか以前に、人が楽しそうに好きな音楽をやっていること自体がエネルギーに満ちていて楽しいです。毎日Mステやってほしいなあ。

病気の辛さを感じずに済むように感情の扉を閉ざして暮らしています。すると曲や詩が書けなくなりました。何も感じないようにしているのだから当然ですね。感受性も感性も意図的に鈍くし

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音楽と暮らし日記/チキンライス(浜田雅功と槙原紀之)

音楽と暮らし日記/チキンライス(浜田雅功と槙原紀之)

スーパーマーケットのオムライスをスプーンで割ると、中に見えたのはチキンライスだった。

たとえ世の中から切り離されたような生活を送っていても、外の世界の空気感はなんとなく流れ込んでくる。商品のパッケージには赤と緑が増えて、世界中に星屑が落ちてきたみたいに輝いて見える。

私たちは窓際に小さな木彫りのクリスマスツリーを飾った。隣にはしろくまのサンタクロースがちんまりと姿勢正しく佇んでいる。

世界で

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音楽と暮らし日記/Blackbird (The  Beatles)

音楽と暮らし日記/Blackbird (The Beatles)

家の隣に大きな空き地がある。そこには四本の立派な白樺が生えていて、日々上空を行き交う鳥たちの足休めの場になっている。廊下から庭を挟んで白樺まで一直線、借景も手伝って抜けの良い木々の風景が眺められる。

毎日の朝風呂を終えるとしばらくそこに腰掛けて、景色の移り変わりを見る。晴れている日や空気の透き通った日は空と雲の色がよく、冬でも緑を枯らすことのない椿の葉の美しい輝きを楽しむことができる。

十二月

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綿生さんちの素朴な毎日/たまごのふしぎ

綿生さんちの素朴な毎日/たまごのふしぎ

お昼ご飯はいつもその日の気分によって目玉焼きなりオムレツなり、卵を使った出来立てのお料理を作ってもらっている。こういう調理法はあつあつが美味しい。だけどいつも出来立てを作ってもらうのは難しいわけで。

今日は家族が忙しいので、用事の前に卵焼きを作っておいてもらった。黄色く綺麗なふんわりと丸まった玉子。佇まいからなんて可愛いんだろうか。

コウケンテツさんいわく、毎日同じものを食べていると味が洗練さ

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