いち

好物:天然自然  「あなたに届け物語」

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好物:天然自然  「あなたに届け物語」

マガジン

  • 箸休め

    連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。

  • 長編小説「頭上の愛」

    過去に連載致しました「頭上の愛」 長編小説です。 改稿には至っておりません故、価格を下げております。 「知と愛と藍の物語」。お手に取って頂けますと作者幸せです。どうぞよろしくお願い申し上げます。

  • 手紙小品

    「手紙」が好き。書くのが好き。貰うのも好き。手紙に纏わる些細な日常のお話を集めました。「小品」故、現実とフィクション入り混じっております。

  • 掌編、短編小説広場

    此処に集いし「物語」はジャンルの無い「掌編小説」と「短編小説」。広場の主は「いち」時々「黄色いくまと白いくま」。チケットは不要。全席自由席です。あなたに寄り添う物語をお届けしたい。いつでも気儘にお立ち寄り下さいませ。

  • 食の風景

    「食の風景」とは、食に纏わる美味しいお話から、料理のあれこれを、時に脱線しながら、思うままに腕を揮っては語っております。レシピは無いけれど、今日も美味しいご飯を一緒に食べませんか。

最近の記事

「山の達人」

四月の話だ JR柏原駅から鈴鹿山脈の一峰である、霊仙山へ登った。当初は醒ヶ井駅からの登山を計画していたけれど、林道で土砂崩れがあり、ルートを変更して登山可能な日を待つ事にした。 ようやく天候と休日が噛み合い迎えた登山日。 駅から今日も一人黙々と歩いていると、後方から熊除けの鈴の音が聞こえてくる。自分のぶら下げているおまけみたいなのではなく、ちゃんと良い具合に響く鈴。 それが少しずつ近付いてくる。ああこれは、自分より歩くペースの速い人だな。直追い抜いて行かれるだろう。ここは

    • 「たしかに春だった」

       靴には防水スプレーをその都度吹き付ける。元々撥水性を備えたトレッキングシューズだけど、服装はじめ、装備の防水性は重要だと思う。  どこまでも山を追いかけた。いつまでも天気を気に掛けた。そうやって日一日が、今年の一日、一日が、過ぎて行く。    キラキラ光る眼は新入生のものだった。初めて歩いた川沿いの桜並木からは香しい春が流れていた。鯉もサギも鴨も、のんびりと日向を満喫していた。桜に引き寄せられて人、思い思いに並木を見上げていた。コアラのマーチいちご味をつまみ食いしながら

      • 手紙小品「ひとかけらの勇気 手のひらに花」

        拝啓 今年最初のうぐいすは、雨の山の中で出会いました。いえ、姿なんて見えません、声だけ、ホーホケキョって、上手だったんですよ。 慣れたものですからね、何処へだって一人で行きます。蕎麦屋の暖簾も潜れますし、砂浜だって歩きます。何ヘクタールにも及ぶ春の花畑だって、平気に歩いて見せますとも。楽しいですよ、それはそれでね。 だけど、本当にいつも思います。勿体ないなあ~って。こんなに素敵な景色をどうして一人で見ただろうって、いつも思うんです。一緒だったらよかったなあって、いつも思っ

        • 掌編「シロクマはひとりぼっち」

           シロクマが目を覚ました時には、既に海岸から遠く離れていた。泳いで戻ろうと思えばそれも出来たが、シロクマは流氷と共に行く事にした。周りにはまだ氷の塊がボコボコあって、見渡す限り氷海が続く。たった今シロクマが寝そべっているのと同じくらい大きいのもあるが、小さいのもたくさんある。大きいのは教室かリビングルーム程、小さいのはレジャーシート位だろうか。ただ、全部が全部真っ白だ。  シロクマは自分の毛並みよりも純粋な白を持つ氷の地面へ鼻先を寄せた。冷たくて気持ちがいい。彼は眠い目を覚

        「山の達人」

        マガジン

        • 箸休め
          138本
        • 長編小説「頭上の愛」
          5本
          ¥500
        • 手紙小品
          30本
        • 掌編、短編小説広場
          123本
        • 食の風景
          141本
        • 長編小説「夕眺め」
          4本
          ¥500

        記事

          食の風景「おせち2024」

           今年度が終わる前に、滑り込みで今年のお正月の食の風景、掲載させて頂きます。  私の「いつもと違う事がしてみたい」という地味な心の抵抗が、例年通り段取りを組み、台所へ詰めておせちや年越しそばの仕込みをする。という気分を持ち上げません。しかし、諸々を経て、作ることにしました。  作るなら、「おいしい」ものを――今年頂いた美味しいごはんの数々を思い出します。伺ったお店のお台所から生まれた逸品の数々。その手仕事に私は感銘を受けました。丁寧な手仕事。カウンターの場合は客席からも眺

