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クーリエ・ジャポン編『変貌する未来 世界企業14社の次期戦略』 : 有名経済人アイドル名鑑

書評:クーリエ・ジャポン編『変貌する未来 世界企業14社の次期戦略』(講談社現代新書)

端的に言って、中身が薄い。
14社15人も扱っていて、個々の記事が短いということもあるけれど、問題はそこではない。

辛辣なことを言うようだが、この本をありがたがる人といいのは、「成功した起業家」「世界のトップ経営者」「最先端技術を牽引する有名人」といったこところを「ありがたく崇拝しているだけ」であって、彼らの語っていることの中身には、さほど関心もなければ理解もないのではないだろうか。

これらのインタビューで言及されている「地球環境問題」「個人情報の扱い」「情報の独占」「経済的な独占」「非人間的経営」といった個々の問題点については、それぞれに、もっと突っ込んだ取材や研究による書物がいくらでも出ているし、当然のことながら、そちらの方がずっと面白い。
ところが、そうした「専門書」の著者(ジャーリストや学者)というのは、「起業」や「経済」のことばかり考え、社会的成功に憧れている人たちにとっては、ほとんど興味の対象外である「無名」に等しい人たちなのだから、そんな人の書いたものに興味を持つことなど、絶えてないのである。

言い換えれば、本書に登場するトップ経営者たちの語る「自分に都合の良い部分だけのキレイゴト」には、大した中身などないのだが、要は彼らの「ブランド」がありがたいのだ。
有名な「彼ら」が語っているから「ありがたい」のであって、完全に同じことを無名の人が語ったって、こういう本をありがたがる人というのは「そんな当たり前なこと、したり顔で言うな」と鼻で笑うのが関の山であろう。

もちろん、「成功した起業家」「世界のトップ経営者」の語る「キレイゴト」が、どこまで「嘘」や「自己正当化」に塗れたものかを検証するためになら、本書を読む価値もあるだろう。だが、そうした「検証」を行うためには、「成功した起業家」「世界のトップ経営者」がやっていることの、「現実」を知らなければならない。そしてそれを知るためには、前述の「専門書」の著者(ジャーリストや学者)たちの著作を読まなければならないだろう。

しかしながら、本書を読む人の多くは、そして、本書をありがたがれるようなナイーブな読者の多くは、そもそも、そんなこと(現実)には興味のない、「経済的成功教」という「宗教」の信者であり、自分好みの「教祖」の言葉を疑うことなどしないのだから、本書の読者の多くに、何かを期待するのは無駄だろう。彼らは「教祖」を崇拝し絶賛することで、自分がその「眷属」になり得たという「同一化」幻想に酔いたいだけなのだ。

したがって、本書の持つ意味の大半は、本稿のタイトルどおり『有名経済人アイドル名鑑』ということでしかない。

そこで「アイドル(偶像)」たちが、何を語っているのか、は問題ではないのだ。
「アイドル名鑑」や「怪獣図鑑」や「変な生き物図鑑」で大切なのは、有名で人気のある「キャラクター」が取り揃えられているか否かでしかない。
「信者」読者とは、そこに書かれた「内容」ではなく、彼らの「御真影」を眺めてありがたがっているだけの、およそ「最先端」とは無縁の、昔ながらに「未開」な偶像崇拝者たちなのである。

初出:2021年8月21日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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