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詩 「note」



今日もぼくは
noteの重い扉を開け
いつものように
ここに来た


noteというのは
この図書館の名前で
今きみがいるところ


さあ
ここへどうぞ
ぼくの隣の席でいいかな


ぼくの今日のノートは
noteについて書くつもり




「note」


noteには
何万 何百万もの
椅子とテーブルと本棚があり
人々は毎日ここにやって来ては
作業をしたりノートを読んだりする


ここにいる人たちの大半は
ノートの作者であり読者でもあるのだ


ノートを読んでいて
気に入った作者や作品には
「スキ」と書いた
手紙を出すこともできる


だから
スキノオシラセさんは
いつも大忙し


ぼくはここに来るたび
スキノオシラセさんの身体が心配になる
今日も両手に抱えきれないほどの
手紙を持って走っていったから
帰りはおそくなるとおもう


たまには
ぼくにも手紙が届くから
その手紙は失くさないよう鞄に入れて
家に持ち帰ってから大切に読む




ところで
この図書館は広い
広すぎて端から端まで
歩くのはどうやっても無理


まいにち増築工事をしているから
まいにちどんどんひろがっていく
ぼくがこの建物の奥まで行けることは
たぶんこれからもないだろう


それがこのnoteという場所なのだ




ぼくは今日
ここであるものを見つけた


人々に
司書にすら
忘れ去られていたであろう
ノートを発見した


二年前
そのノートを書いた作者は
この図書館の秘密の場所にノートを隠し
去ったまま二度と戻らなかった


彼がノートを書いていたとき
彼ははたしかにここにいて
何かを考え
何かを訴え
何かを呟き
それをノートに書き記し
見つけにくい場所に隠したのだ


その秘密のノートを
発見したぼくは
真夜中の閲覧室で
灯火ひとつをたよりに
彼の思索と面影に思いを馳せた


それから手紙を出した
手紙にはもちろん「スキ」って書いた


彼に手紙を出したのは
ぼくがはじめてだったらしい
あんなに素敵なノートなのに



ぼくもまた
消えた作者のひとりだった


一年とちょっと前
ここにはじめて来たぼくは
詩を書いたノートを本棚に入れ
誰かが読んでくれるのを待っていた


ぼくがはじめて書いたノートには
その日に手紙が一通届いた
それがとってもうれしかった


そのあと一月くらいの間に
いくつかノートを書いたけれど
なぜだか次第に虚しくなってきて
noteに通うのをやめてしまった
ほぼ一年間まったく来なかったのだ


ぼくのノートも
秘密の場所に隠したから
誰にも見つからなかったはず



消えた作者が
再び戻ってくることを願いながら
このノートを本棚のいちばん下の
隅のほうに置いておくことにする



もしも いつか
ぼくがまたnoteに来なくなって
何年もの月日が経ったとして
きみがこのノートを見つけたとして
きみがこのノートを読んでくれたとして


このノートには過去のぼくが
完璧に冷凍保存されたまま
生きているだろう


時が流れても
変わらないものが
ここにはある


ぼくらはいずれ
ひとりのこらず死ぬだろう
ぼくや きみのことを
おぼえている人もいなくなるかもしれない


でもここにはノートがある
ノートだけはnoteで生きつづける
だれにも読まれなかったとしても
ノートは生きつづけるのだ


ぼくは
たしかにここにいて
うんうんふむふむ言いながら
ノートを書いていた


このノートは
ぼくがここで生きていたあかし


ぼくのノートを
みつけてくれて
ありがとう


ぼくも
きみのノートを
みつけるよ


きっと
きっとね



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