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せーかつ

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まいにちのららら。*・゚
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#家族

桜、綿あめ、夜の風

桜、綿あめ、夜の風

薄手のワンピースに
スプリングコートを羽織って
耳元には、ロゼ色の小粒なピアスを。
いつもよりちょっとだけお洒落をして
家を出ました。

今日は、主人と、
久しぶりのデートです。

仕事終わりの彼と
本屋さんで待ち合わせしてから
ふたり、バスに乗りました。
向かう先は先日満開の報せがあった、
桜公園です。



ゆったりと
そぞろ歩く人波に合わせて
園内へ入ると、そこはもう花の路。

満開を迎え

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まいにちの 暮らしのなかに 在る言葉

まいにちの 暮らしのなかに 在る言葉

あまりにありふれた言葉なので
ふだんは
深く考えず使っているものの、

よくよく見つめてみると
その言葉の持つやさしさに
はっとすることがあります。

**

急ぎの用事のために、私は
小走りでアパートの廊下を渡り、
階段へ向かいました。

低いヒールをカツカツカツと鳴らすようにして
階段を下り終え、
勢いよく道へ出たときです。
アッ! と思いました。

目の前に、女のひとです。
こちらに向かって

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星がいちばん綺麗だった日

星がいちばん綺麗だった日

ラベンダー色の空に
星の光が瞬きはじめた、
夕と夜の間。
ホールの扉が開きます。

背広、蝶ネクタイ、ワンピース、着物、、
思い思いに洒落こんだ大人たちが
会場内へ、足早に流れてゆきます。

音楽の都、ウィーンからやってきた
管弦楽団のニューイヤーコンサート開演まで
もう、まもなくです。



日ごろのご褒美にと、
夫婦会議を開催して
ちょっぴり背伸びをして取った
コンサートのチケット。

管弦

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ふるさとに咲く花の秘密

ふるさとに咲く花の秘密

少しだけ背筋をシャンとさせて
キチンと手を合わせて、
みんなで「いただきます」と声を揃える、
お正月の朝。

黒い漆塗りのお椀の蓋をそっと開けると、
穏やかな湯気がふわふわとあがります。
お出汁にお餅が溶けだした、ほんのり甘い匂い。
やわらかい匂い。
いつもの、お正月の匂いです。

澄んだおつゆの中で
トリや白菜、しいたけと一緒に
丸もちはふくよかに煮えています。
その上に、ぽっちり浮かぶ橙色のお

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夕陽の部屋と秋映りんご

夕陽の部屋と秋映りんご

リビングの扉を開けると
部屋に、西日が差していました。

斜めの日差しが、
波打つレースカーテンの縦縞を通過して
ソファに、床に、光を投げています。

ワックスの効いた木目の床に
光が反射して、部屋全体が
明るい色をしています。

昼間、ついうたた寝をして
起きてみると
すっかり夕方になっていたのです。

やさしく揉みほぐしたような
夕陽のぬくもり。
手のひらで受けるとそれは
ふっくらとあたたかく

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思い出の玉子かけごはん

思い出の玉子かけごはん

ひんやりする朝。
ちょっと、あたたかくなれるものを食べたい、
そんな朝です。

キッチンに立って思い付いたのは
子供のころ、日曜日に
父がよく作ってくれた
朝ごはんでした。

作りやすいふたり分の分量を、
ここに書いてみます。

炊きたてのごはんに
鰹のふりかけをさっくり混ぜ込んで
お椀に二膳、よそっておきます。

つづいて
玉子を2コといて
牛乳を大さじ2ほどと、塩を少々。
タネを作ります。

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花 嫁 の 手 紙

花 嫁 の 手 紙

澄んだ空の一端を紡いで
織り上げたような淡水色のドレス。

シフォンのヴェールを
幾重にも重ねてつくられたスカートには、
ガラスの粒が贅沢に、繊細に
あしらわれています。

動き合わせて
やわらかな煌めきがスカートの上を走り、
まるで
瞬く流星のようです。

私には勿体無いほどの
その美しいドレスに身を包んで
前へ、前へ。
彼の肘に手をかけ
生花に彩られた会場の中を進みます。

十月の、透き通るよ

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ステキな笑顔の裏側に。

ステキな笑顔の裏側に。

店内に、綺麗なピアノの音色が
流れ始めました。

中庭に面した大きな窓には
午後のまぶしい光を背にして
男の人の横顔とグランドピアノのシルエットが
浮かんでいます。

「ここのお店ね、13時になったら
ピアノの生演奏が始まるの。
その席からだとよく見えるでしょう?
ぜひ楽しんでほしいなと思って
予約の時、席まで指定させてもらったの。」

弘子さんは
頬にキュートなえくぼをつくりながら
ふふふ、と笑

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季節を迎えるためのポタージュ

季節を迎えるためのポタージュ

こたつに入ってみかんを頬張りながら
今までコツコツと貯めてきたレシピの
棚卸しを実施。

大学生の頃から綴ってきたレシピノートは
地味に3冊目を迎えている。

作って美味しかったものだけを
書き留めているのだけど
特にカテゴリを設けるでもなく
その日その日で記録しているので
後でもう一度作ろうとしても
レシピを探し出すのに一苦労なのだ。

まずは主菜別にわけてみようか

そう思いつつ
ペラペラとペ

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〒 誕生月の - お手紙時間

〒 誕生月の - お手紙時間

誕生日。

久しぶりに両親に手紙を書く。

今日までのことを思い返して
文字を綴っていると

知らないうちに
目に涙がたくさん溜まって
ぽたぽたこぼれて、
ちょっと困った。

自分で書いてて泣いちゃうなんて。
って思ったけれど

心が持たなくて休職してたあのころ、

ひたすら泣いている私を
「大丈夫、大丈夫」とそっと抱きしめてくれた父の、オムレツみたいに優しかった手とか
「人の役に立とうなんて今は

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休職と、母のことば。

休職と、母のことば。

今日はぷかんと浮かぶ
お花を書いた。

赤のチェックがよく似合う。

影がゆらゆらしてる。

透けてるって可愛い。

私が休職して間もない時。

休みをもらったのに
毎日泣いて、ボロボロになって
早く人の役に立てる人間にならなきゃ
今の自分ではダメなんだ。
常に焦って追い込んでいた。

そんな時、母は私に言った。

今は焦らなくていい。
ほかの誰かの役に立とうなんて
そんなこと考えなくていい。

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