『可能性』という悪夢
僕はお風呂から上がったあとに、必ずすることがある。
それはストレッチと筋トレだ。
やせっぽっちの僕だけど、30を過ぎてからは若干腹まわりが怪しくなってきた。
これはいかんと考え、ストレッチは毎日、筋トレは1日おきに続けている。
『やっぱり子育ては体力勝負だからな』
そんな理由も少し自分の中にあったのかもしれない。
その日は前日に筋トレをしたので、寝室の布団でゆっくりストレッチをすることにした。
しっかり身体をほぐしていると、少ししてお風呂上がりの妻が隣に横になった。
『あ、そういえば病院のこと聞いてなかったよね、どうだった?』
いつものように妻のおなかを優しく撫でながら、僕は笑顔でそう聞いた。
すると妻は答えた。
『お腹のおこ、とっても元気に成長してるよ』
『でもね………』
珍しく、会話中に長い沈黙が続く。
なんだろう、この嫌な感覚…。
なんだろう、なぜか覚えてるその感覚…。
胸がざわめき、身体中の細胞が緊張していくのを感じる。
そうだ、この感覚のことを思い出した。
これは妻が『子宮内膜症の手術をしなきゃいけない』ということを、僕に伝えた日と同じ感覚だ。
『もしかしたら、私これから赤ちゃんできなくなるかもしれない…』
そんな悲痛な報告を受けた、あの日と同じだ。
そのときと同じように、妻は気丈に振る舞いながらも、言葉を詰まらせ、声を震わせつつ一生懸命に僕に伝えてくれた。
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