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エッセイ他

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長めの詩と、物語と、ポエムの延長線上にあるエッセイと。
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#日記

ただの日記(20240524)

ただの日記(20240524)

 少年たちの締まったしなやかな肢体を見て湧き上がるのは憧れだ。僕にも少年時代が欲しかった。少女時代ではなく。

 胸に無駄な肉の塊ができて、骨盤がバキボキと音を立てて育った。

 骨が薄くて皮下脂肪が柔らかい身体が一概に嫌いなわけではない。人間の身体は男性より女性のほうが美しくできていると個人的には思っている。客観的に見て女性の身体は嫌いではない、だが自分が女性の身体でいることはまた別の話だ。綺麗

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ただの日記(20240519)

ただの日記(20240519)

 傷ついたときに傷ついていないふりをしなくていいし、怒っているときに怒っていないふりをしなくていいという、人によっては考えるまでもないこと。

 今からでも身につけていきたいと思う。

 傷ついたとき、あからさまに傷ついた顔をしたら、それは相手を責めているのと変わらない。相手が僕を傷つけたという事実を当人に知らしめ、罪悪感を抱かせる。相手を罪人に仕立て上げることになる。

 だから僕は傷ついたこと

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ただの日記(20240516)

ただの日記(20240516)

 ある日突然不眠症になってから、微妙に嫌な夢をよく見る。

 集合時間に間に合わないとか、台詞もストーリーも知らないまま演劇の舞台に立たされるとか。母親に向かって叫んで怒りをぶつけていたりとか。

 たぶん過去に嫌だったこととか無意識下で恐れていることとかを夢で発散しているのだと思う。そんなにストレスを感じているのだろうか。よくわからない。

 他の人はもっと大変なはずなのだからもっと頑張らなけれ

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ただの日記(20240128)

ただの日記(20240128)

 朝起きて、「アップルパイが食べたい」と思った。

 前日にアップルパイの情報を目にしたわけでも夢に出てきたわけでもない。それは天啓のようなものだった。直凪よ、アップルパイを食べよ、と。

 それはともかくとりあえず犬の散歩に行き、朝食の米を食べる。最近のお気に入りふりかけは「しそわかめ」だ。しっとりとして、上品な風味がある。しかも体に良いものを食べている気分になれる。

 しばしだらだらしてから

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ぬいぐるみと悪夢

ぬいぐるみと悪夢

 ぬいぐるみを抱いて眠るようになってから、頻繁に悪夢を見る。ただ不快なだけの夢ではなく、抑え込んでいた感情に気付かせるような、示唆的な悪夢を。

 どうしても嫌なことをやらされそうになって、必死の訴えも聞いてもらえなくて、どうしてわかってくれないのと泣きながら追っ手から逃げ回ったりとか。

 パニック症のことを母親に打ち明けたら心無い言葉をかけられ、怒りと悲しみを爆発させたりとか。

 心の痛みと

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「本当に役に立つ仕事」がしたい

「本当に役に立つ仕事」がしたい

 宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』、そのアニメ映画版を何となく観た。登場人物が二足歩行の猫のやつ。

 飢饉に追われるようにして街に出たブドリは言った。

「どんな仕事でもいいんです」

 続けて、

「とにかく、本当に役に立つ仕事がしたいんです」

 全然どんな仕事でもよくない。人(猫)を食い物にするような詐欺まがいの仕事だったら、飢えていたってきっとブドリはやらない。役に立つ仕事でなければし

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実写は怖いのでアニメを観る

実写は怖いのでアニメを観る

 テレビドラマの中の世界では、現実世界にいるような姿形をした人たちが、現実と同じく肉体と不可分に紐付いた声で、現実の人々に似せた話し方をしている。そうしたリアリティの持つ鈍器のような硬さに耐えられない時がある。

 日常系のほのぼのしたドラマを見つけ、これなら心穏やかに観られるだろうと思っていた。大きな波乱もなく物語は進んでいたのだが、最終回付近で一度だけ、主人公が声を荒げるシーンがあった。時間に

