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散文詩

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#刹那

ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

ALL YOU NEED IS LOVE 《詩》

「ALL YOU NEED IS LOVE」

時の海の中にひっそりと漂う

今は無き物質と其の記憶が

長く白い砂浜を音も無く歩き続ける

彼女はまだ僕の中で歩き続けている

確か随分前にも君を見かけたよ

同じ時間に同じ場所で

そう 話しかけたかった

微かな波の音が聴こえた

太陽は動かず時間は止まる

時々僕は彼女に出逢う 

ふとした瞬間に

何処か遠い世界にある場所で僕等は
強く繋が

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二人称単数 《詩》

二人称単数 《詩》

「二人称単数」

過去の記憶と現在の感情が

時間軸を隔て まるで違う人物の
二人称の物語を描く様に流れて行く

其れは常に平行しており等価であり 

全てが僕個人に含まれている
欠片だと気が付かない

僕の意志とは無関係な所で

選ばれた事柄が進み

また 

僕の意志とは関係無く失われて行く

其処に居る僕は

揺るぎない確信を探し求めている

この場所に君が
一緒にいてくれたならと

僕は

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境界線の北 《詩》

境界線の北 《詩》

「境界線の北」

意識の中で人工的に創り出した楽園

その外に一歩足を踏み出すと

途端に荒々しい現実に
直面させられる

擦り切れ始めた幻想の先 

汚れた海が物哀しい波音を響かせる

ひとつひとつの点を線で辿る時

幻想と現実の差異を認識する

冷静にして沈着な計算を
要求されている

僕は失敗するわけにはいかない

不調和 

脱落 

不協和音 

遥かなる眼下

虚空を睨むマリア像 

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オッドアイ 《詩》

オッドアイ 《詩》

「オッドアイ」

静かで濃密な確信が其処にはある

疑いの無い確信が恒常的に

内紛の火種を抱える

汚く猥雑で出鱈目な街 

それでも街の夜景は綺麗に見えた

屈曲していない純粋な微熱を帯びる

イエスかノー 
其処には一切の保留条項は無い

窓から海が見えた 

白い海と黒い海 波は無い

僕は轍を見つけては其れを辿る

強固な世界観を有した
偽装社会の中で

夕暮れの空を背景に観覧車が廻る

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君を捨てる 《詩》

君を捨てる 《詩》

「君を捨てる」

君を捨てる 

其の傷跡は誰にも見えない

深さや形を変えてなおも
消える事無く記憶の中に生きている

僕は独り君との足跡を辿る

悲しみ 

動揺 

葛藤を含む象徴的な暗号

誰にもわからない様に詩的に変換し
吐露する事

それが唯一の
逃げ場である事を僕は知っていた

斬殺 斬首された風の無い深淵

其処に残された血を

跡形も無く流し去る激しい雨

僕は捨てられ 僕は君を

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破滅の淵 《詩》

破滅の淵 《詩》

「破滅の淵」

僕等は先を急いではいない 

時間がかかるなら 

それでも構わない

空をゆっくりと流れる雲は

広い空の中に
自分の居場所を定めている

何処か遠くで

誰かが誰かを呼んでいる

僕等は世界でただひとつの

完結した場所に辿り着く

何処までも孤立し誰も入れない空間

其処には差し出すものも
求めるものも無い

沈黙のうちに過ぎる時 

だけど孤独に染まる事は無い

彼女は僕の

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神の月 《詩》

神の月 《詩》

「神の月」

起き忘れられた野心と色褪せた希望

空白に似た諦めが目に見える空を

無感覚に覆い尽くす

其処に浮かび上がる

薄い刃物の様な三日月は

失うべきものは何も無い 

命さえも そう静かに語る

何日も風の強い夜が続く

時々わけもなく涙が溢れた

だけどそんなに孤独じゃないよ

お前もそうだろう 
そう三日月に囁いた

