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#本

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気になった本をただただ読む。そのまとめ。
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#読書記録

この世界には確かなことなんて無いかもしれない。けれども、何かを信じることはできる。「騎士団長殺し」/村上春樹

この世界には確かなことなんて無いかもしれない。けれども、何かを信じることはできる。「騎士団長殺し」/村上春樹

『騎士団長殺し』面白く、不思議で、洞察深い物語でした。

『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』『街とその不確かな壁』に続き、村上春樹は3作目です。『騎士団長殺し』の前に読了した2冊で、村上春樹の『手腕』的なものと『文章技巧』的なものと『軸』みたいなものが、概ね把握できたのは、『騎士団長殺し』を読むうえで有益でした。

今回は読みながらその瞬間に思ったことをツイートし書き留める作業をしてみまし

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三島由紀夫の『金閣寺』をスライド形式で振り返る 

三島由紀夫の『金閣寺』をスライド形式で振り返る 

先月に三島由紀夫の「金閣寺」を読了してからその衝撃を忘れることができず、一スライド一題目の「1対1対応」で振り返ってみました。

振り返るとわかる、内容の密度と、その文言の壮麗さ。

何度でも読んでその内容を噛みしめたい、そう思わせてくれる作品です。

※スマホを横にして任意の画像をタップすれば、あとは横にスライドして画像を流れるように閲覧できます。

意志を否定して、意志を救う

意志を否定して、意志を救う

他者への配慮として、「わかりやすい表現」というのは、実に望ましい形式である。誰かに何かを伝えるという行為において、短く、簡潔に言葉をまとめて、それを発語することに、なんら問題はない。

けれども、その言葉の中に含侵されている「意味」というのは、実に、その言葉のままであるという逆説があるだろう。その言葉には、まさにその「言葉そのもの」が、ただ純粋に含まれているだけである。

公理的な言葉としての「こ

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現実はなぜひとつなのだろう 『ゆるく考える』/東浩紀

現実はなぜひとつなのだろう 『ゆるく考える』/東浩紀

「意味」に居る私『黒い正方形』という、無対象を志向した絵画がある。

「約束事」とはつまり、絵画そのものが持つ《写実性》である。つまりは、絵画は何かを「再現」するプラットフォームであり続ける限り絵画的リアリズムは絵画に存在していない、と逆説的に示してしまうような事実のことを〈規定性〉のある「約束事」として保持している、ということだ。

いつでも私たちの視野は「中心となるもの」と、その「中心の周囲の

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汚い居酒屋と今にある未来 『未来』/ 湊かなえ

汚い居酒屋と今にある未来 『未来』/ 湊かなえ

年季の入った居酒屋が好きだ。

店内の隅々まで「汚さ」が行き渡ったような景観は、その「汚さ」自体がなくてはならない事実のように、「端正に」そこにある。

「汚いもの」にはきっと、誰かによる《過去の軌跡》を見て取れるから、なのだろう。

店内の壁に貼られたチラシやシールを見てみると、古ぼけて解読不能なものも多い。そして、「貼られた当初には、きっと誰かが必要に迫られて貼ったものなのだ」と、想像してみる

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『ホモセクシュアルな欲望』を読み解く vol.2

『ホモセクシュアルな欲望』を読み解く vol.2

以下の〈vol.1〉の続きです。
引用した文章をササっと読むだけでも気付きが多いと思います。

第3章 家族・資本主義・アヌスP79¶1
「資本主義というイデオロギーの最強の武器は、オイディプスをある社会的自然、ある心追を再構成させるがままにしておく。」

ホモセクシュアリティを弁明するために、古代ギリシア時代の文献をさかのぼることが多く、その迂回によって説明されうる。今となっては幻想的となった物

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『ホモセクシュアルな欲望』を読み解く vol.1

『ホモセクシュアルな欲望』を読み解く vol.1

1993年刊行の『ホモセクシュアルな欲望』には、一貫した《異性愛規範の問いただし》があります。
「問い直されるべきなのは、ホモセクシュアル側ではなくヘテロセクシュアル側である。」という主張です。

