【展覧会レポ】アニエスベーギャラリーブティック「<誰がマイクロプラスチックを食べているの?>展」
【約4,700文字、写真約25枚】
アニエスベー ギャラリー ブティック(東京・南青山)に初めて行き「<誰がマイクロプラスチックを食べているの?>展」を鑑賞しました。その感想を書きます。
結論から言うと、展覧会を通したメッセージにモヤモヤが残りました。せっかく良いことをしているものの、アニエスべー独自の考えが見えず、ブランディングの観点でもったいないと感じたためです。ただし、アパレル業界の闇であるマイクロプラスチック問題に正面から切り込んでいる点は好感をもてました。
▶︎訪問のきっかけ
FASHIONSNAPの「X」で展覧会について知りました。1)アニエスべーのギャラリーに行ったことがなかった、2)マクロプラスチックという攻めた内容、3)入場料が無料、ということで行きました。
▶︎アクセス
アニエスベー ギャラリー ブティック(2階)へは、表参道駅から歩いて約3分。近くには、奈良美智がプロデュースしたA to Z CAFE、Brooks Brothers 表参道などがあります。
住所:東京都港区南青山5-7-25 ラ・フルール南青山2F
▶︎「<誰がマイクロプラスチックを食べているの?>展」感想
アニエスべーの創業者は、2003年にフランス初の海洋保護に関する公益財団法人(タラ オセアン財団)を設立しています。また、日本では2016年に、一般社団法人(タラ オセアン ジャパン)を設立しています。
タラ オセアン財団は、詳細でグラフィカルな年次報告書を制作しています(80ページ超!)。かなり実質的なの団体のようです。
日本では、マリンバイオ共同推進機構と協業し、3年間・14か所・約300サンプルに及び、マイクロプラスチックに関する調査を実施しています(2024年度中に科学論文を発表予定)。予想外に骨太な取り組みでした。
調査の結果、周辺人口と抽出されたマイクロプラスチックの量に相関関係はないようです。海流や海岸のゴミ管理に影響されると推定され、海岸によってマイクロプラスチックの種類は異なる、とのことでした。
この展覧会では、マイクロプラスチック(5mm以下のプラスチック)やマイクロファイバー(8㎛以下の合成繊維)の実物を顕微鏡で見ることができたのは興味深かったです。
EUでは、2023年10月からマイクロプラスチック添加製品の原則販売が禁止されています。アパレル界では、パタゴニアやH&Mが具体的に取り組みを開示、リードしています。
マイクロプラスチック問題に対して、アニエスべーは、素材をオーガニックコットンに切り替えることで、対応している、とのことでした。ただ、オーガニックコットンの使用比率は「一部」とのことで、取り組みの水準感が具体的に開示されていない点は残念でした。
1キロのコットンを生産するのに必要な灌漑用水の量は1,931リットル、雨水の量は6,003リットルを利用すると言われ、地球環境に負荷をかけています(参照)。
アニエスべーが採用しているオーガニックコットンの認証「GOTS」とは、そもそも、どの程度、環境に配慮されたコットンであるかという点にも会場内で説明がほしかったです。
また、マイクロプラスチックの対策としてオーガニックコットンに切り替えるという対策自体は、私はあまり腑に落ちませんでした。認証のないコットンから認証のあるコットンに替えるだけ?それだけでいいのでしょうか…。
また、一概に天然繊維=善、合成繊維=悪と読めるメッセージも、私は納得感がありませんでした。
マイクロプラスチック問題も含めて、環境に負荷をかけないためには、アパレル業を廃業することが手っ取り早いです。しかし、それでもなお、洋服を販売するのであれば、地球環境に負荷をかけることを差し引いても、ポジティブな影響を与えていると言えるロジックが必要だと思います。
認証コットン切り替え以外、そもそも売れ残らない服を作る、丈夫で長く着たいと思う服を作ることが重要ですし、着なくなったらリユース・リサイクルの仕組みを作るなど、アパレル企業としてできることがあると思います。
ブランドHPでは、上記の内容がある程度カバーされています。展覧会ではそこまでセットで言及した方がブランディング上、有効だと思いました。
アニエスベーとは何者なのか?なぜ、ブランド創業者が海洋問題に積極的なのか?それがアニエスべーのブランドコンセプトとどう関係しているのか?展覧会では、その点に言及がないため「一つの取り組み」で終わってしまっている印象がありました。
マイクロプラスチックというアパレル界ではセンシティブな問題に正面から向き合っていることに対しては好感をもてました。しかし、展覧会の内容だけだと、全体的に小手先感があり、何だかモヤモヤしました。
また、結局「マイクロプラスチックの何が問題なのか」という問いに対する回答も曖昧に感じました。
人は、1週間で5グラムのプラスチック(1枚のカードと同じ量)を摂取しているそうです。会場内には、プラスチックカードの塊が展示されていました。これは、人が4年分で食べているプラスチックの量を表現しているとのこと。身近な例で可視化されると自分事化され、事実が分かりやすいです。
展覧会の最後で、タイトル「誰がマイクロプラスチックを食べているの?」の伏線を回収する内容になっています。しかし、私はこのキュレーションも納得感が薄かったです。「誰が食べているの?」⇒「人間」⇒「人間の健康のためにアニエスべーはマイクロプラスチックを減らしてます!」という人間本位なメッセージで良いのでしょうか…?
