僕らの『おこちゃん』
『おこちゃん~パパだよ~』
そう言いながら、僕は妻のおなかを撫でた。
まだ膨らんではいない、そんな妻のおなかは暖かくて、とても柔らかい。
いつからだろうか、僕らはおなかに迎えた我が子をのことを、『おこちゃん』と呼んでいた。
たしか最初は『赤ちゃん』と呼んでいたはず。
しかし、
『「赤ちゃん」って、なんだか全般的な総称みたいで、なんだかオリジナリティに欠けるよね?』
よく覚えてないけど、きっとそんな会話を僕ら夫婦はしたんだろう。
『じゃあ、「お子さま」って言葉があるように、僕らの元にきてくれたことに敬意を残しつつ、愛着を込めるために「おこちゃん」って呼ぶのはどうかな!?』
こんな独特な発想をするのは、きっと僕に違いない。
しかし妻も『その呼び方、かわいいね!』と賛同してくれたので、お腹に宿したこの新しい命は、「おこちゃん」と命名された。
まだまだ性別もわからない、まだ僕の腕のホクロぐらいの大きさくらいしかない我が子に、僕らは『おこ』と名付けて、いっぱいの愛情を注いだ。
『そんなに動いたら、きっと「おこ」が目を回しちゃうよ!』
『そんな重いものもったら、「おこ」が苦しいかもしれないよ!』
元々心配性でHSPな僕だ。
買い物に行くときは重いものは持たせないし、何かあったら妻よりも先に僕は動くようにしていた。
『もう、そんなに心配しないでも大丈夫だよ!』
そんな妻の言葉を、僕は聞いているようで聞いていなかった。
きっと『おこ』が無事に生まれていたら、僕はとっても過保護な親バカになっていただろう。
『おこ』の存在のおかげで、僕は『パパ』としての自覚が芽生え始めていたんだ。
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