当時、この視点には目新しいものがありました。
しかしながら、それが今の我々の「無意識的な何か」になっているとは言えません。

30年前の著作ですが、そのような意味において(非常に残念であるという意図も込

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不自由な〈秩序〉について 「人類と哲学」/岡本裕一郎

不自由な〈秩序〉について 「人類と哲学」/岡本裕一郎

《人類の進歩》を、《哲学という明るみによって照らすこと》で、別角度からの学びを与えてくれる著作となってます。1章から8章に分かれており、明瞭な文章で、理解し易く書かれています。

こんな人におススメ!
・ホモサピエンスに興味がある
・哲学に興味がある
・どちらにも興味がある

以下、本著で印象的だった部分を解説しています。是非、拾い読みして頂いて、気になったら購入してみて下さい。

「本書は哲学の

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エヴァンゲリオンはロボットアニメ《ではない》

エヴァンゲリオンはロボットアニメ《ではない》

(庵野監督の)エヴァンゲリオンが完全に終焉してから、もう長い時間が経ったかのような、寂しいというよりは、遠い過去の歴史のように思える。

厳密に言えば、エヴァンゲリオンは終わっていない。エヴァンゲリオンという作品は、作品として残り続ける。しかしながら、「生命体」として実存する作品は、もう私たちの心の中に戻ってくることは無い。

エヴァは、本当に終わったのだと、そのような回想をすることで、より実感す

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私たちが生き延びている世界の中で 『地球星人』/村田沙耶香

私たちが生き延びている世界の中で 『地球星人』/村田沙耶香

「殺人出産」「コンビニ人間」の次に、『地球星人』を読了しました。

あらすじ:恋愛や生殖を強制する世間になじめず、ネットで見つけた夫と性行為なしの婚姻生活を送る34歳の奈月。夫とともに田舎の親戚の家を訪れた彼女は、いとこの由宇に再会する。小学生のころ、自らを魔法少女と宇宙人だと信じていた2人は秘密の恋人同士だった。だが大人になった由宇は「地球星人」の常識に洗脳されかけていて…。

私たちの周囲に存

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1日1個!認知バイアス! 『認知バイアス辞典』/情報文化研究所

1日1個!認知バイアス! 『認知バイアス辞典』/情報文化研究所

「認知バイアス」として日頃よく目にするワードとしては、《同調バイアス》などが挙げられると思います。

【同調バイアス】
周囲の複数他者による同調によって、他者の行動が自身の規範となること。

《どのような認知バイアスが存在して、それぞれがどのように作用し合うのか知りたい》といった要望に応えられるような、《認知バイアス》に関した助走的著作と言えると思います。

60もの認知バイアスに関して、自分の解

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ジェンダーの海から自分らしさを見つけたい

ジェンダーの海から自分らしさを見つけたい

なぜ
《「自分らしさ」に疑問を抱えるのか?》
《「自分らしさ」に納得するのか?》
《「自分らしさ」に振り回されるのか?》

***

「自分らしさ」が起点の思案は、常に外部に接続された自己が、その外部の広い範囲を占めている《分からないもの》に翻弄されていることの証明ほかなりません。

外部に全ての真実が包摂されているわけがない、と理解しているつもりでも、人というものは《他者》や《自分以外》のモノを

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童貞が世の中を退屈にし、退屈な世の中は「普通」を「普通じゃない」ものにする。

童貞が世の中を退屈にし、退屈な世の中は「普通」を「普通じゃない」ものにする。

童貞とは、性にまつわる特性を示す言葉ではない。この世の中に対し、情報知覚的に《挿入》していない(参画していない)人の比喩である。
知らないということが、いったいどういう状況なのか、何が問題なのか、明確にさせてくれるのがこの本だ。

異質的存在として写る著者だが、異質という存在を「異質」という言葉によってゾーニングすることは、全く問題がないことなのか?

異質だとゾーニングするのは、《ゾーニングしな

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医学史に燦然と輝く隠された主役、ペイシェントゼロ『0番目の患者』/リュック・ペリノ

医学史に燦然と輝く隠された主役、ペイシェントゼロ『0番目の患者』/リュック・ペリノ

「病気を感じる人がいるから医学があるわけで、医者がいるから
人々が彼ら(医者)から自分の病気を教えてもらうのではない。」
ージョルジュ・カンギレム『正常と病理』

医療における診断や治療に関する進歩については、まさに人類が累積した医学の知恵によるものであるが、その知恵は往々として、とある「患者」によってもたらされるものであった。

そのような「患者」は臨床現場での当たり前に対して、疑義を呈してきた

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