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今野晴貴『ストライキ2.0 ブラック企業と闘う武器』 : 〈戦い方〉は、ここにある。

書評:今野晴貴『ストライキ2.0 ブラック企業と闘う武器』(集英社新書)

タイトルの「ストライキ2.0」とは、要は「こんにちの新しいストライキ」という意味である。そして、その「新しいストライキ」とは、どのようなものであり、私たちはそれに、どのような「希望」を託し得るのか、ということを語ったのが本書だ。
本書は、「かつてのストライキ(=古いストライキ)」とは違ったものとして、新たな希望を託するに足る「新しいストライキ」像を、すでに生動しているものとして、具体的に語っている。

「新しいストライキ」とは、どのようなものなのか。
簡潔に言うならば「個人の利益を増すためばかりのものではなく、社会正義を実現するためのストライキ」である。

もちろん、労働争議としてのストライキは、労働者の利益や権利を守り増進するためになされるものであり、その点は大前提として変わりはしない。
しかし、日本の労働争議は、長らく企業別の労働組合によってなされていたために、自分たちの利益と権利の防衛増進を第一とするあまりに、しばしば「他者の利益と権利」を無視したり犠牲にしたりする傾向があった。
たとえば、交通機関のストにより多くの人が一方的に不便を被るとか、正社員の利益と権利を守るために非正規社員のそれが犠牲にされるといった現実が、残念ながらがあったのだ。

だがそのために、既成の労働組合は「社会的な信頼と支持」を失い、社会から浮いてしまうことによって、使用者(会社)側との交渉力を著しく低下させて、有効な交渉カードとしてのストライキが、ほとんど使えないようになってしまった。
またその結果、労働組合に所属する正社員の利益や権利が充分に守られなくなるばかりか、労働組合に属さないアルバイトや非正規社員などの待遇はさらに劣悪なものとなり、ブラック企業に象徴される劣悪な労働環境の問題が、もはや例外的なものではなくなってしまったのである。
この劣悪な労働環境を変えるには、もはや「これまでの企業別労働組合によるストライキ」でダメなのは明白であり、そこで「新しいストライキ」が求められることになった。

では、その「新しいストライキ」とは、具体的にどのようなものなのか。
無論それは、これまでの「企業別労働組合」の枠を超えた、「職業別・産業別労働組合」によるストライキだ。

これまでは「我が社の社員のため」だけ、だったものが、これからは「同じ仕事をする、すべての仲間ため」の行動となる。「自分たちさえ良ければいい」ではなく、「同じ苦しみを味わっている、すべての仲間(労働者)のために」となり、「新しい連帯」がそこに生まれる。
そして社会は、そうした人たちに「社会正義実現のための意志と告発」を見て応援することになるから、そうした「新しい主体」によるストライキは、社会からの支援を受けて「大きな力」を持つことになる。
一一これが「新しいストライキ」の姿だ。

したがって、いまブラックな職場で苦しんでいる人は、迷うことなく本書を手に取って、具体的な「生き残り戦術」を学ぶべきである。

たしかに、一個人が企業に対抗することは困難だし、怒りにまかせて半端な戦い方をすれば、あっさり排除されてお終い、ということにもなるだろう。
しかし、ただ堪えているだけでは、我慢して言われるとおりに働いているだけでは、あなたは単なる「負け犬」と見下され、いいように使い潰され捨てられるか、あなた自身が死を選ぶかしかなくなるだろう。

だからあなたが「このままでは、潰されるだけだ」と思ったなら、一歩踏み出してほしい。
あなたと同じように苦しんでいる人は大勢いるのだから、そうした「罪なき人=被害者」が連帯すれば、決してあなたは一人ではないし、戦い方を知っている仲間もいるのだ。

だから、黙って食い物にされないでほしい。泣き寝入りしてはいけない。
「どうせ潰されるのなら」という気持ちからでもいいから、同じ苦しみを味わっている仲間たちと連帯してほしい。不当に苦しめられているあなたには、人間らしい生活を求める権利があり、そこには誰もが認める「正義」があるのだから、あなたの闘いは、決して「あなただけのもの」ではなく、同じように苦しむ「すべての仲間のためのもの」でもあるし、だからこそそれは「正義」なのだ。

殺されるな。諦めるな。決意しよう。手をつなごう。そして「自分自身」を守り「すべての人の権利」を守るために戦おう。
戦い方はある。本書には、その具体的な方法が示されている。まず「電話1本」からでいいのだ。

あなたには、まだ「希望」が残されている。だから、絶対に絶望するな。
あなたはまだ戦える。仲間とともに戦える。

絶望するのは、まだ早いのだ。

初出:2020年5月9日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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