再会を願って
『あそこのポッカリ空いた雲のとこ、あの辺りにおこちゃんは帰るのかもね』
僕らはお別れをするおこちゃんのことを、『おそらにかえる』と表現している。
とても幼稚で、ファンタジーな表現かも知れないが、この悲しく非情な現実を受け止めるためには、それぐらいでちょうど良いんだ。
『そうだね、きっとこれからはおそらから私たちのことを見ててくれるね…』
そう妻は答え、僕らはベランダから見える景色を目に焼き付けようと、しばらく外の世界を見ていた。
梅雨はまだまだ明ける様子はない。
しかし、この奇跡的に見れた晴れ間に、僕らは自分たちの心境を重ねていた。
『じゃあ、準備しようか』
僕は妻に声をかけ、必要な物を用意し、あの日おこちゃんの無事を願って急遽作った神棚に願いを捧げた。
どうか、おこちゃんが苦しまずにおそらに帰れますように…
どうか、おこちゃんがまた僕らの元にきてくれますように…と。
今までお願いしていた『願い』とは、まったく別のものになってしまったのが悲しい。
しかし、僕らは行かなくてはならない。
だいぶ予定していた出発時間より早いけれど、僕らは3人で幸せな時間を過ごした家を後にした。
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