俺は意識の枠の外側で

自分自身の神に触れる

お前達の神じゃ

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魔女狩りの詩 《詩》

魔女狩りの詩 《詩》

「魔女狩りの詩」

生きる事を目的として戦い続ける 

目には見えない

圧倒的な力を持つものが襲う

其れに相対する

救いに似た光を求めた

あらゆるものを  

ただ黙々と受け入れ

其処にあるものを

呑み込み全てを赦した

其の優しさに身を委ねた

僕等の時間が
それぞれの経路を辿り流れる

恐怖や希望

絶望の中に揺らぐ炎を見た

だが君は心の奥底で死を望んでいる

その流れがひとつに

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流れる水と小さな星 《詩》

流れる水と小さな星 《詩》

「流れる水と小さな星」

僕の目の前にある時間は

静かな足取りで通り過ぎて行った

其処には僕の意思とは関わりなく

其れ自身の原理に従い

流れる水の様に静かに

彼女は僕の知らない場所で
眠っていた

其処は時間と空間によって 

行動の自由を制限される事の
無い場所

夢の無い深い眠りの中で

僕達には行かなくてはならない所が

やらなくてはならない事がある 

その事をはっきりと知る

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冬の月 《詩》

冬の月 《詩》

「冬の月」

死がふたりを分かつまでは…

そんな言葉を何処かで聞いた

冷気を含んだ丘からの風が
僕の前髪を揺らす 

空は灰色の雲に覆われ

静かに雨が降り始めた

大きくて白い冬の月を見たのは

いったい いつだったろう 

思い出せない

僕は

其の小説を書きあげてはならない

其れは未完成で無くてはならない

姿形を持たない

観念的な象徴の中にだけ

物語は生きている

其れを具現化

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風の音 《詩》

風の音 《詩》

「風の音」

正確な事まではわからない

僕の見上げた頭上には空は無かった

時計は止まり

其の秒針は意味を成していなかった

全てが静止した沈黙の中に
僕ひとりが存在していた

ただの錯覚なのか 

僕の内部で生まれる

断続的な映像なのか

潤いの無い乾いた単色が

色彩を塗り潰した後に

不規則な光が見えた

前後の脈絡を欠いた唐突な風

確か前にも同じ夢を見た

茫漠とした霧が匂いさえも

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落命 《詩》

落命 《詩》

「落命」

車のヘッドライトに

照らし出され路上で硬直した猫

決断も行動も無く指示された事を

従順に遂行する世界が周る

遠くの海鳴りがはっきりと聞こえる

捕縛し続けて来た物の
瓦礫が横たわる

意志を備えた濃密な霧

血の通った泥の中にうずくまる

全ての感情を奥に隠した邪悪な血

僕自身が宿る肉体が抹殺した幻

其処にある
光景から目を反らず直視しろ

根源的な邪悪は僕自身の中にある

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一輪の切り花 《詩》

一輪の切り花 《詩》

「一輪の切り花」

希望と同じ数だけの
絶望が其処にあり

生と同じ数だけの
死が此処に満ちている

行き交う車が僕の視線を塞ぐ

僕は其処にある何かを

見落としている

僕の前に再び姿を見せた影は

俺もまた此処にいる 

そう暗示している

望まない時 

あるいは強く否定する光が

大きな鉄の門扉を閉ざす

常緑樹が作り出す影は

其の葉色とは裏腹に 

黒に近い鈍色をアスファルトに映す

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寡黙な詩 《詩》

寡黙な詩 《詩》

「寡黙な詩」

既存の社会的通念が

創り出した定められた枠

その均衡を突き崩し

調和と安定を
賛美する歌に耳を塞いだ

譲歩の余地の無い通告が

西側の窓辺から見える

僕は自分自身を

理解する為にまたペンを取る

全ての微妙な動きまでも
静止した文字に移し替えて行く

君の黒髪に口付けた感触が 

小さく震える膝を両手で掴む 

そして思考の中に深く身を沈めた

来たるべき何かを示唆する

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