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ち あ き
2024年6月18日 21:00
小雨の降る朝でした。車での通勤中。赤信号で止まっていると目の前の横断歩道をひとりの女性が横切っていきます。傘をさしながら歩くその方はズボンのスーツに、低いパンプス。前髪は、七三に分けてぴっちり横に流し長い髪を後ろでひとつに結っています。気持ちのよい身だしなみです。この方もいま、出勤するところなのでしょう。雨の中でもシャキシャキと歩くその方の姿にふと思い出したのは数
2024年6月2日 18:16
その日は少しばかり早く出社をして職場のロッカールームに着きました。大型連休明け、初日の出勤日。デスクに着くと始まるであろうお仕事ラッシュにやや心が滅入るな、と思いながらふぅ、と息をついているとコンコン、と元気にドアがノックされました。開けられたドアのほうに目を見やると立っていたのは、先輩職員のKさんでした。いつも気さくに接してして下さる方で、私にとってはお姉さんのような存
2024年5月21日 21:14
これは、最近あった「ちょっといいこと」のお話です。------------------------------------
2024年5月11日 09:21
ある素敵な横顔を見かけたのは旅先のパリで列車に揺られていた時のことでした。すらりとした姿の女性がひとり、同じ車両へ乗車されて私の席から見て斜め向かいのところに場所を取られました。30代ほどに見えるその方は、ダークブロンドの豊かな髪をつむじの辺りでゆるく団子にまとめています。眉は、堂々と凛々しくそばかすの乗った白い肌です。手元のほうへ視線を落としているその横顔に、私
2024年4月21日 17:25
金曜、四月から入社されたTさんの歓迎会が開かれました。和ふうの、小洒落たお食事処に集まったのは同じ課に所属する、十人。年代は色々ですが、全員が女性です。掘りごたつの個室で、ひと続きのテーブルに十人が五人ずつ、向かい合うように座ります。皆が席に着くと前菜が手早く提供され、一杯目の飲み物が行き渡りました。「Tさん、これからよろしくお願いします。では、かんぱい」上司の音頭の
2024年4月7日 17:42
小説って、編み物みたいと思います。かぎ針を毛糸の、ちいさな輪っかへ通しひとつひとつ手を動かして糸を列へ、列を面へと仕立てていくように選りすぐった言葉を、重ねて結んで一行ずつ丁寧に文章を紡ぎ、物語へと仕立ててゆく。どちらも本当に時間のかかる作業です。でもそうやって、手間を惜しまず細やかに編み込まれた細工がひとの心を魅了し、そのやわらかい布地が肌をあたたかく包み込
2024年3月10日 17:02
菜の花が風に吹かれてゆうらり、ゆうらり、と波を打ちます。一面の黄色。ビタミンイエロー。花盛りを迎え、彩度に満ち満ちた葉の花のパノラマが目の前に広がっています。黄色い海のように広大な光景も、そのひとつひとつをよく見るとそれは小さな花たちの集合体。すっくと伸びた茎先が枝分かれしてそこにいくつもの十字状の花をほころばせています。今日は、近隣の町で開かれた菜の花まつりにや
2024年2月14日 06:02
エメラルドの瞳、白い肌、栗色にカールのかかった髪。ひとりの青年と、すれ違いました。パリの街は曇り空。風はなく、穏やかで過ごしやすい気候です。カフェのテラス席では人々が、おしゃべりと軽食を楽しんでいるそんな午後のことでした。青年は細いフレームの丸眼鏡をかけ白シャツに黒のニット、それからネイビーのオーバーコートを重ねています。個性のあるお店が立ち並ぶ鮮やかな通りで、
2024年2月4日 18:19
深い瑠璃色の空に一、二粒の星が音もなく点る如月の早朝。私は、パジャマにあたたかい上着を羽織ってひとり、キッチンに立ちます。それから携帯電話を片隅に置き、液晶の上の再生ボタンを押して昨晩の続きをリクエストします。ナレーターの方の声がシンとしていた空気の中に、しっとり響きゆくのを聞きながら私は、朝食の支度にとりかかります。流れるのは川端康成作「伊豆の踊子」。ナレー
2024年1月21日 06:02
たとえば小さなベーカリーで楽しみにしていたお目当ての商品が売り切れていたとき、あなたは、どうされますか?私は、以前までこじんまりとした商店では何も買わずにお店を出ることに少々きまりわるさを感じて売り場にある商品を適当に見繕い、買って帰ることがしばしばありました。レジのところに店員さんがいらっしゃる手前、スーッと入ってきてスーッと出てゆくのは、、とヘンに気を巡らせて
2023年12月18日 05:58
大学の友人たちと、久しぶりの再会。なじみのカフェでめいめいに好きな飲み物を注文して、話に花を咲かせます。そのなかで私はふと、そんなことを尋ねました。ひとりが、「私はね、」と話し始めました。キラキラと楽しげに話す彼女。洋画が好きな彼女らしい、小粋なアイデアです。つづいて、もうひとりが言いました。菫やあやめ、桜に楓。小さなことに目を向けて、心を動かせる人はいま、それ
2023年11月12日 06:45
これは、細やかな加減が苦手なO型の私でもかんたんに作ることができる私の、一押しおやつです。あなたも、秋めく午後のひとときにおひとつ、いかがでしょうか。四人分を作ります。まず、クリームチーズを70gほどボウルに取り、常温に置いて柔らかくします。そこへ100mlの生クリームを注ぎなめらかになるようヘラで混ぜ合わせます。生クリームとクリームチーズがトロりと、ひとつに馴染
2023年10月15日 20:30
机の上にはノートと万年筆、カップに淹れた茜色の紅茶。それから、読みさしの本が1冊。そうして、栞を頼りに本を開いたら、私の、好きな時間のはじまりです。万年筆にインクを十分に充填して姿勢をととのえて書かれている文章に目を落として。本の中の、美しい響きの言葉や新鮮に感じる表現、思わず共感する部分だったり、心に触れた台詞を真っ白なノートの上にひとつひとつ、拾い集めてゆ
2023年9月29日 20:41
映画を観た帰り道にキャフェへ寄りました。時計は十六時をまわったところ。磨きあげられたガラスのドアを押すと店内は、なかなか賑わっています。私は栗のパウンドケーキとカフェラテをお願いして入口から離れた店内をゆったり見渡せる席をとりました。このお店を利用するお客さんはテイクアウトとイートインが半はんといった具合で、おしゃべりに夢中の学生さんたちやゆったりと本を読む白髪の女