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花 嫁 の 手 紙


澄んだ空の一端を紡いで
織り上げたような淡水色のドレス。

シフォンのヴェールを
幾重にも重ねてつくられたスカートには、
ガラスの粒が贅沢に、繊細に
あしらわれています。

動き合わせて
やわらかな煌めきがスカートの上を走り、
まるで
瞬く流星のようです。


私には勿体無いほどの
その美しいドレスに身を包んで
前へ、前へ。
彼の肘に手をかけ
生花に彩られた会場の中を進みます。


十月の、透き通るような秋の日。
空の青と木々の緑に囲まれた式場で
私たちは
ささやかな結婚式を挙げました。



***



司会者のアナウンスが入り、
会場の照明が絞られました。
さっと静まった
ほの明かりの空間を
ピアノの伴奏が
しっとりと、満たしてゆきます。

胸が、トクントクンと高鳴っているのが
わかります。
私は、手元の手紙をひらいて
ちいさく息を吸いました。


お父さん、お母さんへ

今まで26年間、
本当にお世話になりました。

今日という日を迎えて、いま
私は、お嫁にいく嬉しさと
ふたりの元を巣立つ寂しさで
胸がいっぱいです。

小さい頃からわがままで
泣き虫だった私は
本当に手のかかる娘だったと思います。
思春期には、行き場のない感情を
家族にぶつけてしまったりして
ふたりを困らせたことは
一度や二度ではありません。

今考えれば、それは、
帰る居場所がある、
何があっても変わらず受け止めてくれる
お父さんとお母さんに対する
大きな甘えだったと思います。

結婚をし、実家を出て、
今までのことを振り返ったとき
いちばんに感じたのは
そんな家族がどんな時も
私の傍に居てくれたことへの
感謝の気持ちでした。


お母さんの「おかえり」の声。
お父さんからの心配の電話。
あたたかい手料理を囲む食卓。
一緒に庭のガーデニングを楽しんだり、
遅くまで相談事を聞いてくれたり。

思い出す日常の、
どこを掬い取っても
そこには家族の温かさがあって、
当たり前だと過ごしてきた時間が
私の心の中の
大切な、大切な宝物になっていると
改めて気付きました。


お父さん、お母さん、
今まで育ててくれて
大きな愛で包んでくれて
本当にありがとうございました。


私は、素敵な縁にめぐまれて
心から尊敬する、大好きな人と
新しく家族になりました。

**さんは私にとって
かけがえのない人です。

これからは彼とふたり、
ささやかな毎日を大切に
過ごしてゆこうと思います。

どうか、温かく
見守っていてください。



この、たった一通の手紙で
私の、拙い文章で

二十六年分の想いを
ちゃんと伝えられただろうかと

目を上げると
そこには

涙の滲んだ瞳で
微笑んでいる父と母の姿が
ありました。


「、、よかった
ふたりの娘に生まれてよかった、、」


心の、奥深いところが
ジンと熱く波打って
私は、もう
涙を堪えることが
できませんでした。


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