実際に、来場者の感想が貼られたボードを見ていると「私たちってプラスチックをたくさん食べてるんだなぁ😨」という感想が多く、それ以上に示唆が与えられていないように見えました。
マイクロプラスチック問題は、人間を含むすべての生物の体内での蓄積、生態系全体への悪影響などに懸念があると私は理解しています。展覧会内で、そこへのメッセージがない点も疑問が残りました。
ぶっちゃけ、服の素材や資材の切り替えなど、どこのアパレル企業もできることから実施しています(アピールすべきことは愚直にアピールした方が良いと私は思います)。しかし、問題に対するアニエスべー独自の考えが見えませんでした。
なお、イッセイミヤケはブランドコンセプトから紐解いて、サステナブルな企業姿勢を自然にアピールできている点にとても好感をもてました。
マイクロプラスチック問題にパキッとした正解はまだありません。各社がそれぞれの考えと取り組みでボトムアップするしかないと思います。その点では、(モヤモヤする部分は残りましたが)一定の効果はある展覧会でした。
▶︎まとめ
いかがだったでしょうか?アパレル企業が正面切って、センシティブなマイクロプラスチック問題に切り込み、爪痕を残した点は好感がもてました。ただし、アニエスベーとして、展覧会を通して来場者に何を伝えたかったのか?一つの取り組みだけでなく、ブランドコンセプトもセットでマーケティングすべきだったでは?と、モヤモヤが残りました。
▶︎おまけ(アニエスべーとは)
アニエスベーは、1976年にパリのルー デュ ジュールに1号店をオープン。「決して時代遅れになることがない、シンプルなデザインで着る人の個性を引き立たせるお洋服」というのがアニエスベーのコンセプトだそうです。
私の中で「アニエスべー」は、Tシャツにジーンズといったシンプルでコンサバコーデなお姉さん、おばさまがが好んでいるブランドという印象です。代表的な商品は真っ先にロゴTシャツが思い浮かびます。
創業者の本名は「アニエス・トゥルブレ/Agnes Troublé」。ブランド名の由来は、『ELLE』で働いていたアニエスべーは、記事に署名をする必要があった際、咄嗟に「アニエスベー(agnès b.)とだけ書いておいて」と指示したことです。なぜ、"b"なのかというと、アニエスの最初の夫「クリスチャン・ブルゴワ/Christian Bourgois」の頭文字を取ったからだそうです。
ちなみに、アニエスべーは、私生活では2度の離婚を経験し、3人の男性との間に5人の子供をもうけたとのこと。2人目以降の旦那さんは「アニエスベー」というブランド名には複雑な思いを抱いていたのでしょうか…。
日本では、東京・青山に1号店をオープン(1984年)。元々はサザビーリーグとの合弁会社でした。現在、日本には約130店舗あるようです。公式によると「各国合わせ200店舗以上で展開」とのことなので、日本が最も店舗数が多いのでしょうか?アニエスベージャパン(株)の売上高は非公開です。
アニエスべーの代表商品は、1979年発売の「カーディガンプレッション」。ある暑い日に、アニエスべーが好きだったスウェットシャツの前を開けることを思い付いてハサミで切り、スナップボタンがルネッサンスの服や、神父服のように狭い間隔で並んでいるようデザインしたそうです。
▶︎今日の美術館飯
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