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l Love You and Yours【お気に入り保存箱】

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また読み直したいものを勝手に放り込んでゆくところです。 勝手に入れますが、御容赦ください。
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#私の作品紹介

【詩】夢の跡

色とりどりの喧噪が
数多沸き立つ空間で

たった一つ
心に届いたあなたの声に
そっと寄り添う夢を見た

届く言葉の
人恋しい切なさに
そっと甘える夢を見た

差し出す手の
温もりの誠さに
そっと安らぐ夢を見た

夢と知って夢を見た

覚めると知って夢を見た

今どうしていますか

おきよ

おきよ

事務机の引き出しを開けると
そこには丘陵みたいなものがあり
頂きの白っぽい通信塔から
ヒトの鼻の嗅球に
オカラみたいなものを放射する

丘陵みたいなものに立つと
向こうに海みたいなものが見えて
輪っかのある惑星みたいなものが
半分くらい沈みかけていて
惑星みたいなものに立つ建物には
おきよという事務員がいる

望遠鏡で覗いてみると
おきよは黒い腕ぬきを外し
経理の仕事を放っぽり投げて
向井のチ

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Starless And Bible Black(或いは闇の行方)【エッセイ】

Starless And Bible Black(或いは闇の行方)【エッセイ】

 かつて私は、自室の壁に全天恒星図を貼っていた。漆黒の宇宙を背景に煌めく星々のイメージとは逆の、B全版の白地に散らばった夥しい数の黒い点を眺めながら、畳の上に寝転んで音楽を聴いていた。
 当時お気に入りのロックバンドはKing Crimson。LPレコードのタイトルは『Starless And Bible Black』だった。B面の一曲目が全て即興演奏の表題曲で、オランダ・アムステルダム公演のライ

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【詩】霧氷

【詩】霧氷


枝に寄り添う霧氷が
眩しそうに輝きながら
溶けてゆく

散りゆく姿の可憐さに
そっと沸き立つ微笑みの
響き渡る暖かさ

いつしか笑顔は
するものになっていた
型にはまった笑い顔
奥底が冷えていく

綺麗なだけではない日々で
そういう時は
心が喜ぶものを探して

詩 「note」

詩 「note」

今日もぼくは
noteの重い扉を開け
いつものように
ここに来た

noteというのは
この図書館の名前で
今きみがいるところ

さあ
ここへどうぞ
ぼくの隣の席でいいかな

ぼくの今日のノートは
noteについて書くつもり

「note」

noteには
何万 何百万もの
椅子とテーブルと本棚があり
人々は毎日ここにやって来ては
作業をしたりノートを読んだりする

ここにいる人たちの大半は
ノー

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暗渠

暗渠

山の斜面の家と家の間の、曲がりくねった歩道の裏側を下りて来た暗渠は、海岸線の国道脇に立つゴミ収集ステーションの手前でコンクリートの蓋が無くなり、幅狭な水路に変わる。だがすぐにアスファルト道路の裏側を横切り、海辺の家と家の隙間に開口する。流れ落ちる水が引き潮の砂泥に浸み込み、庇の影がその上に落ちる。左右のコンクリートの縁はもう少し続き、庭先の海岸堤防の開口部で終わる。石積み造りの突堤が湾曲しながら海

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小説 「さよなら、ナポリタン」

小説 「さよなら、ナポリタン」

【1日目】

①麺とタマネギとピーマンをあれする。

②フライパンで①のあれをあれする。

③ケチャップを〈ナポリタンの色〉になるまで入れ続ける。

④「これはナポリタンだ」と感じたら成功。

⑤ナポリタンの成功を祝うため、家を飾り付けする。ナポリタンは玄関に置くのが一般的。(来客時にアレをするため)

⑥おにぎりを食べ、就寝。

【2日目】

⑦起床したらまず、玄関のナポリタンを確認する。盗難さ

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二つの塔

二つの塔

頑丈な鉄骨で構築された四角柱の塔が立っている。錆びた梁が上から下までを六つの立方格子に区切り、東側の面を太い配管が真っ直ぐに上行し、頂上で鋭角に折れ曲がって塔の中心を下行すると、やがて漏斗のような物体がそれを受け止める。海辺のセメント工場はとっくに稼働を止め、臓物めいた装置を内部に支え続けた塔も死んでしまった。夜になると、黒々とした塔のシルエットの天辺に紅い灯が二つ、中腹と下部に二つずつ、さながら

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イグアナのご遺徳を偲ぶ

イグアナのご遺徳を偲ぶ

「え~~本日はぁ、天気日頃も良ろしゅう、氏神様のご祭礼により~、これより大節分豆まき大会を開催させていただきます。皆さま万障お繰り合わせのうえ、ご家族お揃いでご参加下さいませ。なお~、お子供衆には~、白玉ぜんざいと福豆菓子をご用意いたしておりますゆえ~、巫女Aのお姉さんとこでみんなでいい子して貰ってね。お父さんお母さん方におかれましてはぁ、巫女Bの売店にてぜんざい太巻きパックを販売いたしております

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オドラデク大いに語る

オドラデク大いに語る

──はじめまして。インタビュアーのジャック・リンドールです。

よろしく、ジャック。

──まさか君がインタビューに応じてくれるとは思わなかったよ。

そう?気軽に呼んでほしいな。

──毎日忙しいようだけれど、何をして暮らしているの?

拡張性有機物伸縮活動の実態調査。調査結果提出時期は繁忙期だね。

──ところで君は生き物なの?

君がそう思うならそうだよ。

──なぜ星の形をしているの?

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短編「かなまう物語・下」

短編「かなまう物語・下」

 ぼうぼうだった草に元気がなくなった。風が強まり、細い路地にも舞い込んでは落ち場を転がしてゆく。秋が来たのだ。

 手紙は相変わらず届けられていた。箪笥の上へ積んでいた手紙はいっぱいになって雪崩を起こしたため、男は箱を一つ用意した。押し入れにしまってあった段ボールの一つだ。最初に屑籠に投げ入れた手紙もいつの間にか拾われてそちらへ入った。手紙の封筒の色や柄はいつも様々で、段ボールの中は男の家の内で一

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短編「かなまう物語・上」

短編「かなまう物語・上」



 郵便ポストの後ろに忘れられた細い路地がある。路地に沿うのは民家の側面とか裏側で玄関を構えている家はないものだから、日中もひっそりとしている。だが近所の住人にとっては生活道路に変わりなく、知る人ぞ知る路地でもある。その路地の片隅に、男の家はあった。

 男の家は路地のぷつりと切れるぎりぎりの位置にあって、平屋で、古くて、瓦が日に焼けて薄ボケて、玄関前の草はぼうぼうと生えたら生えたままであるし

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【詩】路地

【詩】路地

あの角を曲がった路地は
名残り道

心澄ませば
灯る記憶のまぶしさに
歩が緩まる 名残り道


ずっとずっとが無いように
あの先からは一人道

夢から覚めて振り向けば
足跡だけはついてくる

あの頃があるから今がある
そういってずっと続いてくる

エッセイ/写「真」

エッセイ/写「真」

真実とはなにか、真理とはなにか、と問うとき、この言語で問われたその問いは、すでに幾分、間が抜けてみえるのだ。(もっとも、どの言語であれ、その問いそのものが間抜けていないか、私には何とも言えない。)

ことばという魔物は、いつでもじわじわと純粋思念を侵食するが、「写真」ということばも、そのひとつだろう。
それが白黒の粗い画像の時代から、誰の仕業か、こいつは「真を写す」などと、荷の重すぎる名を背負わさ

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