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恐怖していた、被害妄想だったとしても

恐怖していた、被害妄想だったとしても

 何だか知らないが疲れている。注意力散漫でさっきまで何をしていたかすぐ忘れるし、口の粘膜が荒れて口内炎が次々にできる。どこにも行きたくないし、何もしたくない。手持ち無沙汰になるとゲームをしたりYouTubeを流したりして何となく時間を潰す。停滞、あるいは縮退。途切れた道の続きを探すのも面倒で、快適でもないがそこそこ安全な藪の中にだらだらと留まっている。

 急に訪れた秋に鬱っぽくなっているのか、猛

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自己否定をやめたら真実を求めなくなった

自己否定をやめたら真実を求めなくなった

 真実を知りたかった。

 人の想い。その裏にある道筋。心の集まりである社会の力学。世界を動かす原理。

 全部知りたかった。なぜ知りたいのかなんてわからなかった。自分の根本的な指向なのだろうと捉えていた。

 最近になって、真実への欲求が薄れていることに気付いた。

 唯一絶対の真実など存在しないという諦めのせいかもしれない。世界の実態は人間の知覚を超えている。光には波と粒子の両方の性質があると

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忘れたい何かを取り戻す

忘れたい何かを取り戻す

 消し去ってしまいたい記憶も自分を構成する一部分ではあるのだから、忘れようとすれば心のどこかを切り離すことになる。

 夫を忘れようとしていた。そのことに気付いた時、身体に中身が少し戻ってきたような気がした。ランダムに形を変える模様のようだった景色が意味を取り戻そうとしているのを感じた。

 僕の生活の大部分は夫に紐付いていた。夫を忘れるためには、生活を忘れる他なかったのだ。

 ほぼ夫としか話さ

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強迫観念以外の理由で自分の世話をしたい

強迫観念以外の理由で自分の世話をしたい

 ご飯を食べて、歯を磨いて、部屋を掃除して、お風呂に入って、肌を保湿して、寝床を整えて。日常の、生活を保つためのケア。それらの動機が脅迫観念だったかもしれないと思う。

 脱毛やエステの広告のように、常に綺麗にしておかなければ嫌われるぞと自分を脅す。体調を崩して人に迷惑をかけ、嫌な顔をされる恐怖をちらつかせる。自分を脅迫することで、良好なコンディションを保つための行動を自分に取らせていた。

 例

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僕らは川の藻をそのまま口に入れたりはしない

僕らは川の藻をそのまま口に入れたりはしない

 川の浅瀬に鴨がいた。頭を水平に下げ、緑色に濁った水の中で下嘴を細かく動かして食物を摂っていた。

 僕はあの鴨と同じことができるだろうか。藻と泥と微生物の入り混じった生臭い水をそのまま口に含む。余分な水だけ吐き出して、固形分を飲み込むのだ。得体の知れない菌や虫や動物の糞と一緒に。

 病原菌や寄生虫を恐れているから僕は川の水を口にしない。家に帰ればもっとずっと清潔で安全な食べ物と飲み物がある。当

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鬱作品の摂取をやめたら何が好きかわからなくなった

鬱作品の摂取をやめたら何が好きかわからなくなった

 胸が苦しくなるような作品が好きだった。小説でも漫画でもゲームでも。一番大切な人が惨たらしく死んだりとか。愛する人を殺すことでしか救うことができないとか。そういう胸が痛むやつ。

 心が深く抉られて痛くて死にそうになる感覚を求めていた。死にそうになって、生きてるって感じがした。気持ちが昂って、思い切ったこともできる気がした。日常の苦しさやちょっとした傷付きを麻痺させることができた。こんなの大したこ

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不安症の日常

不安症の日常

 不安に駆られて飛び出した。

 どこへ?

 ——とりあえず内科。

 一時間以上の待ち時間を経て診察室に入り、具合の悪さを説明する。医師が首をひねる。もう帰りたい。

 触診して、検査して、どこにも異常は見付からない。やっぱりだ。またやってしまった。「お役に立てなくてすみません」なんて謝られてしまって、居たたまれなくて仕方ない。ごめんな先生……俺の勘違いに付き合わせてごめんな……。

 ちょっ

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