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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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記事一覧

「気まぐれによる夜の文」

 何故か突然過去の読み切りを読んで、己の文章力のなさと表現力の乏しさに愕然としたところです。よくこんなの発表したなと恥ずかしさのあまりそそくさと削除しました。情けないので今の自分に再推敲させてますがとくに意味はありません。びっくりする位の傑作が書けたら思い切って再投稿しますが書けなくても気分が乗ったら再投稿します。  長編小説も思うようには進まず、と書くとまるで毎日もくもくと向き合っているようなニュアンスに受け取れますが実際はパソコンを開いてもおりませんで、ただ暑さと向き合

「宮古ブルー、島の青い思い出」

視界はクリア。眼下に広がるはブルー、そしてサンゴ、魚の群れ。マスクに覆われて鼻呼吸はできない。地上とは違う呼吸法、口から吸って、吐いて、ゆっくり、ゆっくり。 口呼吸に慣れて、意識しなくても楽に呼吸ができる様になった時、フッと音が消えた―― 私は今、海の中に居る 海の中、自分のシュノーケルの息遣いが耳に聞こえる。あぶくは微かに遠くで弾ける。世界は静かで、限りなく静かで、全ては海に包まれていた。やがて私の器も海に馴染んで、存在が消えた。それは確かに私の目で、私の耳で、私の手

「山の達人」

四月の話だ JR柏原駅から鈴鹿山脈の一峰である、霊仙山へ登った。当初は醒ヶ井駅からの登山を計画していたけれど、林道で土砂崩れがあり、ルートを変更して登山可能な日を待つ事にした。 ようやく天候と休日が噛み合い迎えた登山日。 駅から今日も一人黙々と歩いていると、後方から熊除けの鈴の音が聞こえてくる。自分のぶら下げているおまけみたいなのではなく、ちゃんと良い具合に響く鈴。 それが少しずつ近付いてくる。ああこれは、自分より歩くペースの速い人だな。直追い抜いて行かれるだろう。ここは

「たしかに春だった」

 靴には防水スプレーをその都度吹き付ける。元々撥水性を備えたトレッキングシューズだけど、服装はじめ、装備の防水性は重要だと思う。  どこまでも山を追いかけた。いつまでも天気を気に掛けた。そうやって日一日が、今年の一日、一日が、過ぎて行く。    キラキラ光る眼は新入生のものだった。初めて歩いた川沿いの桜並木からは香しい春が流れていた。鯉もサギも鴨も、のんびりと日向を満喫していた。桜に引き寄せられて人、思い思いに並木を見上げていた。コアラのマーチいちご味をつまみ食いしながら

「かこつけて桜餅」

 おつかいの序に、ふと思い立ち久し振りで和菓子屋へ寄った。街中で綻ぶ花の蕾や気の早い桜を見かけるうち、「春」を思い出したのだ。 「春」といえば。その問いにはきっと、百人寄れば百通りの答えが返ってくるだろう。その時々の気分にも左右されるだろう。私は常から気候を意識してしまう人間だから、この頃は三寒四温の只中に居るな、と、まるで台風の目の中にでもいるかのような気分で日々を暮らしている。そうかと言って何ら不自由はなく、寧ろ風を楽しんでいる。雲の変化を楽しんでいる。  人対人に煩

「怠惰にミモザに花まるけ」

 先日登った山の麓に咲いていた、これは桜で合ってるだろうか。暖冬の二字に振り回された冬が終わろうとしている。日々の暮らしに菜の花が映り込む季節になった。  執筆の速度と文量を大幅に減らすと、早起きの必要を感じなくなったのか、二度寝の常習犯になった。夜明けは日に日に早くなるのに、御用がないとビシッと朝起きようとしない。温もりに満ちた冬仕様のお布団が、まだいいよ、ゆっくりすればいいよと、誘惑してくる。実際何だか凄く眠いのだ。  何かが大きく変わろうとする前、物凄く、ただひたす

「これが地球のエメラルドグリーン」

昨年9月下旬、長野県木曽郡大桑村の阿寺渓谷を歩いてきました。全ての道は次なる物語へと続く――はずだけれども、いざ足を踏み入れると、もう、なんだっていい。今、ここに居る自分。それだけが全て。 さあ、呑み込まれに行こうか 最寄り駅に着いたのが午前8時半くらい。昨日の雨模様が嘘のような晴天。朝から暑い、夏の名残りどころか太陽が眩しい。嫌いじゃない。 駅から渓谷の入口まで歩いて20分ほど。道は民家の合間を縫って歩くようでやや分かりにくい。地図を印刷して来て良かったと思う。山歩き