          食の風景「おせち2024」

          「かこつけて桜餅」

           おつかいの序に、ふと思い立ち久し振りで和菓子屋へ寄った。街中で綻ぶ花の蕾や気の早い桜を見かけるうち、「春」を思い出したのだ。 「春」といえば。その問いにはきっと、百人寄れば百通りの答えが返ってくるだろう。その時々の気分にも左右されるだろう。私は常から気候を意識してしまう人間だから、この頃は三寒四温の只中に居るな、と、まるで台風の目の中にでもいるかのような気分で日々を暮らしている。そうかと言って何ら不自由はなく、寧ろ風を楽しんでいる。雲の変化を楽しんでいる。  人対人に煩

          「かこつけて桜餅」

          「怠惰にミモザに花まるけ」

           先日登った山の麓に咲いていた、これは桜で合ってるだろうか。暖冬の二字に振り回された冬が終わろうとしている。日々の暮らしに菜の花が映り込む季節になった。  執筆の速度と文量を大幅に減らすと、早起きの必要を感じなくなったのか、二度寝の常習犯になった。夜明けは日に日に早くなるのに、御用がないとビシッと朝起きようとしない。温もりに満ちた冬仕様のお布団が、まだいいよ、ゆっくりすればいいよと、誘惑してくる。実際何だか凄く眠いのだ。  何かが大きく変わろうとする前、物凄く、ただひたす

          「怠惰にミモザに花まるけ」

          「これが地球のエメラルドグリーン」

          昨年9月下旬、長野県木曽郡大桑村の阿寺渓谷を歩いてきました。全ての道は次なる物語へと続く――はずだけれども、いざ足を踏み入れると、もう、なんだっていい。今、ここに居る自分。それだけが全て。 さあ、呑み込まれに行こうか 最寄り駅に着いたのが午前8時半くらい。昨日の雨模様が嘘のような晴天。朝から暑い、夏の名残りどころか太陽が眩しい。嫌いじゃない。 駅から渓谷の入口まで歩いて20分ほど。道は民家の合間を縫って歩くようでやや分かりにくい。地図を印刷して来て良かったと思う。山歩き

          「これが地球のエメラルドグリーン」

          掌編「穴」

           人生に失敗はつきもので、だが然しそれが許される社会と、許されない社会があるのだ。私が属するのは、後者の方だった。  地元の人間も滅多に入らない様な森の奥深くまで分け入った私は、やがて尽きた細道の更に先へ、生い茂る枝葉を掻き分けて進んだ。どの枝がどちらから伸びて来るのか、足元に蔓延る根がなんの樹に由来するものだか、さっぱり見当が付かない。蜘蛛の巣もいくつも顔で千切ったし、棘にもあちこち引っ掻かれた。臭い実を立て続けに潰した時は辟易したが、甘美な木々の誘惑にも出くわした

          掌編「穴」

          「やさしさの欠片と師走の晴天」

                年の終わり、大掃除を大方終えて、文箱を少し検めていたら、去年の誕生日に貰ったメッセージ絵本が出て来た。 「これからも大きな優しさで輝き続けて」と、そう書いてあった。  文字が目に飛び込んで来た瞬間、この一年の自分が鏡の様に目の前へ広げられた気がした。今年の私は、自分の生き方を模索するあまり、人生迷子みたいな日々を暮らしたような気がしている。人にやさしくありたいとも思うのに、自分の人生というものを考えたくて、どうバランスを取ればいいのか、何をすることが周囲にとっ

          「やさしさの欠片と師走の晴天」

          掌編「冬、時々 2023」

          「くそう、変人佐伯めええ」  感情任せに投げ出したスマートフォンがソファに埋もれた。画面上にはきらびやかなイルミネーションで彩られた街の写真が映し出されたままだ。横目で見て、はあーと長い溜息を零した。  二年前の冬、クリスマス直前。痛い思い出を引きずったままだった当時の私は、幸せに満ちたクリスマスなんか蹴散らしてやろうと手当たり次第に負のオーラをばら撒いていた。そこへ突然降って来た不思議な出会い――というか、再会。それがきっかけで、私は高校時代の同級生佐伯くんと付き合う事に

          掌編「冬、時々 2023」

          「頭上の愛」 5(終)

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          「頭上の愛」 4

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          「頭上の愛」 3

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          「頭上の愛」 2

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          「頭上の愛」 2

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          「頭上の愛」 1

           少年の鼻から唄が零れる。ふふん、ふん、ふん、と軽快に出る。 「やーまをとーびー、たにをこえー」  唄に合わせてチラシの裏へ線が踊る。少年の心が弾むほどに線は増やされてゆく。流れるように滑らかに走ったと思うと、いきなり迫力を増す。重なって、ある所は塗り潰されて、ある所は網目模様に似せてある。 「ぼくらのまちへーやってきたー」 「上手よー天才だわー!!」  テーブルにかじりつく少年の上から声が降って来る。少年は顔をぐいんと持ち上げる。黒い大粒の瞳に母親の笑顔を映して、

          「頭上の愛」 1