「やさしさの欠片と師走の晴天」

      年の終わり、大掃除を大方終えて、文箱を少し検めていたら、去年の誕生日に貰ったメッセージ絵本が出て来た。 「これからも大きな優しさで輝き続けて」と、そう書いてあった。  文字が目に飛び込んで来た瞬間、この一年の自分が鏡の様に目の前へ広げられた気がした。今年の私は、自分の生き方を模索するあまり、人生迷子みたいな日々を暮らしたような気がしている。人にやさしくありたいとも思うのに、自分の人生というものを考えたくて、どうバランスを取ればいいのか、何をすることが周囲にとっ

「ごあいさつ」

こんにちは、いちです。 長編小説「KIGEN」の連載が終了致しました。お付き合い下さった皆様に、心より御礼申し上げます。お読み下さっていると実感できるたび、その一つ一つがどれ程励みになったか知れません。連載を続ける上でも大きな支えでした。また、お時間の許すとき、現在進行形でお読み頂いている皆様の事も、私にとり大きな励みでございます。本当にありがたく存じます。 しばらく執筆と、そして自身の生き方に向き合う時間に主軸を移します。その間に、noteとの付き合い方も考えてみようと

「涙が出てる」

 歳を重ねる程に涙が出やすくなるというのは本当か――  それはさておき涙が出てる。「泣きそうになる」ことはまああるとして、それは実際には泣いてない。涙が出そうで出ない、もしくは、堪えられる位には目元が丈夫ということだろうか・・・ひねくれた言い回しをすれば、出そうだけど泣くほどではない状況だ。しかし今、私の目からは涙が出てる。出て来た。  最近寂しさか、物悲しさが募る余り涙が出る。なんてとっても人間らしい一面をひそかに畳の上で披露する夜更けもあるわたくしですが、たった今の涙

「深さ、ありますね 中田島砂丘」

夏は終わらない、海が見たいと浜松を訪れました。9月の初旬です。 ここのところ冒険へ出掛けようとするとお天気の神様に嫌われてきた私ですが、今日は朝から気持ち良く快晴です。どちらからいうと暑い。要するに猛暑日です。陽気な太陽が朝っぱらから「行こうぜ海!」と張り切ってくれています。私も張り切って外へ飛び出しました。 「行くぜ海!砂丘!いざ浜松へ!!」 浜松を調べてみると、遠州灘に「中田島砂丘」とありました。浜松駅からはバスが程よく出ています。これなら日帰りできます。 「よう

「乾杯!夏の石段と山形の葡萄ー後編ー」

届けたい山形が多すぎて、三本立てになってしまった今回の旅の話。甚だ恐縮ではございますが、あなたに届け山形!ですから、御覧頂けますと幸いです。 最終日。出発の一週間くらい前に「これだ!!」と思いついた所へ行く。 山形は、果物王国で、ブドウ作りはずう~~っと前から盛んだ。つまり、美味しいワインの産地なのだ。 それからりんごが好物な私。東北制覇を目指して順番に回る中で、いつか国産のシードルと出会えないかと思っていた。行く先々で探しはするものの、元来お酒を飲まない人だから早々見

「乾杯!夏の石段と山形の葡萄ー前編ー」

それじゃあ語ろう、山形の続きを。 2023年7月、山形は高瀬地区の紅花まつりを訪ねるため、私は2泊3日の山形旅へ出掛けた。愛しの紅花については既に存分に語ったので、今日は2日目の山寺の話をしよう。 芭蕉の句でも有名な「山寺」。正式名称は「宝珠山立石寺」という。私が初めて訪れたのは、昨年11月で、今回は2回目となる。一応下に前回の訪問を紹介します。 さて、山寺駅のホームへ立つと、すっかり夏色に衣替えした山寺を抱くお山が目の前へ聳え立っている。あれへ今から登るのかと思うと、

「あの日タエ子が触れた紅花はここにあった―山形・高瀬の夏に染まる旅」

2023年7月 梅雨の明けきらない山形にて 念願の紅花畑へ降り立つ。 触れてみたくて手を伸ばす 硬くとげのある葉が、チクリと私の肌を刺激した。 「そうか、これがあの日タエ子が触れた紅花の生きた感触か・・・」 痛くて、嬉しかった この夏のはじまりに、私は一つ夢を叶えました―― 小学生の頃、スタジオジブリの映画「おもひでぽろぽろ」を見て、紅花を知った。見てみたいなあとぼーんやり思っていた。 いつか見てみたい。は、大人になりかけて、 見に行ってみたい。に、変わっていた。